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ネイミックへの敬意と感謝の意を示した映像作成は、栃木ブレックスがどんな組織であるかを示すもの

青木崇Basketball Writer
ネイミック

 この栃木ブレックスのツイートを見たとき、すぐに浮かんだ言葉は"CLASS"、意訳するなら”一流の組織”というものだった。なぜそう思えたのか? といえば、チームに長年在籍し、貢献してきた人物に対してならばよくあるが、在籍期間の短いロール・プレイヤーに対する感謝と敬意を示す映像を作るのは珍しい。

 ブレックスは昨季のファイナルでアキレス腱を断裂したジェフ・ギブスの復帰に伴い、アンドリュー・ネイミックとの契約を解除する決断を下した。ネイミックはNBL最後となる2015-16シーズンの半分、今季の途中までと短い在籍期間だったが、チーム内やファンの間で愛された選手。オフェンスで目立つことの少ないビッグマンだが、リバウンドやディフェンス、チームメイトからのチャンスを確実に得点するという堅実さが持ち味のビッグマンだった。そんなネイミックに対して映像を作ったところが、ブレックスは一流の組織だと思えた理由である。広報の小野順一は、映像を出すに至った経緯をこう説明してくれた。

「今季序盤だけいたカイル・リチャーソンには写真だけだったかもしれないけど、軽くやったんです。チームとしては短期間の活動になったんですけど、元々エゴを出す選手でもないですし、チームのために頑張ってくれるというキャラクターももちろんわかっていました。NBLラストシーズン後半チームに入ってくれて、ライアン(ロシター)が試合中の肉離れで東芝(現川崎ブレイブサンダース)戦で離脱した時、最後のゲーム3とかもスタートで出て頑張ってくれたことがあるなど、1シーズン間が開きましたけどまたブレックスに戻ってきてくれて、短い間になってしまったんですけど、チームのために貢献してくれた彼へのリスペクト、感謝の気持を本人にもファンの皆さんにも伝えたかった」

ミシガン州大出身のビッグマンらしく、リバウンドでは強さを発揮し、貢献していたネイミック
ミシガン州大出身のビッグマンらしく、リバウンドでは強さを発揮し、貢献していたネイミック

 このようなことができたのは、昨季Bリーグが誕生し、各チームに向けたハイライト映像が毎試合後に送られるシステムができたことも大きい。オフェンス中心になるとはいえ、ネイミックのプレーをピックアップする形で作り、すぐSNSで発信するというスピード感は、ブレックスがコート上で見せるファストブレイクを彷彿させる。もちろん、ネイミックが素晴らしい人間であることも、ブレックスを動かしたことは言うまでもない。

 こんなエピソードがある。ネイミックは最近バスケットボールシューズを新しくしようとしたが、35cmのサイズは日本だとなかなか入手できない。そこで小野が自身のネットワークを使って手配すると、ネイミックはそのお礼として”メリークリスマス”と書かれたカードとともに、あるステーキ屋さんで使える5000円分のポイントが入ったカードをプレゼント。このお礼には小野も非常に驚かされたという。

 ネイミックが日本での生活をとことん楽しんでいるのはまちがいない。NBLのシーズンが終わった時はすぐに帰国せずに日本の各地を回り、今季も宇都宮市内を一人で散策することも多かった。「日本人との交流を楽しんでいる人」と小野が語るように、ネイミックのサインが多くの飲食店で飾られている。

 契約解除されたネイミックが今後、どのチームでプレーするかはわからない。しかし、彼が次のチームを見つけるのに時間はかからないと思っている。10月22日のアルバルク東京戦後、ネイミックはチームメイトたちが着替えを終えて帰宅の途につく中で体育館に一人だけ残り、30分以上ウエイトトレーニングを行っていた。故障から復帰して間もなく、コンディショニングを上げることに意味があったといえ、試合後にもトレーニングをするという姿勢は、ハードワークを厭わないことを象徴するシーン。チームが勝つためにダーティーワークで貢献し、人間としてもすばらしいことからすれば、ネイミックは今後もBリーグでプレーする機会があってもいい選手。ブレックスが作った映像は、そんなメッセージが含まれているような気がした…。

 

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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