Yahoo!ニュース

バスケットボールU19代表:延長にもつれたエジプトとの激戦を制し、世界の舞台でトップ10入り

青木崇Basketball Writer
延長で貴重な3Pを決めるなど、17点とだいい活躍した三上 (C)FIBA.com

韓国との激戦を制してから迎えたエジプト戦は、昨年のアジア選手権決勝の経験が生きた。その経験とは、イランと決勝を戦ったときにブブゼラや太鼓の音が常に鳴り響き、コミュニケーションで苦労する完全なアウェイだったこと。カイロ・インドア・スタジアムのホール2は、昨年のテヘランで体感した環境と非常に似ていたが、U19代表は試合の大半を落ち着いてプレイしていた。キャプテンを務める三上侑希は、次のように表現する。

「イランも同じようなアウェイで、声も聞こえないくらいだったんです」

西田優大の3Pシュートや増田啓介の速攻など、試合の入り方自体は決して悪くなかった。しかし、ショット・ブロッカーのアーメド・アボレラ・ムールシ・カラフがインサイドにいるエジプトに対し、日本のオフェンスは徐々にアウトサイドばかりになっていく。2Q中盤でカラフにあっさりフィニッシュされ、18対27とこの試合最大のリードを奪われた時間帯は、八村塁がオフェンスで仕掛けるシーンも非常に少なかった。日本にとって救いだったのは、非常に長かったシュートティング・スランプから三上が脱出したこと。「すごくうれしかった」とトーステン・ロイブルコーチが振り返ったように、5分5秒のタイムアウト後に右ウイングから西田のアシストで3Pを決めると、3分33秒にはファウルをもらい、ボールがリムに当たらないという正確なフリースローを3本成功。八村が2点に限定されながらも、前半を5点差で終了できたことは、日本からすれば上出来と言ってよかった。

「前半塁が4本しか(シュートを)打ってなかったから、もっとボールを回して塁を使うように言われたので、後半はそれを意識してやりました」と三上が話すように、後半最初のオフェンスで八村は、重冨との2対2からレイアップでフィニッシュ。三上もジャンパー、ピック&ロールのスウィッチで作られたミスマッチを突き、ドライブとフェイクを駆使してのレイアップを決めるなど、日本はオフェンスのリズムが徐々につかんでいく。ベンチ陣にもいいプレイが見られるようになり、水野幹太のドライブ&キックアウトをもらった杉本天昇が、左コーナーから3Pを決めて42対41とついに逆転。水野は残り24秒にも八村の3Pシュートをアシストした結果、日本の3点リードで3Qを終えた。

八村を休ませた4Q序盤、日本は杉本が3Pプレイとなるフローターを決めたものの、エジプトにドライブと速攻でフィニッシュされるなど、9-3のランで50対53と逆転されてしまう。しかし、この日のロイブルコーチはタイムアウトが早く、8分24秒に後半1回目を取った直後のオフェンスで、八村が短い距離ながら難しい体勢でのショットを成功。これで落ち着きを取り戻した日本は、増田の速攻や西田の3Pシュートなど、9-2のチャージで再逆転すると、残り30.6秒で64対60とリードし、勝利に近づいたかと思われた。

ところが、ここまで22本中19本決まっていたフリースローは、アウェイの雰囲気に飲まれたのか、2点差とされた直後の残り18.2秒で西田が2本とも外してしまう。エジプトはその直後、モハメド・ラフマンがドライブからフィニッシュして64対64の同点。日本が2度あった決勝のシュートを決めるチャンスを逃したため、試合はまさかの展開で延長に突入してしまう。嫌な形で追いつかれたといえ、延長開始前に増田が福岡大附大濠高の後輩である西田に笑顔で話しかけたシーンを見たとき、日本のメンタルは大丈夫だと確信した。

サイズで不利ながら増田は攻防両面で奮闘 (C)FIBA.com
サイズで不利ながら増田は攻防両面で奮闘 (C)FIBA.com

出来の悪かった韓国戦の借りを返すべく、増田は身長でも体重でも大きく上回るエジプトのフロントラインに対し、全身を使ってディフェンスし続けながら、13点、8リバウンドと自分の仕事をやり遂げる。土壇場でフリースローを外した西田もドライブのディフェンス対応をしっかり行い、八村はヘルプからのブロックショットやリバウンドでチームを助けた。延長開始から4分以上エジプトに得点を許さなかった日本は、2分2秒に三上がこの試合16点目となる3P、直後に増田も速攻からレイアップを決めたことで、70対64とオフェンスが2回ないと追いつけないリードを奪う。残り1分を切ってからのフリースローを3本落としたといえ、残り4.8秒に八村が2本とも決めたことで、日本は76対73で粘るエジプトを振り切った。

ロイブル(中央)の指揮で世界と戦えることを証明した日本 (C)FIBA.com
ロイブル(中央)の指揮で世界と戦えることを証明した日本 (C)FIBA.com

「まず最初に、言葉で表現するのが難しいくらい、選手たちをとても誇りに思う。このチームをコーチすることが楽しいだけでなく、世界のトップ10に入ることを達成できたことは本当に素晴らしい。日本にとっては一大ニュースだよ。最初から格好よく勝つことはできないと思っていたし、騒々しいホームの観客で埋まった状況でプレイするのは非常に厳しい。相手には強くて大きい選手がいるから肉体的な不利もあったけど、最後の最後で勝ち切った。フリースローの問題は解決しなかったけど、決めていればもう少し穏やかに終わっていたかな」

ロイブルコーチは苦笑いしながらも、延長の最後までタフに戦い続け、勝利を奪い取った選手たちを称賛。これまで戦ってきたチームと違うスタイルの相手であっても、スカウティングの内容をしっかり理解し、準備してきたことを遂行できた点で、日本はU19ワールドカップで大きく成長したと言っていい。FIBA主催の世界大会で最高成績だった1967年の世界選手権での11位を上回り、トップ10でフィニッシュできるということからすれば、このU19代表は歴史を作ったと言っていい。

後半にエンジンがかかり、18点、10リバウンド、4アシスト、4ブロックショットのダブルダブルを記録した八村は、「そんなこと今までの男子でなかったこと。日本のバスケットボール界のためにもやりたいし、こういった世界のいろいろな人が見ている中で、日本のバスケットボールをどう見せるかということで、明日も重要な試合になると思う」と、プエルトリコとの9位決定戦に勝ち、3連勝で大会を終えることに強い意欲を示す。17点と大活躍の三上も「歴史を作って日本に帰りたいです」と、ワールドカップを4勝3敗と勝ち越すために、最後まで全力で戦い抜くことを誓った。

スロースタートだったが、後半と延長で実力を発揮した八村 (C)FIBA.com
スロースタートだったが、後半と延長で実力を発揮した八村 (C)FIBA.com
Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事