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Bリーグの1部残留をかけた一戦で、ワイルドな若者から信頼できる司令塔に成長したことを示した宇都

青木崇Basketball Writer
ナッシュアシスタントコーチと喜びのハグをする宇都  (C)B.LEAGUE

「野生動物のようにワイルドだった」

富山グラウジーズのボブ・ナッシュコーチがこう語るように、大学時代とトヨタ(現アルバルク東京)時代に見た宇都直輝は、正にワイルドという表現がピッタリなプレイをする選手だった。感情を表に出す熱さとアブレッシブさは、宇都のいい部分でもあると同時に、レフェリーと戦ってしまうといった悪い部分を呼ぶ一因にもなっていた。

しかし、B1残留をかけた横浜ビー・コルセアーズとの一戦は、司令塔として40分間冷静さを失うことなく、ゲームメイクにおける状況判断もよかった。両チームのファンが熱く応援する独特の雰囲気の中でも、前半終了間際にクリーンなブロックショットをファウルとコールされた際のリアクションを除けば、ゲームを俯瞰してながらプレイしていたというのが正直な印象。ナッシュコーチの「エナジーをコントロールする、行く時と行かない時、自分を出す時と出さない時というのをコントロールできるようになったというのが、チームとしてプラスになった」という言葉は、正にこの日の宇都を象徴するものだった。

宇都が精神面で成長したと感じたのは、1Qでの15点差を横浜に逆転された直後の3Q終盤、ドライブで一気にフィニッシュすると見せかけて、小原翼のジャンプシュートをアシストしたプレイ。流れが悪くなっていた中で、得点面での多くを期待されていない特別指定選手のルーキーを信頼したことは、今までと違いを実感できる典型例。宇都に変化が現れるきっかけとなったのは、チームが負けを積み重ねていた厳しい時期に、自身を見つめ直したことだった。

「ポイントガードは何なのかを自分なりに考えた結果、自分がしっかりしないと、たとえ年が一番下のほうだとしても、先輩にしっかり言ったり聞いたり、外国人選手とコミュニケーションを取らなかったりとか、そういうのを含めて自覚や責任を持ったところから、自分としては変わったのかな」

こう話す宇都の成長を助けたということでは、アメリカ人選手たちの存在も大きかった。マイアミ・ヒートでNBA制覇を経験したデクスター・ピットマンは、「私はこれまで、すばらしいポイントガードと一緒にプレイしてきた。彼にはBリーグでトップクラスの選手になれる可能性を秘めているから、メンタルの部分でよき兄貴のような存在になって、助けになれるように心がけた。彼のような派手なポイントガードとやるのは好きだし、私のプレイにも大きな助けになる」と話す。

ピットマンを富山に勧誘したドリュー・ヴァイニーも、「宇都は学ばなければならないことが多かったけど、ポイントガードのポジションをこなすということでは、いい仕事をしていた。私もチームも彼を誇りに思う。我々はシーズンを通して、彼をレベルアップさせるための助けになろうとしたし、アドバイスをスポンジのように吸収し、石鹸が泡立つかのように、それをコート上で表現できるようになったね」と、宇都の成長がB1残留に大きな意味があったことを認める。映像を何度も一緒にチェックしながら、コート上での視野を広げるためにどのようにゲームを見たらいいのか教えたという。

レギュラーシーズンの平均4.3アシストがリーグNo.1という数字は、宇都はポイントガードとして求められる堅実さを増し、ナッシュコーチから信頼される存在になったことを示す理由の一つ。チームが長期間低迷し、チャンピオンシップ出場争いに絡めなかったことへの不満はあるだろうが、自身とゲームをコントロール術を身につけたということでは、いいシーズンを過ごしたと言っていい。日本で数少ない大型ポイントガードとして来シーズン、宇都はどんなプレイを見せてくれるのか? 9月に開催されるアーリーカップが、今から待ち遠しいと感じているファンは少なくないだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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