10月に入って、アメリカの政治・経済・外交誌上でアメリカにとってのシリア紛争の「戦況」についての論考が目につくようになっている。最も目立つのは、『Newsweek』誌がシリアのアサド大統領の画像を表紙にし、ターミネーターの映画の宣伝よろしく「He’s Back」との見出しでアサド大統領率いるシリア政府の外交場裏への復帰を論じたことだろう。国際関係の舞台へのシリア政府の復帰については、9月末の国連総会の場でも観察されているが、上記で紹介した『Newsweek』の記事も、アラブ連盟へのシリアの早期復帰の可能性も視野に入れつつ、アメリカはUAEなどアラブ諸国を含む各国がシリアとの(主に経済面での)関係を再開・強化することを阻止しない・できない状況にあると指摘している。

 これに加えて、外交専門誌の『The National Interest』でも、アメリカは既にシリアで敗北したことを認めるべきだとの趣旨の論考が掲載された。この論考では、アフガン、イラクなどの中東におけるアメリカの戦争が「国造り」には失敗し、シリアにおいても同様に敗北していると指摘している。また、この論考は「親アメリカのクルド国家」の樹立を「ほぼムリ」と断じ、現在シリアでアメリカが肩入れしているクルド民族主義勢力への支援の困難さを強調した。この論考によると、クルド民族主義勢力を基幹とする「シリア民主軍」は、2018年にトルコがアレッポ県アフリーンとその周辺を占領した際にみられたようにアメリカの後ろ盾がなければ「数日で」勢力圏を喪失するそうだ。さらに、“(イラクやシリアにおける)「イスラーム国」はアメリカの問題ではない”と主張し、シリアにおける「イスラーム国」対策は、シリアの同盟国として勢力を伸ばすロシア・イランや、シリア領を占領しているトルコの問題としてこれらの諸国に任せるべきだと指摘している。なお、2018年あたりからのアメリカ政府の立場によると、アメリカ軍がシリア領を不法占拠して占領し続ける唯一の目的は「イスラーム国」対策なので、上記のような指摘を真に受けるのならばアメリカ軍がシリア領を占領している意義はないということになる。その上、「イスラーム国」をはじめとするイスラーム過激派と、地域における「反米国」を相互に争わせ、どちらかを完全に勝たせないように操作して「敵」をみんな消耗させるという政策的発想は、2013年ごろからアメリカの政策立案の近辺にいた人々がずっと持っている発想であり、「イスラーム国」対策を他の誰かに押し付けるという考え方自体は新鮮でも画期的でも効果的でもない。

 ここまで読むと、アメリカの(少なくとも一部の)認識が現実とは遠く離れたところに遊離していた状態の「夢」から醒めてシリアについて少しは現実に近い所に戻ってきてくれたと歓迎すべきかもしれない。しかしながら、シリアに限ってみるとアメリカの政策とそのための資源の投入量は、2011年以来「シリアの体制を打倒するなり、振る舞いを変えさせるなり、“シリア人民を救う”なりのためには過小、混乱や戦禍を長期化させ拡大させるには過大」なものに過ぎない。実際、上で紹介した2点の論考も、シリアについて「じゃあどうするの?」に何の回答もなく、シリア紛争を長期化させ、シリア人民の生活水準を下げるだけの経済制裁をどうするのか、シリア領を占領し続ける大義名分が無意味になった後に、(シリアから見れば)占領軍でしかないアメリカ軍の存在をどうするかについて何の示唆も提起もない。せっかくの論考だが、シリアに対する中途半端で無責任なアメリカ(と関係する報道機関や世論)の態度の焼き直しに過ぎないのは残念だ。

 そうなると、「いまさら」この種の論考が相応に権威ある媒体で出回ったのは何故か、を考えなくてはならない。アフガンやイラクの体たらくに鑑み、「そういう」記事を書くのが出版側や読者の需要に応えるという流行りを反映したものであるとは言えそうだ。だが、「じゃあどうするの」がない以上、アフガンからの撤退にまつわる「失敗」や、「テロとの戦いの開始から20年を経た現状」を踏まえた批判的ないしは自虐的な回顧以上の意味を見出すのは難しそうだ。おりしも、ジュネーブで国連が主宰する「シリア憲法について議論する委員会」の活動が再開した。しかし、この委員会に参加する「反体制派」側の委員や団体はシリア国内では何の影響力もない存在なので、ここで立派な「憲法」が起草されても現場でどうなるかについては留保をつけざるを得ない。最良の展開としては、ここで起草された「憲法」を契機にシリア領を占領する外国軍がことごとく消え去ることだろうが、それは望めそうもない。かくして、アメリカの対シリア政策は、これまでも、現在も、これからも(シリア人民の生活水準をおとすという意味で)フルアクセル、(紛争の解決やシリアの再建に向けては)フルブレーキという場所にとどまり続けるのだろう。