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<ガンバ大阪・定期便92>予感は現実に。坂本一彩の決勝ゴール。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
鳥栖戦に続き、浦和戦でもゴールを決めチームを勝利に導いた。 写真提供/ガンバ大阪

 J1リーグ第9節・浦和レッズ戦に向けて、坂本一彩は初めて足を踏み入れる埼玉スタジアム2002でのゴールを胸に誓っていた。試合2日前のことだ。

「僕、埼スタに行くのも、プレーするのも初めてなので、めっちゃ楽しみです。パナソニックスタジアム吹田も然り、お客さんがたくさん入るほどアドレナリンが出るし、何より前節のサガン鳥栖戦でやっと1点目が取れて気持ちが楽になった分、次も獲れそうだなって予感もある。っていうか、続けて獲れないと本物じゃないというか。たまたま決まったんでしょ、って思われるだろうし、継続して結果を残してこそ、信頼も得られると思うので。ようやく獲れた1点が本当の意味で自分を勢いづけるものになるように、浦和戦もどんな形でもいいから点を獲りたい。きっと、お客さんもたくさん入るんですよね? めっちゃ、楽しみです」

 3月末から連戦を戦ってきた中で、対戦相手に応じてチームとしての狙いを全うできている時間が増えていることにも手応えを口にしていた。

「鳥栖戦も準備期間はそんなになかった中で、個人的には監督が狙いとしているサッカーはすごく表現できたと思っています。数的優位になった展開とか、決定機の数を思えば、もっと決められたんじゃないかとか、僕自身の課題も色々とありました。でも、やろうとしていることをできている時間が長いのはチームがいい方向に進んでいく上で大事なことだし、ましてやそれが勝ちにつながったのはすごく自信にもなった。実際、今週も浦和戦に向けていい雰囲気で練習できたので。鳥栖戦とはまた違った難しい試合になると思いますけど、宇佐美(貴史)さんの前のスペースが空くように、1つ飛ばして前向きの選手を使おうとか、狙いとしていることをしっかり表現できるように、僕もしっかり自分の役割をすることと、チャレンジすることの両方を心掛けたいです」

 自身もそれまでとは少し違う心持ちで準備期間を過ごしてきたという。

「うまく言葉で言い表せないけど、点を取れて楽になったというか、すごい気持ちがスッキリしたような感覚があって。これまでなら、次の試合に向けた練習が始まる日は『次の試合では決めないとな』ってところから入っていたんですけど、今日は『今週も獲れそうだな』って思いながら練習ができた。何より鳥栖戦のゴールをファン・サポーターの皆さんを含めて、いろんな人が喜んでくれたのも嬉しかったし、連絡もたくさんもらって、いろんな人に期待してもらっていると感じられたのも力になりました」

 実際、鳥栖戦後には家族をはじめ、地元・熊本の友達や、小・中学生時に所属していたソレッソ熊本時代のコーチや仲間などからたくさんの連絡があったと聞く。チームメイトの松田陸からもここ最近はずっと「お前、いつ決めるねん」と声を掛けられていただけに、試合後すぐに届いたLINEが嬉しかった。

「試合が終わって携帯を見たら陸くんから『やっと決めたな。おめでとう』ってLINEが入っていてめっちゃ嬉しかったです。プロ1年目の22年も、何試合かJ1リーグに出してもらっていたとはいえ当時はまだ、チームメイトからいつ、決めるねんって期待してもらえるまではいってなかったというか。どちらかというと、周りの選手は僕がプレーしやすいようにサポートしてくれたり、温かく見守ってくれているみたいな感じでした。でも今年はもう3年目なので。プロ1年目のように助けてもらっているだけではいけないってことは自分でもわかっているし、周りからもいい意味で、ルーキーとか若手っていう目では見られていないので。陸くんのようにハッパをかけてくれる人が多いのも、期待してくれているからこそだと思うし、試合に出続けているからこそ出てくる言葉だと思うので。いや…たぶんですけど(笑)。自分ではそう受け止めていたからこそ、それが励みになっていたところもありました」

足元の技術、裏への抜け出し、思い切りのいい仕掛けで攻撃を彩る。足の振りの速さも魅力。 写真提供/ガンバ大阪
足元の技術、裏への抜け出し、思い切りのいい仕掛けで攻撃を彩る。足の振りの速さも魅力。 写真提供/ガンバ大阪

 もっともシーズン初ゴールが決まるまでは、第7節・北海道コンサドーレ札幌戦を皮切りに続けて先発を預かっているがゆえのプレッシャーも少なからず感じていた。第8節・横浜F・マリノス戦後、圧倒した試合展開ながら勝てなかった事実に「シュートまでいけても、惜しかったでは何も記録に残らない。持ち味もなかなか出せなかったし、チームの役にも立てていなかった」と自分に厳しい言葉を向けていたのも印象的だ。だが、同時に現状に焦らないこともリマインドしながら「自分の良さで勝負すること」にこだわった。昨シーズン、J2リーグのファジアーノ岡山に期限付き移籍をした経験も糧にして。

「去年、J2リーグでなかなか点が入らなかった時に、焦ったら負けというか、焦ったら自分を見失うし、いいことは何もないと気づいたので。今年はもし結果が出なくても、焦らずに、練習からとにかく自分のやるべきことをしっかりやろう、良さで勝負しようというマインドでいたし、それは先発で出ている中でも心掛けていたというか。課題は受け止めながらも、点を獲らなきゃダメだと自分を追い込むのではなく『入らない時は、入らないよな』っていい意味で開き直るくらいの感覚で練習に向き合うようにしていました。ちょうど連戦で、試合間隔が短くて考える暇がなかったのも良かったのかもしれません。自分も次、次、って気持ちになれたから」

 更に、ポジティブなマインドがもたらす効果を鳥栖戦で感じ取れたことにも背中を押された。

「確か、鳥栖戦のファーストシュートだったと思うんですけど、宇佐美さんからめちゃめちゃいいロングボールがきてシュートまで持ち込んだシーンがあって。相手に対応されてゴールにはならなかったんですけど、自分としては早い時間帯でシュートまでいく形を作れたことをポジティブに受け止められたことで、後の時間も気持ちを切らさずに戦えた。ああいうシーンを引きずらなくなったから、ゴールシーンにもつながったはずだし、後半、相手の退場にもつながったウェルトンへのパスのようにゴールに直結していくようなプレーも出せたんだと思う。そういう意味では、試合中にビビらずに、決まらないなら決まるまで打ってやる、狙い続けてやる、みたいな気持ちでプレーできていたのもプラスに考えています。とか言いながら鳥栖戦のゴールが取り消されていたらまた少し見えないプレッシャーが積み上がっていたはずですけど(笑)。だから決められたのは良かったんですけど…あのゴールの瞬間って正直喜んでいいのかわからないような感じだったんですよね。VAR判定にもなって喜ぶタイミングが難しかったから、とりあえず手を上げるくらいしかできなかった。だから、次はわかりやすく喜べるように、わかりやすくゴールを決めたいです」

 その言葉通り、浦和戦でも再び先発のピッチに立った坂本は78分、均衡を破る値千金のゴールを決める。中野伸哉から右サイドのスペースに送り込まれたボールを受けたウェルトンがドリブルで仕掛けてペナルティエリア内へ侵入。フェイントで相手をかわしてニアサイドに送り込むと、坂本が1トラップから右足を振り抜いた。

「前節も似たようなマイナスの形から決まったと思ったシーンがあったけど、オフサイドになってしまって。でも今日は落ち着いてゴールに流し込むことができた。あまりよく覚えてないんですけど、とりあえずゴール前だったので足を振り抜いたら、しっかり枠に飛んでくれた。めちゃくちゃ嬉しいです。立ち上がりから浦和にボールを握られましたけど、慌てずに戦えたし、この試合に向けて準備してきたことがしっかり出せた。このまま波に乗って突き進んでいきたいです」

 スタンドを真っ赤に染めた浦和サポーターを沈黙に陥れ、ガンバサポーターを歓喜に導く決勝ゴール。41377人もの入場者数を数えた埼スタで、「わかりやすく」ゴールネットを揺らした坂本はガッツポーズを作り、雄叫びを上げた。

ガンバユース出身。アカデミーの後輩たちの目標になれるように「もっともっと頑張ります」。 写真提供/ガンバ大阪
ガンバユース出身。アカデミーの後輩たちの目標になれるように「もっともっと頑張ります」。 写真提供/ガンバ大阪

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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