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<ガンバ大阪・試合リポート>名古屋グランパス戦で掴んだ8試合ぶりの白星。選手たちは何を思ったか。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
ゴール裏から届けられた、たくさんのサポーターの熱も心強かった。(筆者撮影)

 書き残したいことが多すぎて、どこを切り取ろうか、頭を悩ませている。

 開始3分に奪った、約4ヶ月ぶりのパトリックのゴールか。ファン・アラーノや食野亮太郎がサイドハーフで示した攻守の献身性か。15節・サンフレッチェ広島戦以来となる完封を実現した守備の固さか。ダブルボランチが示し続けた局面での厳しさか。トドメを刺した鈴木武蔵のガンバでの初ゴールとなるゴラッソか。

 試合後のミックスゾーンで向き合った選手たちの表情、言葉を思い返せば、殊更『どれか、誰か』に絞るのは難しい。だが、試合後のファン・アラーノの言葉を思い出し、それでいいのだと思い当たる。その全てが勝利には不可欠だったのだから。

「紙が表と裏があって成立しているように、サッカーも攻撃と守備は表裏一体。そういう意味では、僕たち攻撃の選手もできる範囲で守備のサポートをしなければいけないと思っていた。今日はそれを僕だけじゃなくて全員ができたのではないかと思う(アラーノ)」

 27節・名古屋グランパス戦。ガンバは前節から3名スタメンを変更して戦いに臨む。立ち上がり、スローインから名古屋のFW永井謙佑に裏を取られヒヤリとさせられたものの、その直後の3分。先制ゴールを奪ったのはパトリックだ。自身の仕掛けは相手DFに阻まれたが、こぼれたボールをすかさずアラーノが回収して左前にパスを供給。パトリックが右足を振り抜き、ゴールを捉える。

「監督から、これがファイナルのつもりで戦おうと言われていました。先のことではなく目の前の仕事に集中していました。ゴールシーンはその闘う気持ち、姿勢が乗り移ったゴール。1秒、2秒の判断で、あそこが戦うところ、自分が仕事をするところだと感じました(パトリック)」

「2試合、続けてアシストという形でチームのサポートができたのは良かったです。攻撃に入った時には常にフィニッシュだとか、攻撃の肝になるところに自分自身が絡めるように意識していました。得点シーンについては、練習や試合前にパトリックと話をし、彼からも『ボールを持った際にはスペースを活かしてゴールに直結するようなボールを送り込んで欲しい』と要求されていた中で、それがうまくハマったシーンだったと思います(アラーノ)」

 その後も攻撃の手を緩めない。ボールを持つ時間でも上回り、相手陣地でプレーする時間が続く。12分には、ダワンの縦パスを受けた食野がドリブルで仕掛けて前線にボールを送り込み、パトリックの落としをレアンドロがゴールに突き刺したが、残念ながらパトリックのポジションがオフサイドの判定に。18分にも枚数をかけた攻撃から、最後はダワンが齊藤未月とのワンツーからゴールに肉薄するも、相手DFに阻まれてしまう。

 24分の飲水タイムを挟んで以降は、相手にボールを持たれる時間が長くなり守備に回る時間が長くなったものの「粘り強く戦うことを忘れなければ必ずチャンスは来る。うちの前線にはタレントがいるから信じてやろう(松田監督)」という意思統一のもと試合を進め、1-0で前半を終了。後半も守備の陣形を崩さずに試合を進めながら、好機を窺う展開が続く。そんな中、60分には、右コーナーキックのこぼれ球に対し、下がりながらうまくボールを足下に収めたレアンドロ・ペレイラが右足でゴールネットを揺らしたが、VARの結果、オフサイドポジションにいた高尾瑠がボールに関与したと判断されゴールは取り消されてしまう。

「目の前をボールが通り過ぎた時に、オフサイドのポジションにいたのは自覚していたので足を出すつもりはなかったのですが一瞬、体が勝手に反応してしまって少しビクッとなってしまった。チームとしては大事な追加点のチャンスだっただけに申し訳なかったですが、切り替えてしっかり自分の仕事をしようと思っていました(高尾)」

 それでも、集中は途切れない。後半の飲水タイムで再び意思統一を図り、残りの時間帯も我慢強く試合を進めながら、時計の針を進めていく。

「ゴールが取り消されるなど、頭が熱くなってしまう状況はありましたが、みんなでコミュニケーションを取り、落ち着いて自分たちのサッカー、仕事にフォーカスを当ててやろうと仕切り直せた(パトリック)」

 試合を決定づける2点目を奪ったのは、72分からピッチに立っていた鈴木武蔵だ。GK東口順昭のパントキックをペナルティエリア手前で収めると、中央へ運んでコースを作り、ミドルレンジから右足を豪快に振り抜く。自身も待ち望んだガンバでの初ゴールは、コース、弾道ともに申し分のない、ゴラッソだった。

「押し込まれて厳しい時間が続いていたので、後ろを助けながらカウンターのチャンスではしっかり前で収めて後ろを押し上げたいと思いながらピッチに入りました。ゴールシーンは、収めて展開することも考えましたが、スペースがぽっかり空いていてシュートを打てる間合いだったので打ちにいきました。イメージ通りです。前節の試合後のミーティングで監督からも『もっと自分で仕掛けられたシーンもあったんじゃないか』という話があったし、僕自身ももっと自分で持っていくシーンを増やしたいと思っていました。今日は自分の得点というより、チーム全体として本当にハードワークをし、一つ一つの球際にしっかりいけていたし、そういう細かいところを徹底できたからこそ勝利につながったんじゃないかと思っています(鈴木)」

「ボールを持った瞬間、武蔵も見えたし、その隣に山見(大登)がフリーでいたのもわかっていたので、その辺りでごちゃごちゃっとなってゴールに近づけるといいなと思いながら蹴りました。僕のキックというより、二人のポジショニングが良かったからこそ生まれたゴール。すごいゴラッソで、展開的にもすごく助かりました(東口)」

 これで完全に相手の息の根を止めたガンバは、6分のアディショナルタイムを含めた残りの時間も危なげなく試合を運び、2-0で締めくくった。

「個人的には思うようにゲームに絡めていなかった時期もありましたが、チャンスが回ってきた時にいつでも戦える準備をしておかなければ結果は求められないと日々描きながらトレーニングに励んでいました。このままだとチームがさらに苦しい状況になってしまうと感じていたし、だからこそ今、自分がガンバを救いたい、ガンバの力になれるような準備を常にしておかなければいけないとも思っていました。僕は自分がどういう状況にあっても、常にチームの一部として戦っています。ガンバが好きだという気持ちに嘘はなく、だからこそ、ゲームから外れても、ガンバのエンブレムを背負って戦っているチームメイトを心から応援していたし、そんなチームメイトのことをモチベーション高く応援してくれているサポーターの皆さんにメッセージを送りたいと思いSNSなどの更新も続けていました。試合に出ていない時に自分がガンバの力になれる唯一の方法は、みんなをポジティブな気持ちにさせられるようなメッセージを送ること、サポートすることだと思っていました。そして、今日のように、自分がピッチに立つチャンスを与えられたら、今度はプレーで自分の思いを表現するために、みんなのために戦おうと思っていました。それがゴール、勝利という結果につながって嬉しいですが、まだまだ満足はしていません。この勝利を僕たちの始まりにしたいと思っています(パトリック)」

「監督が変わり、フォーメーション、立ち位置、戦術も変化した中で戦っている中で、自分が攻守に渡ってチームの力になれているのが素直に嬉しいし、何より今日の勝利をとても嬉しく思います。(前線のパトリックやレアンドロとの連携については)彼らは一人でもDFを引き寄せられる選手ですが、そういう選手が前線に二人いることでさらに相手に迷いが生まれ、集中が奪われているようにも感じますし、その分、僕たち周りの選手にスペースが生まれることも増えているので、僕らももっといいサポートができるようにしたいと思っています。長らく勝てていなかったからこそ、今日の勝利はとても嬉しいし、チームとしての戦い方に自信を持って次に進むためにもとても意味があるものだと思っています。ただ、僕たちにはまだまだ勝利が必要です。この先もしっかりそれを追い求めたいと思います。(アラーノ)」

「今のサッカーでは僕たちのポジションが泥臭く走って、守備をすることも課せられた責任の1つだと思っていました。最後は何がなんでも勝ちたいという気持ちが足を動かしてくれました。欲を言えば12分のシーンのように、攻撃でもああいうエリアでどんどんボールを受けて、仕掛けてゴール前に入っていくチャンスを増やせればもっと脅威になれるはず。そこはマツさん(松田浩監督)にも求められているので回数を増やしていきたいです。夏に加入して以来、試合にも使い続けてもらっていた中で、とにかくガンバの力にならなければいけない、何がなんでも勝利を引き寄せるための力にならなければいけないと思っていた中でようやく一つ、勝つことができました。ホッとしている気持ちも多少はありますが、大事なのは、この強度をこの先もどれだけ保てるかだと思っていますし、続けていかなければこの勝利も意味がないものになってしまう。そこは自分にもしっかり突きつけながら、しっかり体を回復させて、また次のアビスパ福岡戦でも勝ち切れるように準備したいと思います(食野)」

「監督が交代して2試合とはいえ、戦い方もはっきりしているし、自分に与えられた役割、仕事も明確だったのですごくやりやすかったし、先発で起用してもらっている以上、結果で応えなければいけないと思っていました。名古屋のキーマンの一人である相馬勇紀選手に深い位置まで入ってこられたり、そこに他の選手がついてくるようなシーンが多くなるとしんどくなるなと思っていましたが、(ゴールから)遠い位置からクロスを上げられている分には怖くはなかったので、ある程度は役割を果たせたんじゃないかと思っています。アラーノとの縦関係も前回よりスムーズだったというか…前節の広島戦では組むのが初めてだった中で特に守備の連携ではスムーズさを欠いてしまったけど、今日は2試合目ということもあり、また準備期間も少し長くとれた中で、比較的スムーズにやれたんじゃないかと思います。1つ勝てたことで気持ち的には少しホッとしていますが、まだまだ勝ち点を積み重ねなければいけない状況には変わりはないので続けていきたいです(高尾)」

「監督が交代し、戦い方も変わった中で、ここ2試合、チームとしての頑張りどころがはっきりしたし、前と、横とのお互いの距離も近い分、後ろから見ていてもそうそう崩れないだろうなというか、守備に対して自分たち自身が『固い』という印象を持ちながら試合を戦えています。守備、攻撃ともに、迷ったらこれをという立ち返れる戦術があるからこそ苦しい時間帯、展開でも踏ん張れているんだと思います。ただ、この2試合で確実に変わりつつある自分たちの雰囲気を確固たるものにしていくには次の福岡戦がめっちゃ大事になる。もう一度みんなで気持ちを締め直して臨みたいと思う。23節・京都サンガF.C.戦で勝ちを目前にしながら自分にミスが出てしまい、引き分けに終わってしまったことへの悔しさ、自分への腹立たしさを払拭するのは試合でしかないと思ってやってきました。未だにあの時の状況は頭に焼き付いていて、今日みたいに2点のリードを奪った終盤も、試合の締めくくり方は自分なりにすごく意識していました。もちろんミスはないに越したことはないけど、ミスをいかに自分の力に変えていけるかは自分次第。そういうものを重ねてチームを助けられるGKになっていけたらと思っています(東口)」

 それぞれに様々な葛藤を抱えながら、『どれか、誰か』ではなく、全員が役割に徹し、勝負にこだわり、戦って、掴み取った8試合ぶりの白星だった。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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