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<ガンバ大阪・定期便38>「嬉しくなかった」食野亮太郎の復帰後初ゴール。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
ガンバに復帰後、初めて先発した試合でゴールを叩き込んだ。 写真提供/ガンバ大阪

 J1リーグ23節・京都サンガF.C.戦を終えて、ミックスゾーンに出てきた食野亮太郎に笑顔はなかった。

「どんな形であれゴールが生まれたのは良かったですけど、チームが勝っていないので、全然嬉しくないです」

 ガンバ大阪への復帰が発表されて、公式戦2試合目。パナソニックスタジアム吹田でのリーグ戦初先発に期する思いは強かったと言う。直近のプレシーズンマッチ、パリ・サンジェルマン戦で久しぶりに『満員』のホームスタジアムを体感し、改めてガンバでプレーする幸せを感じ取っていたからこそ、ガンバ復帰の記者会見で口にした決意を、今一度、自分に突きつけてピッチに立っていた。

「3年前、海外に移籍させていただくことになって心残りだったのは、ジュニアユースから育ててもらったガンバにタイトルをもたらすような活躍をできなかったこと。しかもその海外で何ら活躍できずに、悔しい思いを持ってガンバに戻ってくることになってしまった。この悔しさをガンバのために戦う原動力にしなければいけないと思っているし、改めてこうして自分を呼び戻してくれたガンバに恩返しをするためにも、ガンバを勝たせられるゴール、アシストを決めたいし、周りを生かせるようなプレーを魅せられる選手になりたい。再びガンバのユニフォームを着て戦うチャンスをいただいたことに結果で応えなければいけないと思っています」

 この言葉にある『悔しい思い』というのは、海外で活躍できなかった事実だけを指しているわけではない。それよりもむしろ、19年夏に海外に渡ってからも繰り返し口にしていた、ある『目標』を実現できなかった自分が歯痒かった。

「こうしてガンバを離れた今も、僕はやっぱりガンバが好き。事あるごとに、思い出すのは全部、ガンバでのことで、やっぱり自分にはガンバの血が流れているんやなって思います(19年秋)」

「海外で『成功』と言えるような活躍をして、ガンバに必要としてもらえるような選手になってガンバに帰りたい。そのために今が踏ん張りどき。いろんなことを言い訳にせず、自分を成長させることが先決だと思っています(20年夏)」

「今の自分は、ガンバに必要と思ってもらえる選手にはなっていない。置かれている状況を変えるのは自分でしかないからこそ、しっかりやり続けます(21年春)」

 マンチェスター・シティからハート・オブ・ミドロシアン(スコティッシュプレミアシップ)への期限付き移籍が決まり、初ゴールを決めたとき。翌年、リオ・アヴェFC(ポルトガルリーグ1部)に期限付き移籍をすることが決まったとき。そして、海外では3チーム目となったGDエストリル・プライア(ポルトガルリーグ1部)で出場機会に恵まれず苦しんでいるとき。彼は自分が置かれている状況に関係なく常にガンバへの想いを口にし、『ガンバに必要としてもらえる選手になること』を心の支えにしていた。

 そうした中で決まったガンバへの復帰。それが、自分の思う移籍にはならなかったからこそ「男にならなければいけない」と言葉を続けた。

「自分の思いを汲んでもらって海外に行かせてもらったのに、移籍の時に口にしていたような『ガンバの名前を世界に轟かせるような活躍』とはほど遠い状況の3年間だったことを思えば、正直、自分からガンバに戻りたいなんて言える立場じゃないと思っていました。なのに、こうして『もう一回、ガンバに力を貸して欲しい』と声を掛けていただいてホンマに感謝しかないというか…その恩を返すためにも、男にならなアカンと思っているし、今度こそ結果で返さなアカンと思っています。それに、自分はもう24歳。ガンバを離れた時の『若手』と言われる年齢ではないですから。今のガンバの年齢層を見ても、先輩選手についていくだけの自分でいいはずがない。秋くん(倉田)、ヒガシくん(東口順昭)、宇佐美(貴史)くんらを中心としたチームの輪に積極的に加わって、発言もしていかなアカンと思っているし、後輩にも…僕が若い時にそうしてもらったように、必要な時に必要な言葉をかけて、彼らがのびのびとプレーできるようにしていきたい。ただ、それをするためにもまずは自分の結果がいる。じゃないと、何の説得力もないし、後輩たちが『自分も』と思うきっかけを与えてあげることにはならない。だからこそ、少しでも早く目に見えた結果を残したいです」

 京都戦で決めた先制点は、まさにそうした彼の思い、執念が乗り移ったゴールに見えた。正直、彼のプレースタイルを考えれば、この試合で任された『1トップ』に難しさを感じていた部分もあったはずだ。前半は思うように攻撃の形を作り出せなかったのも事実だろう。それでも精力的に前線で体を張り続ける中で後半、55分にはドリブルでの仕掛けからシュートを狙い、ゴールの匂いを漂わせると、その2分後の57分には、石毛秀樹のシュートを相手GKが弾いたこぼれ球に詰め、右足を振り抜く。こぼれ球への反応がゼロコンマ数秒遅れていたら相手GKも体勢を立て直したはずだが、その一瞬を見逃さず、泥臭くゴールをこじ開けた。

 もちろん、食野一人で奪ったゴールでは決してない。遡れば、小野瀬康介の右サイドでの積極的な仕掛けと一度は相手に渡ったボールをマイボールにした執着。奥野耕平から送り込まれたボールを食野が確実におさめて倉田秋に渡したこと。倉田がワンタッチでグラウンダーのクロスを送り込んだ判断。そこに走り込み、一度はシュートを弾かれながらも必死に足を伸ばして、ゴールを奪おうとした石毛の気迫――。そうした全員の執念が繋がって生まれたゴールだったことは食野も自覚している。であればこそ、試合後は悔しさを募らせた。

「海外では決まって、1-0の状況では明確に四隅を目掛けて蹴るとか、大きなクリアをするとか、時間を使うプレーを求められてきましたが、そこはチームによって違っていいと思うんです。過去、僕が見てきたガンバは、そういう状況になると引くのではなく一度高いところに押し込んで、揺さぶることをしてきましたが、それも1つだと思います。ただ、何を選択するにしても、チームとしての意思統一が必要なのは間違いないですから。でも今日は、相手が10人になってからの時間帯は特にチームとしての統一感が足りなかったし、それが土壇場で追いつかれてしまった理由だとも思います。そこは、改めてみんなでしっかり話をすべきだと思いますし、何より僕自身にも、2点目を取れるチャンスがありましたから。点を取った後に、自分で仕掛けてシュートを打ったシーンも、力のないシュートで相手GKの正面に飛んでしまったけど、ああいうのを決められるようにもっと自分を高めていかないといけない。また、僕のシュートシーン以外にも、チームとして何本かチャンスは作り出していたのでその数を増やすことを求めつつ、そこにもっと迫力を持って入っていけるようにしたいと思います。今日、決めたゴールはある意味、自分らしくないゴールでしたけど、ああいう形を増やしていかないと得点も伸びていかないと考えれば、嬉しいゴールにはならなかったけど1つ自分の成長を確認できたゴールだったので、これをちゃんと自分に刻んで、でも、もっとコンディションを上げて数字を積み重ねられる選手になっていきたいです」

ゴールを決めた後、「愛するガンバ」のエンブレムにキスをして思いを表した。写真提供/ガンバ大阪
ゴールを決めた後、「愛するガンバ」のエンブレムにキスをして思いを表した。写真提供/ガンバ大阪

 ゴールを決めた瞬間、駆け寄ったパナスタのホームゴール裏の熱気を久しぶりに感じられたことも、その思いを強くしたと言う。

「ゴールを決めたらサポーターの元に行こうとは思っていたんですけど走りながら、どうやって喜ぼうかなって考えていて、結果、ゴール裏までの距離が短くて考える時間もあまりなく、気づいたら3年前と同じことをやっていました。でも、声は出せなくても、久しぶりに一緒に喜べて幸せだったし、次は何がなんでもガンバクラップをみんなで出来るようにしたいです」

 今シーズン、自身に課した目標はゴール、アシストを合わせた『10スコアポイント』。残り11試合で決めるそれは全て「嬉しいゴールにする」ことを胸に誓い、食野は次なる戦いに向かう。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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