背後にいるサポーターの存在に心強さを感じていたからだろう。チームのピンチを気迫あるセービングで救ったあと、ホームゴール裏に向き直り、ガッツポーズを作った。

「後ろから力を与えてもらっていたし、サポーターと一緒に止めた感じがしたので、思いを伝えたかった」

 J1リーグ11節・北海道コンサドーレ札幌戦。スコアレスで試合が進んだ前半終了間際、ペナルティエリア内でのDFクォン・ギョンウォンのプレーがファウルとなり、札幌にPKを与えた。その瞬間、頭の中では「マズいな」という思いが過ったが、すぐに気持ちを切り替えたと言う。

「PKになったことは仕方がないし、その瞬間にやるべきことに集中しようと思っていました。相手のキッカーの分析は頭にも入っていたし、ガブリエル・シャビエル選手とはJ2時代にも対戦して、テクニカルな選手だと知っていたので、とにかく我慢することを心がけました。前半終了間際の時間帯で勝負どころだというのは感じていました。試合では得点、失点もあって、どれも重要なものですが、僕はいつもそれを決める、決められる時間帯も特に大事だと考えています。その中であの時間帯に失点するのと、0-0でハーフタイムに入るのとではかなり違ったはずなので、そういう意味では止められてよかったです」

 札幌のキッカー、シャビエルは蹴る瞬間、わずかに動きを止めてタイミングをずらしたが、その駆け引きにも動じることはなかった。

「PKになった瞬間から勝負は始まっていたので、相手の動きを含めて見落とすことのないように、情報を少しでも獲得できるように、シャビエル選手の仕草などもしっかり観察していました。結果論ですけど、あの瞬間にやるべきことに集中できたというか、そこにフォーカスして向き合えたことが止められた要因になったのかなと思います。あとPKはキッカーとか、GKが注目されがちですけど、PKを止めた瞬間、ペナルティエリア内に走りこんでいたのはハルくん(藤春廣輝)とかダワン、弦太(三浦)ら、ガンバの選手だけでしたから。札幌の選手より先に、僕が止める可能性に懸けて詰めてくれていたと考えても、チームとしての思いが集結して止められたシーンだったと思っています」

キッカーの動きをギリギリまで読んで、ゴールを阻止した。写真提供/ガンバ大阪
キッカーの動きをギリギリまで読んで、ゴールを阻止した。写真提供/ガンバ大阪

 この試合に限らず、14年にスタートしたプロキャリアでは、何度かPKを阻止してきた。レノファ山口時代に戦った16年の天皇杯2回戦・アビスパ福岡戦ではPK戦で2本止め、ファジアーノ岡山時代に戦った17年のJ2リーグ20節・松本山雅戦では試合中のPKを止めた。同19年、J2リーグ11節・東京ヴェルディ戦で止めたPKも記憶に新しい。奇しくもその際、キッカーに立った東京Vの端戸仁は今回のシャビエルと同じ左利き。似たような弾道のシュートを阻止したが、そうした過去の経験が自信になっているところもあるのだろうか。尋ねると、即答で「ないです!」と返って来た。

「PKが得意かと聞かれたら、全然です。実際、普段の練習ではバンバン決められていますしね。いつもシュート練習が終わった後に、3人くらいPKの勝負を挑んでくるんですけど全然止められへん(笑)。基本的にPKは決められる確率の方が断然高いんですけど、少しでも止める確率を上げたいですからね。分析したり、読み残しのないように相手の観察をして、ギリギリまで粘るんですけど、やっぱり難しいなっていつも思います。ただ、やっぱりなんやかんやいっても、やっぱり最後は気持ちだと思います。確かに、今回のシーンは19年と似たような状況でしたけど、同じ左利きやからと同じ方向に飛ぶとは限らないし、試合の流れとかスタジアムの雰囲気とかいろんなことを含めても、同じ状況は1つとしてない。そう考えても、その時々の状況が全てだと思っています。一応、データも頭に入ってはいるけど…札幌戦も、シャビエル選手だけじゃなくて他の選手の情報も入れていたので、正直、一瞬ごっちゃになり…どうやったっけ? って考えたりもしていました(笑)。ただ、僕はPKの時はいつも自分で責任を取りたいので、GKコーチの方は敢えて見ないんです。あそこに立つことを任された以上、全て自分の責任で止める場所だと思っているので、誰かに責任転嫁はしたくない。それにデータって、選択肢の1つであって全てではないので。さっきも言ったように、例えば過去のデータで全部(ボールが)左に飛んでいたとしても、同じように左に飛ぶとは限らない。そういう意味では本当に最後はその瞬間のディテールと気持ち。あとは、僕やチームメイト、サポーターの『決めさせてたまるか』という気持ちが勝ったんだと思います」

 意外だったのはPK後の、彼のメンタルの動きだ。得てしてサッカーでは、今回のようなビッグセーブによってチーム全体の士気がグッと高まり、GKも乗っていけるという印象がある。俗にいう『ノリノリ』状態と言おうか。実際、この日の一森も後半、ビッグセーブを繰り返し、チームのピンチに体を張ったが、そのメンタリティは想像とは違うものだった。

「プレーが乗っているように見えたのはいいことなんですけど、僕自身は逆にPKを止めたことで勝手に上がっていきそうなテンションを落ち着かせるのに必死でした。過去の経験から、常に冷静なマインドで試合を進めることが大事だと思っているので、試合前も、あくまでフラットに、テンションが上がりすぎてもダメだし、下がりすぎてもダメ、という状態を維持しているんですけど、それと同じような感じです。実際、後半に入るにあたっても『次の1本が大事やぞ』『冷静に、落ち着いて』という言葉を何度も自分に投げかけ、前半以上に緊張感を高めて後半に向かったし、試合中もスコアレスの状態が続いていたこともあり、DFラインには常に『後ろは粘るだけやぞ』という声を掛け、それを自分にも向けて、残りの45分を進めました」

 もっとも、札幌戦が終わった翌日、取材に応じてくれた一森が最初に口にしたのは、そのPKの話ではなく、チームとして感じた課題、自分自身に起きた『ミス』についての話だったということも伝えておく。

 試合を終えたその日のうちに、90分を通して映像で試合を見返したという彼はPKを止めたことよりも「勝てなかった」事実と要因にフォーカスをあて、次に目を向けた。

「改めて試合を見返して思ったのは90分を通して組み立ての部分でミスが多かったな、と。戦術的な提示をされていたのですが選手個々に技術的なミスが出てしまい、それによってチームがノッキングを起こしてしまって流れを掴めなかった。『ここでミスをしなかったら、相手が出て来にくくなっただろうな』とか、『もう少し丁寧にパスを通せたら、こちらが押し込む時間が増えて決定的なチャンスを作れただろうな』というシーンも多かったですしね。僕自身もPKのシーンは止められて良かったですけどそれ以外ではミスがあったのも事実で、もっとプレーの精度を高めて、自分たちのチャンスにつながるシーンを増やしたり、勝利につながるプレーをしなければいけないという反省が残りました。そういう細かい部分の精度を一人一人が高めていくことが今は大事だし、何よりそれを勝ちにつなげられるように続けていきたいです」

 その言葉に、サポーターやチームメイトとともに止めたPKを、勝利につなげたかったという悔しさを滲ませて。

背中に感じたサポーターの圧が心強かった。写真提供/ガンバ大阪
背中に感じたサポーターの圧が心強かった。写真提供/ガンバ大阪