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『倉田秋カップ』に込めた想い。ガンバ大阪・倉田秋は子供たちから刺激を受けて来シーズンへ。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
写真提供/ONE CLIP/ Ryo sato

 雪が散らつく寒さに見舞われた12月26日。19年1月以来、約2年ぶりとなる『株式会社Lilac presents 第3回倉田秋カップ』が開催された。(https://oneclip.co.jp/kurata-cup/)

「去年の半ば頃から新型コロナウイルスの状況を見つつ、今年は開催できるか、吹田市やスタッフと協議を続けてきて、結果的にいろんな縛りがありながらも開催できることになった。ほんまに嬉しい。関わってくださった全ての人に感謝しています。近年は倉田カップでシーズンを締めくくるのが自分の中では恒例となっていたというか。ここで子供たちと触れ合って初心に返るというか、フレッシュな気持ちでオフに入ることがプラスに働くのを実感していましたからね。本当のことを言えば、U-9とU-12の2カテゴリーで大会を開催するはずが、オミクロン株のこともあって最終的にはU-12だけになってしまい…楽しみにしてくれていたU-9の子供たちには申し訳なかったんですけど今回、いろんな感染症対策をしながら、吹田市のルールに則って安全に開催できたし、来年はまた新型コロナウイルスの状況も見ながら、通常の形に戻していけたらいいなと思っています(倉田)」

 発起人である倉田秋が自身の経験をもとに、初めて同大会を開催したのは、18年12月のこと。寝ても覚めても外でボールを蹴ることに明け暮れた幼少の頃の記憶は、プロサッカー選手になった今も忘れたことはなく、その『原点』を形にしようと考えた。

「幼少の頃からボールを蹴るのが好きで、それが『サッカー』と結びついたのは3歳の時。プロになりたいなんて全く思っていなかったし、ただただサッカーを楽しくできれば満足しているような子供でした。中でも一番好きだったのが、大会でプレーすること。どんな小さな大会でもいいから、練習とは違う緊張感でボールを蹴るのがめちゃ楽しくて、いつもと違うアドレナリンが出るのを感じたし、実際に戦った相手選手の巧さを知り、自分のレベルを感じて、また巧くなりたい!と思って練習することで成長できた。その時の経験から、いつか自分もサッカー少年たちが本気で戦える『大会』を開催したいと思っていました(倉田)」

 そうした倉田の思いもあってだろう。『倉田秋カップ』には単に参加チーム同士が試合をするだけではなく、細かな部分で彼のアイデア、思いが盛り込まれている。例えば、大会名に添えられたハッシュタグ「#ミスを恐れずチャレンジを続けろ」「#勝ちたいなら全力で楽しめ」も、サッカー選手としての倉田を支えてきたキーワードを言葉に変えたもの。また企画を考えるにあたって彼がこだわった「子供たちと一緒にボールを蹴る時間」が1時間も設けられているのも目を惹く。

「僕たちのプレーをデモンストレーション的に見てもらうだけではなく、一緒にボールを蹴る時間を大事にしたいなと。それによってプロサッカー選手のすごさを子供たちが肌身で感じられるだろうし、自分の物足りなさを実感することにも繋がるはずやから。だからこそ、大会の最後には約1時間、子供たちと同じピッチでボールを蹴る時間を作ってもらいました。毎回、子供たちは元気すぎるくらい元気やし、僕はシーズンオフ中ということで逆に自分が圧倒されないか心配ですけど(笑)、僕自身もしっかり体を作ってきたのでプロのスピードや強さをしっかり感じてもらえたらいいなと思っています。特にこの2年間はコロナ禍にあってサッカーのイベントやサッカー教室的なものも減ってしまっていますからね。実は僕も今回、いろんなふれあいイベントを考えていたんですけど全部は実現できずで…それでも去年は開催できなかったことを思えば、こうして同じ場所でサッカーができる時間が作れたのは進歩だし、今大会を通してより、サッカーって楽しい、面白いって思ってもらえたら子供たちのやる気やサッカー熱もさらに上がっていくんじゃないかと思っています(倉田)」

「真剣勝負でこそ感じられるものがある」と子供たちに全力で向き合った。 写真提供/ONE CLIP/ Ryo sato
「真剣勝負でこそ感じられるものがある」と子供たちに全力で向き合った。 写真提供/ONE CLIP/ Ryo sato

 今回は、ガンバのホームタウンを中心に、倉田の出身チームであるFC.ファルコンを含めた全8チーム、100名(U-12)が参加。また倉田の思いに賛同し「秋くんが声をかけてくれたので、二つ返事で参加しました!」と話したガンバの奥野耕平や、倉田のガンバユース時代の1つ下の後輩、松本光平(https://news.yahoo.co.jp/byline/takamuramisa/20200614-00183361)もスタッフとして参加し、大会に花を添えた。

「参加してくれた子供たちを見て、自分の小学生の頃と重なったというか。僕も小学生の時が一番純粋にサッカーを楽しんでいたし、結果にとらわれず、ひたすらボールを追いかけていたことを思い出しました。そういう意味では僕自身が子供たちとの触れ合いを通して刺激をもらいました。僕はまだ今も自分が夢を追いかけている状況で、子供たちから憧れられるなんておこがましいですけど、子供たちがJリーグでの僕のプレーを見てがっかりしないようにまた頑張ろうという気持ちになったし、何より僕自身がめちゃ楽しめました(奥野)」

「大会のゲストみたいな形で参加させてもらったのは初めてですが、僕の方がたくさん元気をもらいました。自分にとってもすごくいい経験になったし、ユース時代に憧れた秋くんに声をかけてもらったのもすごく嬉しかったです。当時から、秋くんは次元が違うくらい巧くて、一人だけ違う世界にいましたけど、子供たちもそんな秋くんのプレーを今のうちに体感できてきっとたくさんの刺激をもらったんじゃないかと思います(松本)」

 大会結果は、前回大会に続きフィオーレ大阪吹田F.C.が連覇を実現。また倉田、奥野、松本で選出した大会MVPには同チームの古賀颯真くんが輝いた。さらに個人賞として『倉田賞』には上田翔大くん(桜井谷東サッカークラブ)、小平壮次郎くん(FC.ファルコン)、『奥野賞』に兵頭瑛太くん(芥川Jr.ドリームス)、『松本賞』に的場翠さん(扇町サッカークラブ)が選ばれた。

株式会社Lilacの代表取締役社長・牧健人氏は、偶然にも倉田と同じ高槻出身という縁もあり今回の冠スポンサーに。 写真提供/ONE CLIP/ Ryo sato
株式会社Lilacの代表取締役社長・牧健人氏は、偶然にも倉田と同じ高槻出身という縁もあり今回の冠スポンサーに。 写真提供/ONE CLIP/ Ryo sato

 大会後、倉田は無事大会を終えられたことに安堵の表情を浮かべながら「やっぱり、サッカーは楽しいです」とニッコリ。新エンブレム、片野坂知宏新監督のもとでスタートする2022シーズンに向けて決意を言葉に変えた。

「クラブとしてもいろんなことが変化するシーズンになるからこそ、僕自身も生まれ変わるシーズンにしたい。これまでとはぜんぜん違う姿で、先頭に立ってチームを引っ張っていかなければいけないと思っています。そのためには常に自分が『チームの中で一番調子がいい』という状態を作り出さなきゃいけないし、そのことを意識したオフにしたいとも思います。もっとも、変わりたいと言ってすぐに変われるほどこの世界は簡単じゃないですから。新たな監督のもとでの新たなサッカーが最初から理想的に機能することはないと思うけど、とにかく大事なのはシーズンの終わりに上位を争う、しびれる試合を戦える状況に持っていけるように、キャンプからみんなでチームとしてのスタイルを追求し、共有していくこと。それをシーズンを通してピッチの上で表現することに全力を注ぎたい。もちろん、監督が変わるということはイコール、選手も一からの競争になるので、しっかり僕自身もアピールできるように、考えの考え、サッカーを頭で整理してプレーにつなげていきたいし、自分が一番に習得して周りを動かせるくらいのリーダーシップを発揮してやっていきたい。ヤットさん(遠藤保仁)が完全移籍でチームを離れることが決まった今、改めて自分が責任を持ってやっていかなアカンという思いもすごく強い。今日はその決意を自分の中でしっかりと確認出来る時間にもなったというか、子供たちの純粋に、まっすぐにサッカーを楽しむ姿、勝ちたいという思いで懸命にボールを追いかける姿を見て刺激をもらいました(倉田)」

 なお、今大会の協賛各社による収益の一部は動物好きで知られる倉田の希望により、これまで通り、動物愛護団体に寄付することが決まっている。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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