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<GAMBA CHOICE20>井手口陽介が担う『ガンバのボランチ』という責任。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
19年夏からはかつて今野泰幸が背負った『15』を預かる。 写真提供/ガンバ大阪

 19年夏にガンバ大阪に復帰した井手口陽介が、3年ぶりにJ1リーグの『開幕戦』を戦った昨年。フル出場を重ねながら中盤で示した存在感は、かつて海外に渡る前に在籍したシーズンを思い出させるものだった。圧倒的な運動量、球際で見せる強さ、ボール奪取力。ピッチのあちらこちらに顔を出しながらピンチを摘み取り、攻撃に転じていく様は『中盤のダイナモ』と呼ぶにふさわしい存在感で、彼自身もそれが武器だと胸を張った。

「チームでの役割を考えても、僕は走る役というか、汗かき役だと思っている。それが自分の良さだと思うので、そこは毎試合出し切りたい。どんな時も試合を観てくれている人に自分の『出し切った感』が伝わるプレーを魅せたい」

 後半戦に入り、『ガンバのボランチ』の象徴だった遠藤保仁が期限付き移籍でチームを離れた中で、チームが揺り動かされることなく勝利を重ねられたのも、ガンバのサッカーを司ってきたボランチの存在感が色褪せなかったから。井手口自身も改めて『ガンバのボランチ』を背負う責任を強めるとともに、その自覚を言葉に変えた。

「過去、ガンバの歴史を振り返っても、数々のタイトルを語る上で、ヤットさん(遠藤)やコンさん(今野泰幸/ジュビロ磐田)、ミョウさん(明神智和)ら、ボランチの選手の存在感は外せない。それはイコール、ガンバはボランチが安定してパフォーマンスを発揮し続けなければいけないということ。ボランチの出来が結果を左右するというくらいの危機感を持って戦っていきたいし、年齢的なことを考えてもチームを引っ張っていける存在にならなければいけないと思っています」

 だが、その意に反して井手口の21年は厳しく、悔しいシーズンになった。

「思う通りのパフォーマンスをできた試合は、ここまで1つもない」

 異例の連戦を強いられた中で、ボランチの組み合わせが定まらなかったことも影響したのだろう。中盤のバランスが崩れたと言わざるをえない試合も多く、その焦りがミスに繋がってしまう悪循環に苦しんだ試合も一つや二つではなかった。

 加えて、7月10日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)第6節の全北現代モータース戦での出場を最後に離脱が長引き、戦列復帰に1ヶ月以上の時間を要したことも大きく響いた。言うまでもなくシーズン中の長期離脱はコンディション面にも大きく影を落とす。事実、ほかならぬ彼自身が「上がっていかない自分」に苦しんでいた。

「ピッチに戻ってもどこか自分らしいプレーというか、運動量の部分を含めて上がりきらない自分を感じていましたし、何よりチームも勝てない時期が続いて…。明らかにボランチを預かる自分たちの不安定さがチームの戦いに影響しているのを感じていた。何とかせなアカンと思って、チームのトレーニングとは別に個人でプラスアルファのトレーニングをして体を動かし切るというか、追い込んで自分を疲れさせることで変化を求めたり、いろいろ取り組んでみたけど正直、すぐに効果が表れることもなく…。そんな状況でも次から次へと試合がやってくる状況に気持ちばかりが焦る感じもありました」

 陰での戦いを続けながら長いトンネルを抜け出したのは10月に入ってから。ピッチを縦横無尽に走り回るだけではなく、そこで『ボールを奪い切る』シーンが数多く見られるようになり、加えてチームとしても戦い方に割り切りが持てるようになったことで、井手口の存在感が際立つシーンが増えていく。彼がようやく『手応え』を口にしたのもこの頃だ。

「チームとしての狙いとか、時間帯によって守備に振り切るのか、攻撃を仕掛けるのかとか、ここぞという『狙い目』が揃うようになってきた。もちろんこれがガンバらしいサッカーかといえばそうじゃないですけど、J1残留が現実的な目標である今、みんながいい割り切りを持って、試合を進められるようになったし、自分の役割も明確になり、それが結果に繋がるようになってきた。チームとしての自信も取り戻せつつある気がします」

 その直後の35節・大分トリニータ戦で勝利を掴み『3連勝』を飾ったガンバは、3試合を残して『J1残留』を確定させた。

「去年もチームの調子がいい時にはある程度自分も安定したパフォーマンスを出せていたけど、チームの調子が良くない時には自分もその空気に巻き込まれてしまっていたというか。それは今年も同じで、チームが苦しい流れの時には、自分のパフォーマンスも決まって良くないという試合が続いてしまった。でも、理想は、ヤットさん(遠藤)みたいにチームの流れが悪い時にこそ、自分のプレーで軌道修正を図るとか、チーム全体を落ち着かせるなどの『舵取り』ができるようになること。そのためには、もっと周りを見れるようにならなければいけないし、切り替えの部分でテンポを変えるとか、ビルドアップからの過程でたくさんボールに触るとか、自分自身もボールを奪った後にもう1つ、2つギアを上げて攻撃に参加していけるようにならなればいけない。そこはガンバのボランチとして試合に出続けるには不可欠だと思うので備えていきたいです」

 これは25歳という年齢になり、『引っ張られる側』から『引っ張る側』に立場を変えつつあることへの自覚もあってこそ。かつては「ただのびのびと好きなようにプレーしていればよかった」が、今は違う。後輩選手も増えた中で年々、大きくなっている責任感を『結果』で示さなければいけないという思いも強い。

「アカデミーからトップチームに昇格した最初の4年間のうち、特に15、16年は天皇杯決勝とか、ACLとか上位を争う試合も多かったのに対し、今年は初めて残留を争ったけど、同じようにプレッシャーはかかるとはいえ、その中で見出せる自分の成長とか、大事な試合で起用されることで積み上げられる自信は、明らかに前者の方が大きかった。しかも僕の場合、それを19〜20歳という若い年齢で経験できたことが自分の成長速度を高めてくれた気もする。そう考えても…どの経験も無駄ではないと思うし、今年の残留争いによって備わった経験値もあるはずですけど、残留争いに巻き込まれた、イコール、個々の選手が本来1年で求められるはずのマックスの成長はできなかったはずなので。同じことをこの先、繰り返さないためにも、目の前の練習、1つ1つの試合から、もっと結果にこだわっていかなアカンし、そういう空気を強めていかなアカン。また、近年はシーズンごとの波も激しいからこそ、川崎フロンターレや横浜F・マリノスみたいに継続的にいいサッカーをしながら毎シーズン、終盤に上位を争っていられるガンバを取り戻したい。その楽しさを自分やチームの力にしながらタイトルにつなげていくのが理想です」

 もちろん、『ガンバのボランチ』を預かる責任をプレーの輝きに変えることを使命としながら。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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