「小野裕二がボールを持てば何かが起きる」

 8月6日の横浜F・マリノス戦でJ1リーグの戦いに戻ってきて以降、観る側にそんな期待を抱かせる『熱』のあるプレーが続いている。

 いや、驚きなのはことごとくその『期待』に結果で応えていること。マリノス戦では76分から約1か月ぶりの公式戦のピッチに立つと、その瞬間からフルスロットルで攻守に走り回り前線を活性化。アディショナルタイムには宇佐美貴史とのワンツーから左裏に抜け出し、豪快に右足を振り抜いた。残念ながらシュートは相手GKに弾かれたものの、限られた時間の中で終始、古巣を翻弄する姿は小野の復活を印象づけた。

「僕が入る直前に1-3にされてしまったのでとにかく点を取りに行くことを意識して入りました。後から入る選手が勢いを持って出ていくことで、先にピッチに立っている選手も一緒に体が動いたり、ということもあるはずなので。ただゲームを変えきれなかったというか、負けてしまったのは非常に残念。ああいうところで追いついて勝ち点1を獲ることにもっと拘っていきたい」

 この日は高校3年生だった10年に同じピッチでプレーした松田直樹さんの命日から2日後の試合でマリノスの選手は喪章をつけて戦っていたが、小野もまた特別な思いがあったと明かしている。

「ガンバの選手としてピッチに立つ以上、試合中はガンバの勝利だけを考えて戦いましたが、マリノスが自分のサッカー人生においてとても特別なクラブだということは、どこでプレーしていても変わらないこと。僕が高校3年生の時にJ1リーグに出させてもらい、マツさんとも一緒にプレーさせてもらった。勝負へのこだわり、プロとしての振る舞いを含め正直、当時はわからなかったことも、プロになり10年以上の時間が過ぎた今なら『こういうことだったのか』と気づくことが多い。だからこそ、自分をもっと、もっと奮い立たせて上を目指さなければいけないと思っています」

 その「もっと、もっと」という想いも、小野を走らせているのかもしれない。マリノス戦から3日後に戦った徳島ヴォルティス戦でも2点のビハインドを追いかける展開の中、71分からピッチに立った小野は、91分にハーフウェーライン付近でボールを奪い、絶妙なスルーパスでチアゴ・アウベスのゴールを演出。さらに翌節の清水エスパルス戦でも、スコアレスの状況下、72分から出場し、山見大登の決勝ゴールにつながる縦へのロングパスを送り込んだ。

「練習はそこまで一緒にやっていなかったけど(山見も出場していた)天皇杯の関学戦を見ていたので、どういう選手なのかはだいたいわかっていました。試合前には『こういう場所にパスを出すから』『俺がボールを持った時に前を向いてくれたら出すよ』という話をしていて、あのゴールシーンもうまく意思の疎通ができた。僕のパスが良かったというより、山見の技術で相手を交わしてシュートというシーンだったと思いますが、チームとしては、あのシーンのようにまずは相手の嫌なところにボールを置くことをもっと意識したい。あそこでボールを下げてしまうのは簡単だけど、あくまでそれは最終手段。サッカーの本質はゴールを狙う、ゴールを獲ることにあるからこそ、そこから逆算して何をすべきかを考え、プレーを選択するのが大事だし、チームとしてもそういうプレーを増やしていきたいと思っています」

 清水戦は終盤までスコアレスの状況が続き、次々と『攻撃』のカードが切られた中で小野は右ウイングバックを預かったが「ベルギーでプレーしていた時代に右サイドバックを経験していた」からだろう。ポジショニングには注意を払いながらも常に前へ、という意識がゴール、勝利を引き寄せた。

 そうした戦列復帰の過程において、出場時間とともに積み上げているのが『自信』だ。

 昨年9月に右膝前十字靭帯の大ケガを負った小野は、今年6月の天皇杯で一度は戦列に復帰したものの、AFCチャンピオンズリーグ第3節のチェンライ・ユナイテッドFC戦で左太もも裏を痛めて再離脱に。その復帰にあたっては多少なりとも再発への不安、怖さがあったと認めながらも、少しずつ『自信』を取り戻せていると話す。

「チェンライ戦でスタートから出場した際に、軽く筋肉の張りを感じて…右膝のこともあったのでコーチングスタッフ、メディカルスタッフとも話し合って慎重にというか、自分がいい状態を作ることを最優先でやらせてもらいました。8年くらい前に左膝の前十字靭帯を痛めた時にも、復帰後に筋肉系のケガが増えた経験から、ちょっと敏感になったところもあります。また今シーズンは連戦で、ACLの後もずっと試合が続くと考えても、無理に復帰して、また長期離脱になってチームに迷惑をかけるより、一度自分にブレーキをかけて、また戻ってこようと考えました。そこからようやくマリノス戦で復帰して…正直、怖さは全くないと言えば嘘になるけど、出場時間を重ねていくことによって徐々に消えていくはずだし、同時に自信も積み上がっていくと思っています」

 8月25日に戦った横浜FC戦。J1リーグでは今シーズン初の先発出場となった小野は、1点のビハインドを追いかける展開の中、後半開始早々にゴールを挙げた。セットプレーからの展開を頭で押し込んだ、今シーズン初ゴールだった。

「真ん中で相手のGKを含めてごちゃごちゃっとなって、ボールが高く浮いた時にいち早く反応して枠を捉えられた」

 残念ながらチームの結果にはつながらなかったものの、またしても小野の『熱』は、期待を裏切らなかった。