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遠藤保仁が『J1昇格』に不可欠だと話す、イメージの共有。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
3月16日に遠藤保仁の著書『戦い抜くメンタル』が発売。写真提供/11aside

「内容としてもたくさん攻撃チャンスを作れた試合。シーズン序盤は早めに勝っておいた方が流れを引き寄せやすくなるので、チームとしては少しほっとしたところもあるかもしれない」

 J2リーグ第3節の水戸ホーリーホック戦。コーナーキックで先制点をお膳立てしたジュビロ磐田の遠藤保仁は試合後、そう言って安堵の表情を見せた。

今シーズン、チームが目標に定める『J1昇格』には『安定』が不可欠だと考えていた中で、開幕戦のFC琉球戦では、再三にわたる攻撃チャンスを作り出しながら、得点も勝ち点も奪えずに終わっていた反省もあってだろう。水戸戦でも同じように攻勢に試合を進めながら、なおかつ、それを勝ち点3につなげられた事実を喜んだ。

「昨年、約半分、試合を戦って改めてこのチームに必要だと思ったのは、安定感。内容がいい試合を確実に勝ち点につなげていくことはもちろん、内容が悪くても最低でも勝ち点1を拾うような戦いを年間を通して続けられれば、常に安定して上位にいられるはずだし、そうなれば常に他のチームに対してもプレッシャーをかけながら試合を戦える。これはJ2リーグに限ってというより、『リーグ戦』という長丁場の戦いで上位争いをするための鉄則。そこは今シーズン、チームとして意識しながら戦っていきたい」

 その実現のために、今シーズンの遠藤が大事に考えているのは『イメージ』の共有だ。遠藤は磐田のサッカーについて、常々「選手が楽しめるサッカー」だと話しているが、それを本当の意味で楽しむためには、選手同士がピッチでお互いの考えをすり合わせ、同じ絵を描くことが不可欠だと話す。

「政一さん(鈴木監督)の理想とするスタイルは『守って勝つより、攻めて勝つ』こと。その実現には、ゴールを挙げるための攻撃の絵を、ピッチにいる全員が共有してプレーできるかが生命線になる。実際、ジュビロのサッカーには『この展開では誰かがここにいなければいけない』という決まりごとがなく、その都度、選手の判断が求められる。たとえば、直近の水戸戦で晃太郎(大森)がいろんなポジションに顔を出してプレーしていたのもそういうこと。それぞれの選手が、試合の流れを読んで頭を動かし、プレーを変化させて、『あいつがこっちに動いたのなら、自分はここにポジションを取ろう』という風に判断を変えながら、でも、その矢印はすべて攻撃に、ゴールを奪うことに向いている、みたいな。もっとも、イメージの共有さえできていたらOKということではなく、それを試合の中で形にし、ゴールにつなげていくには個々の質が求められますからね。僕も含めて個々の選手がプレーの質の向上はより求めていかなければいけない。また、シーズン序盤は特に、選手同士のピッチでの動きが合わないこともあって当然だけど、裏を返せば、イメージさえ共有できていたら自然と合ってくるものもあるというか。継続によって生まれるコンビネーションは必ずあるだけに、それを我慢強くみんなで求めつつ、仮にスムーズにいかない試合があっても、しぶとく勝ち点を積み上げられるような、そんなチームになっていきたい」

 とはいえ、遠藤自身はイメージ共有のための「特別な働きかけはしない」そうだ。最近、発売された著書『戦い抜くメンタル』でも語っている通り、これまで通り指示はあくまでピッチで、端的に。あとは普段の練習で感じ取っている周りの選手の思考やプレースタイルを頭に入れた上で、『プレー』でメッセージを送り続けるという。

「監督、先輩、後輩という上下関係はベースにありますが、フィールドに立てばそういうのは関係なく、みんなチームの一員。チームがひとつにまとまって試合に勝つためには年齢や立場を超えてフラットに話せる環境でなくてはいけないと思います。(中略)ですが、チーム最年長になった今も、みんなを集めて指示を出したりはしません。プレー中に選手2〜3人をつかまえて、前衛・後衛それぞれの攻守の意識を伝え、できるだけチームがまとまるように動くという感じでしょうか。一度の指示で大きな変化を起こすのは難しいですが小さな変化を少しずつ繋げていけば、自然とチームとしてのプレーも変えていけると思うんです(『戦い抜くメンタル』より抜粋)」

 また、J1昇格が決して簡単ではないことも、自分に課せられた期待の大きさも十分理解しているが、今のサッカーを突き詰めることができれば、自ずと結果がついてくると信じられるからだろう。昇格のための勝ち点を「最低でも75〜80」と描きながらも「先は長いから。今は数字を計算するより、チームとしてのイメージを共有して形にしていくことが大事」と涼しい顔だ。言うまでもなく、そこに自身の成長への欲をしっかりと抱きながら。

「41歳だから、若い選手に比べて劣るところはたくさん出てくるはずだし、肉体的な伸びしろもそれほど多くないと思う(笑)。でも頭の部分ではまだまだいろんな発見があるはずだから。サッカー選手に必要なのは、『心・技・体・脳』。フィジカルの部分で劣るところは必ず考えることや状況判断といった『脳』で補える。その部分は妥協さえしなければ絶対に伸ばしていけるし、それによる変化や成長もあるはずなので。常にいろんなことに興味を持ちながら、これまで見えていなかったことが1つでも多く見られるように、今シーズンもまたサッカーを楽しみます」

 衰え知らずの『サッカー』への探究心を携えて、遠藤保仁のプロ24年目のシーズンが始まった。

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『GIANT KILLING名シーンで振り返る 戦い抜くメンタル』

著 遠藤保仁

絵 ツジトモ

株式会社 講談社

人気サッカー漫画『GIANT KILLING』で描かれるシーンやキャラクターに自分を重ねながら、遠藤保仁がその時々の思いや現在の心情、サッカー感を明かす。サッカーファンのみならず、“ジャイキリ”ファンもまた違った角度で、漫画の名シーンを楽しめる一冊。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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