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<ガンバ大阪・定期便VOL.8>何度でも、何度でも。這い上がってたどり着いたJ1・300試合。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
今シーズンのJ1リーグにもチーム唯一のフル出場を続けている。写真提供/ガンバ大阪

 19節のサンフレッチェ広島戦で、J1リーグ通算300試合出場を達成した。

「大卒で5回も手術したことを思えば、よくここまでこれた」

 本人はサラリと言ってのけたが、その道のりは想像を絶する険しさだったに違いない。現に、09年にアルビレックス新潟でプロとしてのキャリアをスタートして今年で12年目。10年の左眼窩壁骨折と鼻骨骨折、11年の右膝前十字靭帯損傷、12年の右膝前十字靭帯断裂、17年に左頬骨骨折、18年の右頬骨と右眼窩底骨折と、聞くだけでも背筋が凍るような大ケガと向き合ってきた。その都度、体に入れられたメスは「もうサッカーができなくなるかも知れない」という恐怖心を乗り越えてきた証でもある。

「自分の精神的な未熟さによって負ってしまったケガもあるし、今になって思えば、自分に慢心があるときに大ケガをしてしまうことが多かった。そういう意味ではケガによって自分を律することを学びました」

 そう言い切れるのも、実際にそれらのケガに真っ向から勝負を挑み、乗り越え、ピッチに立ち続けてきたからだ。その中では繰り返し、自分が目指すべき姿、サッカー選手としてのあり方を設定し直し、より高みを目指すことも忘れなかった。18年、ワールドカップ・ロシア大会の直前に負ったケガを乗り越えて日本代表に選出され、同大会を戦い終えた直後に話を聞いた際、その目線がすでに次の目標に向けられていたことが印象に残っている。

「自分の中で目標の1つだったW杯に出場して改めて思ったんです。試合に出なきゃ意味がないと。あの舞台は特別なものでしたけど、僕は1試合もピッチに立てず…でも、それじゃあ試合に出ていた選手より、学べることは間違いなく少ないし、何より、自分が楽しくない。だからこそ、今はチームで一から出直す決意でまたサッカーと向き合ってます。他の日本代表選手のように、コンスタントにチームを勝利に導けるような絶対的な存在になって初めて日本代表のピッチを任される選手になれると思うから」

 「人生は何があるかわからん」からこそ、身近なところに目標を定め、1つ達成すればまた次の目標に向かう。ケガという、いつ、誰に起きてもおかしくないアクシデントに何度も直面してきた彼だからこそ、決して背伸びはせず、愚直に自分と向き合い、次なる高みを目指してきたのだろう。直近の20節・鹿島アントラーズ戦もそうだ。300試合出場を達成した広島戦でもビッグセーブでチームのピンチを救い続けた彼は、この日も冷静に試合を進めると、50分に味方のミスから迎えたMFファン・アラーノとの1対1の場面でも冷静に体を張り、ビッグセーブで味方を後押し。勝利を引き寄せる立役者になった。

「相手に抜け出されたときに、味方が戻ってくるのを待とうかなとも思ったんですけど、それができる距離でもなかったので、相手をうまく引き寄せた上で、シュートコースを消しながら前に詰めたことで止められた。ニアに倒れてはいたんですけど、体はファーに残し、でもニアに蹴られたら手でどうにかクリアしようかなと思っていました。長いシーズン、ゴールキーパーが踏ん張らなアカン試合もある。今日は自分の仕事がしっかりできたと思います」

 冷静に自分のプレーを振り返ると、最後には子煩悩な『パパ』としての優しい素顔をのぞかせた。

「今日は、試合前に(300試合の花束贈呈で)家族がお祝いしてくれたし、日頃から子供の前でいっぱい、いいプレーをしたいと思っているので、今日はうまいこと結果に表れてよかった」

 パパの背中を追ってゴールキーパーを目指しているという愛息への何よりのプレゼント。そして試合後には日頃から感謝の気持ちを示しているガンバサポーターと『ガンバクラップ』で喜びを分かち合った。実は、試合終了直後にはこの日の試合途中から巻いていたキャプテンマークを倉田秋に返そうとする姿も見られたが、この日の彼のパフォーマンスを讃えてだろう。仲間に促されて再びキャプテンマークを巻き直し、初めて『ガンバクラップ』の先頭に立った。

「普通にやったつもりが、みんなに(テンポが)早い、早いって言われました」

 この日、先発したメンバーでは最年長ながら、後輩に遠慮なくツッコミを入れられる。日頃から「ヒガシ」と呼び捨てにされるほど愛され、信頼を寄せられていることがうかがえるシーンだった。

 もっとも喜びに表情を緩めたのは、その日限りの話。戦いが終われば、また次へ。すでにその目は先を見ている。

「まだまだ、ここから」

 これまでも繰り返し口にしてきた、短いけれどとても深くて重い、その決意とともに。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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