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給付型奨学金の要件緩和でも厳しい子育て資金事情。多子世帯条件は必要か?

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
奨学金のイメージです(写真:イメージマート)

日本では従来主流であった貸与型奨学金から、返済不要の給付型奨学金の利用が増えています。今後さらに要件を緩和しようとしていますが、肝心な要件が厳しく、適用対象が狭い可能性があります。今回は、子育て支援である給付型奨学金の要件緩和について解説します。

■将来の学費負担が重く、子供を諦める残念な実情

筆者が、ファイナンシャルプランナーとして子育て世代の人生設計を手伝う際、大きなハードルとなり立ちはだかるのが学費です。

国公立に進学すると、4年間で250万円の学費が必要で、教科書や交通費が上乗せされます。人によっては下宿や一人暮らしの家賃と生活費も重なります。

筆者の場合、多くの相談者は私立大学進学者であり、皆さん国公立大学への進学は「行けたら親孝行」という感じです。現実には、私立文系、私立理系の方が進学可能性が高いためライフプラン上は、私立進学を前提に資金計画を立てます。

私立進学は学校と学部によりけりですが、筆者が利用しているライフプランニング・ソフトでは、私立文系は660万円、私立理系は830万円、私立理系大学・大学院では1200万円と予定します。ちなみに、国公立でも450万円ほどの予算を計画します。

都市部の場合、中学受験を念頭に子育てをされている場合が多く、中高私立進学費として6年で800万円の予算を準備します。これに、小学校3年間以上の中学受験塾費用がかかるため、300万円~400万円ほどの受験費用を見込みます。

筆者にライフプランを相談される家庭は、一般的な会社員や公務員のご家庭が多く、世帯年収で600万円~2000万円となります。どの家庭にとっても、子供の進学費用の負担が重く、子供を何人も育てようという意欲がそがれ、子育てに対する自信が無くなるようです。

一部に、何とかなるだろうという子だくさん家庭もいらっしゃいますが、そのような方はライフプランの相談にいらっしゃることは無いので、どのような資金計画かわかりません。

ただ、以前大学で教えていた際に、子だくさん世帯で育った学生が、親から兄弟姉妹の学費は、長男・長女が働き始めたら負担するように、と言われて愕然としたという事例がありました。従って、自分の兄弟姉妹のために20代、30代の収入が充当されてしまうというケースもあります。

■給付型奨学金、対象年収は380万円以下から年収600万円以下に緩和?

日本では返済不要の奨学金が存在します。給付型奨学金というのですが、令和3年度のデータで32万人が恩恵を受け、1,437億円が支給されています。進学先は、大学、短大・高専、専修学校です。

令和元年度のデータでは、給付対象者が3.7万人、給付総額139億円ですから、人数が9倍、給付額が10倍以上になっています。

筆者が、以前公立高校の進路指導の先生に聞いたときは、学年に1人いるかどうかの狭き門だったのですが、周知が進みたくさんの学生に利用されているようです。

なお、貸与型奨学金は令和3年度で、47万人に対し、2,780億円が貸与されていますから、給付型奨学金が急速に普及していることがわかります。

現在の給付型奨学金の親の収入要件は年収380万円以下ですが、今後は年収600万円以下になりそうです。年収要件は1000万円程度まで引き上げなければ、子育て資金難は解消できないでしょう。

今後、給付型奨学金の緩和の要件として、扶養する子供の人数が3人以上の多子世帯であること、理系や農学系を対象とするようです。

ただし、児童が3人以上の世帯は世帯全体の2.8%ほどしかなく、平均児童数が1.68人であることを踏まえると、ほとんどが対象外となりそうです。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h29.pdf

せっかく対象者を拡大するのに、多くの世帯は恩恵にあずかることができないようです。これでは少子化対策も形だけと言われてしまうでしょう。

■医学部地域枠の他学部展開で学費を実質無償化する

医学部には都道府県の医師不足を解消するため、学費を無償にする代わりに都道府県内で一定年数はたらくことを求める制度があります。

人口減少に悩む自治体は同様の制度を設けてもいいのではないかと考えます。

■教育資金対策は喫緊の課題

子どもの数が毎年のように減っています。収入が増えないのに子育て費用は上昇傾向にあり、ライフプランを考えるほど資金繰りが厳しいことを身にしみて感じます。

幼児教育の無償化、高等教育の就学支援など様々な施策が導入されていますが、将来の働き方に最も影響を与える大学進学資金の負担を軽減することができれば、もう一人子供を育てようと考える世帯が増えるかもしれません。

最近の日本の政策は、予算制約によって骨抜きにされることが多い印象ですが、未来の社会を支える少子化と教育資金の問題を早々に解決しなければなりません。

親が自分たちの進学資金に四苦八苦している様子を見て育ったら、その子供は将来子供を育てたいと思うでしょうか。

可及的速やかに子育て資金の負担を緩和しなければ、少子化に歯止めがかかることはないでしょう。それは、将来の国の財政問題にも直結してきます。

今後は、企業が優秀な学生の学費を負担して、卒業後に自社で数年働いてもらうようなギブアンドテークな仕組みが出てきてもいいのではないかと思います。

子育て政策は毎年の法改正で一歩ずつ進むようなスピードですが、速度を上げて子育て環境を改善して欲しいところです。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「保険チョイス」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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