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iDeCoの節税効果がなくなる場合。退職、出産、あと1つは?

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
画像はイメージです。(写真:アフロ)

以前、「iDeCo=節税商品」の誤解と真実を解説では、拠出金の所得控除は「節税」ではなく「課税の繰り延べ」であるとお伝えしました。

とはいえ、「節税」という言葉のほうが認知度が高いので、今回はiDeCoへの拠出による所得控除を節税という表現で進めていきます。

今回の話は、筆者への相談の特徴でもある「複合的なお金の相談」から、読者の皆様にも当てはまりそうな点を指摘いたします。iDeCoを始めるなら、この記事を読んでからをおすすめしますし、残念ながら節税効果が無い(少ない)パターンに当てはまっている場合は、拠出額の減額等を検討し、NISA・つみたてNISAなど他の投資への変更も視野に入れる必要があるかもしれません。

iDeCo節税の条件は「所得」があること

iDeCoには3つの節税があるとされています。(1)拠出額の所得控除、(2)運用益の非課税、(3)受取時の所得区分調整、となります。

(1)拠出額の所得控除

iDeCoの拠出額は小規模企業共済等控除という所得控除が使えます。確定申告や年末調整において所得控除により、所得税と住民税の税負担軽減が可能となります。ただし、この節税は最終的に受け取り時点での所得区分変更の効果がないと単なる課税の繰り延べとなります。より強力な節税メリットを検討されたい方は、既出のiDeCoより節税効果の高いユニクロ型確定拠出年金とは?を参照ください。

(2)運用益の非課税

運用では一般的に譲渡益の他に、元本確保型でリスクの低い投資先である預貯金の利息や保険の利益も非課税となります。運用益の非課税効果はほぼなくなりますが、(1)の拠出時点での節税メリットだけを享受し、投資先は元本確保型という選択もあり得ます。

(3)受取時の所得区分調整

日本の所得税は所得の区分が10個に分類されています。預貯金の利息は利子所得、保険の利益は一時所得か雑所得、投資信託等の利益は譲渡所得など、聞き馴染みのない分類が適用になります。※給料は給与所得という区分になります。

iDeCoの場合は、受け取りの方法で退職所得か年金等雑所得に区分されます。亡くなった場合は遺族の相続税の課税対象となる場合もあります。

iDeCoの受け取りは受け取り時点の収入によって税額が異なる総合課税という方式になります。従って、働いている場合は節税効果が薄くなり、働いていない場合は節税効果が高くなり、加入時点での節税を保証するものではありません。

iDeCo加入にあたり検討したい将来設計

さて、筆者にiDeCoの相談にお越しになる方は20代や30代が中心です。この世代の特徴は、これから様々なライフイベントが発生すること。iDeCo加入の際に注意喚起することとしては、「換金性がない」ことです。換金性がないと、結婚、出産、住宅購入、失業などいろいろなケースにおいて、支払いが必要であってもiDeCoのお金は使うことができません。

制度を理解している人でも、自分のライフイベントにまで考えが及んでいる人は少ない印象です。特に、子どもが義務教育を終了したあとの、高校・大学への進学のタイミングでは、資金繰りが赤字になる家庭がたくさんあります。

割り切って考えれば、お金が足りないなら奨学金を借りればいいのですが、高校の学費を奨学金で賄うケースは子どもの返済難易度は高いでしょう。大学の学費であっても平均給与が低下傾向の現状では返済に窮するケースもあるでしょう。

このように考えると、将来の資金繰りを把握する前にiDeCoを始めるのは、おすすめできません。考えてもわからない人や考えるのが面倒な人は、NISA・つみたてNISAにしておくと良いのかもしれません。

換金性は、金融商品選びにおいて重要です。一般的に安全性、換金性、収益性の3つを比較して金融商品を比較しますが、iDeCoの換金性はほぼゼロ。受け取れるのは老後、高度障害時、死亡時(遺族が受け取り)となります。

換金性がない代わりに、加入者の倒産隔離もされており、加入者が破産するなどした場合も、差し押さえられることがありませんので、ごく一部の人にとっては有効な財産保全の方法となる場合もあります。

iDeCo節税の効果がなくなる「退職」

前述の懸念をクリアした後でも更に注意してほしいのがこれから指摘する3つのパターンです。まずは退職です。退職と言っても色々なケースが想定されます。定年退職、国内移住退職、海外移住退職、会社倒産による失業、人員整理による退職、自己都合退職など。

たとえば、2021年の5月末で退職した場合、受け取る給料は1月から6月までの6ヶ月分です。iDeCoの所得控除は1月から12月までの収入に適用になります。7月から12月までの無収入期間は、年間収入を下げる効果があるため、節税効果が減少します。

転職ではなく退職である点に注意です。退職をすることで収入がなくなると所得控除の効果がゼロになる可能性があります。また住民税が非課税程度の収入(年収100万円程度)では、収入はあっても所得がありません。退職後、アルバイト収入などではiDeCoの節税効果は消失したままとなります。

いわゆる寿退職、出産退職、介護退職などの可能性がある人は、iDeCoを選ぶ優先順位は低くなります。純粋に投資目的(ガチ投資)であれば、運用益の非課税、商品変更できる、受取時の節税など加入のメリットはありますので、ご自分の加入目的を確認してください。筆者への相談では、なんとなく節税できそうだから検討したいという人がいらっしゃるので、同じ様に考えている人がいるとしたら、再考のきっかけとしてください。

iDeCo節税の効果が途切れる「産休、育休、介護休暇」

退職よりも分かりづらいのが、休業です。産前産後休業、育児休業、介護休業などいずれも休業となり給料は支払われません。健康保険や雇用保険から手当などは支給されますが、「失業状態」として支払われますから、非課税となります。

非課税とは所得税も住民税もかからない収入という意味ですから、iDeCoの節税効果も生じません。これから子どもを産み育てたいと考えている人で、産休・育休をとる予定の人は、休業期間中はiDeCoのメリットが享受できなくなると覚えておくと良いでしょう。

ただし、iDeCoのメリットが受けられないのは休業中のみ。復職後はiDeCoのメリットも復活しますので安心してください。

この視点で考えると、休業による無休期間を1月から12月までの一年間にしておく場合と、複数年にまたがって休業する場合で比較しておくと、休業前、復職後の節税メリットを比較できるでしょう。

iDeCoの効果が消し飛ぶ「住宅ローン控除」

最後が最もインパクトが大きいです。「家を買うの?iDeCoはやるな、NISAをやれ」川柳にしてみたのですが、住宅ローン控除を使っている人は所得税・住民税の節税効果が大幅に減る恐れがあります。

詳しい計算は次回以降に改めて、年収ごとに検証しようと考えておりますが、住宅ローン控除は「税額控除」、iDeCoの小規模企業共済等控除は「所得控除」と、概念が違います。税額控除のほうが強力です。iDeCoに加入している人が、途中で住宅ローンを借りた場合、住宅ローン控除の威力でiDeCoの節税メリットを失う恐れがあります。また、住宅ローン控除適用中の人がiDeCoに加入したとしても、意図した節税メリットが享受できない場合もあるのです。

お金の情報が学べない現実

いかがでしょうか。筆者は大学などでお金の授業や講義をすることが増えていますが、学校関係の方は先生も生徒・学生もお金に詳しくありません。一部の大学や短大ではお金の授業が単位認定されますが、一握り。お金について学ぶ機会はほぼありません。

今、日本銀行や金融機関が寄付講座を通じて金銭教育を実施しています。徐々に金銭教育に関する状況は変わりつつありますし、今後は学習指導要領の改訂に伴い、高校の家庭科の授業でもお金について学ぶことが増えると考えられています。学校であれば比較的フラットな情報を得ることができるのですが、一方で生徒・学生では情報を活用できる立場にありません。

社会に出てから民間のお金の講座を探してみれば、情報発信者目線で営業上有利になるような情報提供が散見されます。

もう少し、制度設計側からの情報発信や学校などでの教育を、責任をもって実施することが、日本人のお金に関するリテラシーを上げることにつながると考えます。制度メリットだけで判断せず、自分への適用可否も含めた検討など賢明な消費者になる努力も必要です。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「保険チョイス」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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