「iDeCo=節税商品」の誤解と真実を解説

画像はイメージです。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

「iDeCoを使って節税したい」という相談は、最近のFPへの問合せテーマの中で一定の割合を締めています。会社員や公務員の節税は、数えるほどしか選択肢がありませんので節税ニーズは大きいと感じます。

今日の日本における老後資金対策の柱となる自己責任型の投資の仕組みは、(1)企業型確定拠出年金、(2)iDeCo(個人型確定拠出年金)、(3)NISA、(4)つみたてNISAです。同じような制度と誤解されがちですが、それぞれ特徴が異なります。今回は節税商品と誤解されがちな(2)iDeCoについて、詳しく説明します。

iDeCoの掛金は節税ではなく課税の繰延べ

パソコンやスマートフォンでiDeCoと検索すると、「iDeCo 節税」などと表示されます。これは、検索エンジンで同様のキーワードで検索する人が非常に多いことを意味しています。

まずはじめに、iDeCoの掛金拠出による所得控除は節税ではありません。課税の繰り延べだ、とお伝えいたします。

節税というのは(1)一般税率よりも低い税率を適用させる、(2)所得額を圧縮することで実質税率を引き下げる、(3)納税額を還付する、などの手法を通じて納税額を減らしつつ財産を手元に残したり、個人や法人に移転することです。

iDeCoの特徴は一旦受領した給料や過去の蓄積である預貯金からお金を支払う、というお金の流れにあります。(2)の所得額圧縮に見えるのですが、個人に財産が移転していませんので、節税には当たらないと考えます。

iDeCoでは給料などで受け取ったお金を、「年金」という器に移す作業が必要です。年金に移し替えたタイミングで、「収入とはみなさない」という意味で所得控除ができようになります。

つまり、社会保険料の1つである厚生年金保険料や国民年金保険料の納付額が別枠を通じて増えたに過ぎません。社会保険料に類する支出となりますから、当然所得控除が適用になります。あなたなら、年金保険料を払って節税できたと喜ぶでしょうか

個人で受け取った資金を、わざわざ年金に移し替えているのです。年金ですから換金性がありません。自分の老後または死亡時に遺族がみなし相続財産として受け取るのみ。金融商品において大きなリスクの1つに「流動性リスク」があります。換金できない可能性と置き換えるといいでしょう。

いくら税金が安くなったとしても、自由に使えないお金は自分の財産と言えるのでしょうか。金融商品としてiDeCoをみるならば、優先順位は低くなるはずです。50年満期で絶対解約できない定期預金にお金を預けようと思いますか?

iDeCoの節税効果については、公的年金の個人積み立て部門に入金したことで、課税対象から外れるというのが筆者の見方です。つまり、積み立てたお金はあなたのお金ではありませんから、課税するのを一旦保留します、ということです。

iDeCoの公式サイトでは税金を「軽減」すると書いてあります。「節税」とは書いてありません。節税と謳っているのは、iDeCoの売り手である金融機関かもしれません。iDeCo口座開設を目的とした記事も多いため、節税と謳って口座開設を促す仕組みが散見されます。

自営業者やフリーランスの人たちで、もしiDeCoの投資先を元本確保型にしようと考えているのであれば、加入費用がかからず所得控除の利用できる国民年金基金に加入するほうがいいかもしれません。

課税の繰延べの効果は受取時まで続くが受け取りはどうする?

さて、所得税と住民税の課税を免れた(課税を一旦逃れた)お金は、iDeCoの加入者に支払われるまで課税対象となりません。従って、将来の一時金や年金の受け取りまで、課税対象とならないお金がコツコツ積み上がっていくことになります。

課税を繰延べた資金は、iDeCo口座を通じて投資信託などのリスク性の高い金融商品の購入に充てられます。※購入する商品は安全性の高い商品も選べます。

途中の運用を考慮しない場合、課税を繰延べ続けた資金は60~70歳の間に受け取ることになります。この時点ではじめて課税されるのです。従って、長い人ですと40~50年の間課税を繰り延べることが出来ます。

課税繰り延べの際、最も気をつけることは、受取時の税金を低く抑えることです。つまり、掛金の所得控除で繰り延べ続けた税率が10%だった場合、受取時に20%の税率で課税されてしまえばトータルで損になります。また、10%の税率で課税された場合は、節税効果はゼロであったということになります。必ずしも節税になるとは限らないのです。

iDeCoの資金を一括で受け取る場合は、所得税の計算上「退職所得」という扱いになります。年金で受け取る場合は、所得税の計算上「公的年金等に係る雑所得」に該当します。

退職所得を計算する場合、(1)退職所得控除、による所得の圧縮効果、(2)所得金額×1/2による所得圧縮効果、の二段階で所得圧縮が可能となります。そのため所得税の計算上、退職所得として受け取る場合は税額軽減のメリットがあります。

ただし、勤務先の退職金を受領する場合は、退職所得控除の枠がなくなる可能性もあります。退職金制度のある会社は企業全体の8割となりますから、考えていた退職所得控除が使えず結果として節税効果が低くなるという事例が将来問題になりそうです。

制度設計上、将来の税制は不確定とはいえ、現状の税制上の重要な説明事項として明示する必要があると考えられます。誰も指摘しないところに、制度の暗部を感じるのは筆者だけではないでしょう。

iDeCoの確実な節税メリットは運用益の非課税のみ

iDeCoの最も強力かつ唯一の節税メリットと謳って差し支えないのは運用益の非課税です。投資信託の譲渡益(値上がり益)と配当金は一般的な証券口座での売買であれば、約20%の所得税・住民税が課されます。

ところがiDeCoには途中の課税がありません。元金1000に対して、100の利益が出た場合、iDeCoであれば100が再投資に回ります。一般の証券口座であれば20が税金として徴収され、残りの80が再投資に回ります。長い運用期間中に100の利益が5回出るとどうなるでしょう。

iDeCo口座

元金1000+100+100+100+100+100=1500

一般口座の場合

元金1000+80+80+80+80+80=1400

節税効果による手取りの差

iDeCo口座1500-一般口座1400=100(運用益の非課税効果)

実際は複利計算のため少し複雑な計算になりますが、節税効果がおわかりいただけると思います。もっと大きな効果が出ると思っていた方には申し訳ないのですが、資金が数倍に増えない限り、税率20%の節税効果は大きくないかも知れません。もちろん、大きな節税だと前向きに捉えていただける方もいらっしゃると思います。感じ方は節税に対する感度の違いとなります。

念の為利益が出ない場合は、運用益自体が発生しませんから節税効果もゼロになります。

まとめ

iDeCoの税制についてまとめると、掛金については所得控除の対象となりますが、将来の受け取りに対する課税の繰り延べに過ぎません。厚生年金保険料や国民年金保険料と同じです。年金保険料を払って「節税だ!」と喜ぶ人は少ないのに、iDeCoの節税を喜ぶ人は改めて仕組みを確認したほうが良さそうです。

受取時の税制優遇については、一時金受け取りの場合は会社の退職金制度と併用した場合の試算をしたほうが良さそうです。制度同様自分で計算するのが当たり前ですが、勤務先であれば無料で相談できますから、会社から顧問税理士等を介して回答を得るのも良さそうです。

年金での受け取りについては、受け取るタイミングの働き方や年収によって有利な受取額が変わってきますから、iDeCoを受け取るタイミングで一時金、年金、一時金と年金併用などの判定を各自で行うべきでしょう。本来は、政府が責任をもって受け取りシミュレーションの仕組みをつくるべきだと思います。

iDeCoの加入者数は2021年2月時点で189万人です。なかなか加入者が増えない理由は、節税を煽ってもそれほどのメリットを感じていない可能性もあります。ただ、筆者が一番気になるのは「政府が信用できないから、iDeCoも信用できない」という相談者からよく聞く一言に集約されていると感じます。確かに為政者によっては、加入者を増やしておいて最終的に節税メリットをなくすというカードを出してくる場合もあるでしょう。

最後に、iDeCoはやらない方がいいと解説している記事に見えるかも知れません。しかし、資金にゆとりのある方は、是非取り組まれるべきです。後日解説予定のNISA、つみたてNISAは運用益の非課税を使った銘柄のスイッチングができませんので、運用益が常時非課税の面では非常に有意義な投資の器となります。筆者も数年前から少額ですが投資を続けています。iDeCoの最低拠出額は月々5000円となりますし、年払いも可能になっています。

節税メリットがなくても投資の仕組みとして「運用益が非課税」の特徴が有利だと感じたら、加入を真剣に検討されてはいかがでしょうか。