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北朝鮮に逃亡した米軍兵士、パスポート紛失を理由に米国行きの飛行機搭乗を免れる 韓国紙が報道

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
韓国・板門店にある非武装地帯の共同警備区域(JSA)、2023年3月3日撮影(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

朝鮮半島の南北軍事境界線上にある板門店の共同警備区域(JSA)を見学していた米兵が無断で北朝鮮側に越境した問題をめぐり、この米兵は強制送還される母国・アメリカ行きの飛行機に乗るのを避けるため、パスポートを紛失したと嘘をついたようだ。韓国紙コリアタイムズが19日、報じた。

米軍によると、この米兵は在韓米軍に所属するトラビス・T・キング陸軍二等兵(23)。2021年1月に入隊した騎兵隊スカウトで第1機甲師団に配属されていた。

在韓米軍に所属するトラビス・T・キング陸軍二等兵(米陸軍)
在韓米軍に所属するトラビス・T・キング陸軍二等兵(米陸軍)

キング氏はJSAを見学中の18日午後3時27分ごろに軍事境界線を越えた。

米軍の準機関紙、星条旗新聞によると、キング氏は昨年10月にソウルの人気ナイトクラブ街、麻浦区で数人に対して暴行を働いた。罪状を認め、天安市の刑務所で2カ月近く服役して7月10日に釈放されたばかりだった。そして、北朝鮮への逃亡前日の17日に本来はアメリカン航空の飛行機で米テキサス州フォート・ブリスに護送され、本国で追加の軍の懲戒処分を受ける予定だった。除隊の可能性があった。

コリアタイムズによると、キング氏は17日に京畿道平沢市の在韓米軍基地「キャンプ・ハンフリーズ」から仁川国際空港まで護送された。その後、憲兵の同行が認められなかったため、キング氏は1人で保安検査場を通過した。そして、搭乗ゲートに到着したものの、飛行機には乗らなかった。

仁川国際空港関係者はコリアタイムズの取材に対し、「彼は搭乗ゲートでアメリカン航空の職員に近づき、パスポートがないことを報告した。そして、航空会社職員の付き添いのもと、出発ゲートから外に戻ることができた」と説明、「(キング氏は)パスポートがなくなったと嘘をついたようだ」と述べたという。

コリアタイムズは「乗客が仁川空港の税関と出入国審査場を通過した後は、権限のある職員が承認した正当な理由がない限り、ターミナルに戻ることはできない」と指摘している。

同紙によると、キング氏は昨年10月8日に警察の器物に損害を与えたとして、今年2月に500万ウォン(約55万円)の罰金の支払いを命じられていた。また、昨年9月にも韓国人に対する暴行の罪で起訴されていた。いわくつきの問題ある米兵だったようだ。

キング氏が仁川空港を出た後、どのようにして板門店まで移動したのかは依然として分かっていない。板門店は空港から約85キロ離れたところにある。

コリアタイムズは「事前登録が必要なJSA団体ツアーへの参加も、北朝鮮への逃亡計画の一環だった可能性が高い」と指摘している。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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