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北朝鮮発射のICBM、韓国軍は「火星17」と推定

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
北朝鮮が11月18日に発射したと推定される新型ICBM「火星17」(労働新聞)

北朝鮮が11月18日午前に朝鮮半島西岸付近から、大陸間弾道ミサイル(ICBM)1発を発射した。ICBMは北海道渡島半島の西、約200キロの日本の排他的経済水域(EEZ)の内側に落下した。韓国軍は、このICBMが「怪物ICBM」と言われる世界最大級の「火星17」と推定した。北朝鮮国営メディアが明日19日に「火星17の発射成功」と公式に報道するのかどうか、注目される。

防衛省の発表によると、今回のICBMの軌道は飛行距離が約1000キロ、最高高度が約6000キロと推定され、今年3月24日に発射されたICBMと軌道がよく似通っている。いずれも通常より角度をつけて打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射されたとみられる。韓国軍は今回のICBMが飛行距離約1000キロ、高度約6100キロ、速度マッハ(音速)22と発表した。

11月18日に発射された北朝鮮の火星17とみられるICBMの飛翔イメージ図(防衛省)
11月18日に発射された北朝鮮の火星17とみられるICBMの飛翔イメージ図(防衛省)

北朝鮮は3月のICBM発射翌日、火星17の発射に成功したと発表した。しかし、韓国軍はこの時は新型の火星17でなく、既存の火星15と結論付けた。火星17のエンジンノズルが4個なのに対し、この3月に発射されたICBMのエンジンノズルは2個で火星15と同じだったことなどを理由に挙げていた。

しかし、韓国軍は今回のICBMが3月発射のICBMと軌道がほぼ同じだったのにもかかわらず、火星17と推定した。なぜか。韓国軍からの追加情報が待たれる。

韓国軍によると、北朝鮮は今年に入り、今回を含め、合計8回のICBMを発射した。2月27日と3月5日、3月16日には火星17を発射した。3月24日には北朝鮮は火星17と称するICBMを発射した(前述の通り、韓国は火星15と判断)。また、5月4日と25日にもICBMを発射した。

11月3日にも火星17と推定されるICBMを発射したが、失敗した。2段目ロケットの切り離し後に正常に飛行しなかったとみられている。このため、今回再発射を試みたようだ。また、アメリカ東海岸にも到達できる飛距離が十分だとしても、大気圏外に出たミサイルの弾頭が大気圏に再突入する際、高い熱と圧力にICBMの弾頭部分が耐えられるか。射程1万キロのICBMの場合、大気圏への再突入時には速度がマッハ24に達し、弾頭部分の温度は4000〜7000度の高熱に達するが、その状況に耐えられる「大気圏再突入」の技術を確立できているのかどうか。多くの軍事専門家は北朝鮮のICBMにはここに大きな課題が残っているとみている。

一方、米カーネギー国際平和基金のシニアフェロー、アンキット・パンダ氏は18日、NKニュースの取材に対し、「第1段エンジンと第2段エンジンの性能を単純に評価している可能性がある。 例えば、推力偏向を調整することもできたはず」と述べている。

●火星17とは

火星17は、朝鮮労働党の創立75年に合わせて2020年10月10日に平壌で開催された軍事パレードで初めて登場した。11軸22輪の過去最大の超大型移動式発射台(TEL)に載せられていた。

北朝鮮が11月18日に発射したと推定される新型ICBM「火星17」。2020年10月10日の平壌での軍事パレードで初めて公開された(労働新聞)
北朝鮮が11月18日に発射したと推定される新型ICBM「火星17」。2020年10月10日の平壌での軍事パレードで初めて公開された(労働新聞)

筆者が東京特派員を務める英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」の分析によると、火星17は全長約25~26メートルで直径は2.8メートル。2段式で液体燃料を使用する。火星15よりも全長が4~5メートル長く、直径も0.4メートル大きいとみられる。

ミサイルの大型化は、より破壊力のある大型核弾頭や、複数の核弾頭が独立的に個別の目標を攻撃できる「多弾頭独立目標再突入体」(MIRV)の搭載を可能にする。弾頭部とシュラウド(ミサイル本体と弾頭を大気衝突から守る上面カバー)がMIRVを搭載できるほど大きくなっている。火星17も、小型化した複数の核弾頭を搭載する「多弾頭」を想定しているとみられる。米議会調査局が4月に公表した報告書は、火星17について、アメリカ国防情報局の分析を引用し、「おそらく複数の弾頭を発射するように設計されている」と評価した。

北朝鮮の弾道ミサイルの射程(2022年度版防衛白書より)
北朝鮮の弾道ミサイルの射程(2022年度版防衛白書より)

防衛省の2022年度版防衛白書は、火星15の最大射程距離が1万キロ以上と推定している。これに対し、火星17は最大射程距離が1万5000キロに達すると推定されている。アメリカ東海岸にある首都ワシントンやニューヨークを十分に攻撃可能な射程だ。

●北朝鮮は「対立の受益者」

北朝鮮はかつてないほどの異例の頻度でミサイル発射実験を行い、強硬姿勢を強めている。北朝鮮の弾道ミサイル発射は国連決議に違反するため、国連安全保障理事会は今月4日、緊急会合を開いたが、拒否権を持つ中露の反対に遭い、またもや北朝鮮に対する新たな制裁を科すことはできなかった。北朝鮮のミサイル発射を含む軍事的な挑発に対し、米国も韓国も強力な「罰」を与えられず、手をこまねいているのが実情だ。北朝鮮は米国対中露の「対立の受益者」となっている。

「戦略・戦術兵器の実戦配備を不断に推し進め、戦争抑止力を一段と強化するために総力を集中すべきだ」。北朝鮮の金正恩総書記は9月8日、最高人民会議でこう述べた。

北朝鮮は同国の東西両岸など様々な場所から日本海と黄海、太平洋に向けてミサイル発射を繰り返し、戦略核兵器と戦術核兵器の実戦配備を急いでいる。このため、今後も短距離弾道ミサイルや中距離弾道ミサイル(IRBM)、ICBMなど韓国、日本、グアム、米本土を仮想標的としたミサイル発射を続ける可能性が高い。北としては核先制使用の戦争ができる実戦力を得て誇示したい。戦術核兵器搭載のための核弾頭のさらなる軽量化や小型化を目指し、7回目の核実験が予想される。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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