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金正恩氏の身にいったい何が起きているのか――ファクトベースでみる最近の北朝鮮の動向

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
北朝鮮の最高指導者、金正恩(キムジョンウン)国務委員長の身に何が起きているのか(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の最高指導者、金正恩(キムジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)の動向をめぐって、さまざまな情報が飛び交っている。

CNNは4月20日、金正恩氏が手術を受けて重篤な状態にあると報じた。その一方、韓国青瓦台(大統領府)の姜ミン碩(カンミンソク)報道官は21日、記者団に「現在までに北の内部に特異な動向は確認されていない」と述べた。

36歳の金正恩氏の身にいったい何が起きているのか。ファクトベースで最近の主な動向をみてみたい。

まず、北朝鮮の建国の父、故金日成(キムイルソン)氏の生誕記念日であり、北朝鮮が国を挙げて祝う4月15日の太陽節の祝賀行事に金正恩氏は姿を見せなかった。金正恩氏は2011年12月に最高指導者になってから毎年、太陽節に党や軍の幹部らとともに、祖父の金日成主席と父の金正日(キムジョンイル)総書記の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿に参拝してきた。しかし、今年の4月は初めての不参拝となった。実妹で党第1副部長の金与正(キムヨジョン)氏も参拝しなかった。

このため、金正恩氏の健康悪化を含め、何らかの異変が報じられてきた。心臓や脳、足首の手術など金正恩氏の健康状態について、さまざまな臆測や情報が飛び交ってきた。

白頭山を背景にして立つ金日成(キムイルソン)主席と金正日(キムジョンイル)総書記の絵(2019年9月、東京都千代田区の朝鮮総連中央本部内で高橋浩祐が撮影)
白頭山を背景にして立つ金日成(キムイルソン)主席と金正日(キムジョンイル)総書記の絵(2019年9月、東京都千代田区の朝鮮総連中央本部内で高橋浩祐が撮影)

●北朝鮮国営メディア、ミサイル発射についても報じず

また、北朝鮮は14日、短距離の巡航ミサイルを発射したとみられるが、国営メディアがこれについて一切報じていない。通常なら金正恩氏も現場に赴き、国営メディアもミサイル発射後に報じるところだ。

そして、日本海に面する東部江原道(カンウォンド)のリゾート施設群「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」の開発は、太陽節の4月15日までの完成を厳命され、この日前後に盛大な式典があるとの観測があったが、何もなかった。北朝鮮当局からの声明もコメントも出ていない。

金正恩氏が北朝鮮国営メディアに登場したのは、12日付の労働新聞が最後。前日11日の朝鮮労働党政治局会議の出席した際の動静が写真付きで報じられていた。

さらに、北朝鮮の朝鮮中央通信も同じ12日、金正恩氏が西部地区航空・反航空(防空)師団管下の追撃襲撃機連隊(攻撃・爆撃任務連隊)を視察したと報じた。北朝鮮関連の専門ニュースサイト、NKニュースは、金正恩氏が実際には10日に現地を視察したと伝えている。

韓国のデイリーNKは20日、金正恩氏が心血管疾患の手術を受けたのは12日で、術後の経過は良好だと報じた。

また、朝鮮中央通信は21日、金正恩氏がキューバのミゲル・ディアスカネル大統領の還暦の誕生日に当たる20日に祝電を送ったと報じた。最高指導者の健康不安説を打ち消し、通常業務に当たっていると示すかのごとく伝えられた。

このような状況下、米軍偵察機はここ一週間ほど北朝鮮の動向を探るために相次いで朝鮮半島の上空に飛行している。21日午前もE8CやP3Cといった偵察機が朝鮮半島上空に出動した。主に平壌周辺の車両の追跡や電波の交信状況などを分析し、普段と違うイレギュラーな動向がないかどうか監視しているとみられる。

金正恩氏はこれまでも長らく公式の場に出ず、突如として再び現れたことがある。例えば、金正恩氏は2014年9月から10月にかけ、40日間表舞台に姿を見せなかった。この時は足首の嚢胞(のうほう)を除去する手術を受けたとみられ、杖を持って公式の場に再び現れた。

●金正日氏死去は2日後に判明

北朝鮮の奥の院で起きていることをつかむのは常に難しい。金正恩氏の父、金正日総書記が2011年12月17日に列車の中で死亡した時、韓国やアメリカをはじめとする海外諜報機関は、情報を直ちにつかめなかった。2日後に北朝鮮の国営テレビが死去を報じるまで分からなかった。

2011年12月に死去した金正日総書記(写真:ロイター/アフロ)
2011年12月に死去した金正日総書記(写真:ロイター/アフロ)

まして、北朝鮮の最高指導者は同国国内では神格化されており、その健康や体調に関する情報は北朝鮮の国営メディアでもめったに報じられることはない。

北朝鮮の動向をめぐっては、常に臆測や噂が飛び交う。予断を持たず、ファクトを集めて事態を注視したいところだ。

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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