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アーセナルで構想外のエジル。「プレミアでも登録外」に英記者が語る今後の見通しは?【現地発】

田嶋コウスケ英国在住ライター・翻訳家
3月から出場機会のないアーセナルのMFメスト・エジル(写真:ロイター/アフロ)

開幕から1ヶ月半が経過したプレミアリーグ。フィールドの上では白熱した試合が続いているが、ピッチ外で注目を集めているのがアーセナルのMFメスト・エジルだ。

今シーズンはベンチ入りすらなく、プレー時間はゼロ。欧州リーグの登録メンバーからも外れ、20日に発表されたプレミアリーグの選手リストにもエジルの名はなかった。国内リーグと欧州リーグの両大会で登録外となり、少なくとも来年1月に移籍市場が再開するまで、アーセナルでプレーできないことになった。完全に「戦力外」の扱いだ。

元ドイツ代表MFが最後にプレーしたのは、3月7日に行われた昨シーズンのウェストハム戦。アーセナルでクラブ最高額となる週給35万ポンド(約4800万円=年俸にして約25億円)の超高額な報酬を手にしながら、来年1月までの10ヶ月間はトップチームのピッチに立つことはない。

こうした状況について、「まったく起用していない構想外の選手に、クラブトップの給与を支払うのは当然ながら意味がない。アーセナルは妥協案を探しているはず」と語るのは、英衛星放送スカイスポーツのケイビー・ソレコル記者である。気鋭のジャーナリストは、次のように言葉を続ける。

「アーセナルとエジルの契約は来年6月まで。残りの契約期間の報酬として、アーセナルは約1300万ポンド(約18億円)の大金を支払う必要がある。まったく起用しない選手に対して、だ。

アーセナルのクラブ幹部は、残り給与の一定額を支払う代わりに、契約を解除するオファーを出していることだろう。『ここで契約を打ち切れば、君は自由の身だ。どこに行っても構わない』と協議しているのではないか」

ソレコル記者の見解から、もう少し突っ込んだ内容で報じているのが、英紙デーリー・メールだ。

同紙によると、アーセナルはすでにエジルに契約解除の妥協案を示しているが、元ドイツ代表MFは申し出を拒否。契約最終日までの給与満額となる1300万ポンドは譲れないと申し出を断ったという。また、サウジアラビア1部アルナスルから2年契約のオファーが届いたが、こちらもエジルは拒否。アルナスルがアーセナルに提示した移籍金は、500万ポンド(約6億9000万円)だった。

エジルの考えはハッキリしている。スポーツサイト・アスレティックのインタビューの中で、「残りの契約をまっとうする。契約期間の最終日までアーセナルに残る。契約は尊重されるべき。わたしは決して諦めない。チームのために戦う」と語り、契約が終了する来年6月までチームに残留する意向を示した。報道によれば、北ロンドンでの生活に満足しており、出番はなくても契約期間は英国に留まる考えだという。

だがアーセナルは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う財政難に直面している。現在、プレミアリーグは無観客試合で行われているが、このままシーズンを通して入場収入がなければ、通常時に比べて9600万ポンド(約131億円)の減収になるという。マンチェスター・Uの1億1100万ポンド(約152億円)に次ぎ、プレミリーグでは2番目に大きい損失額だ。

当然、アーセナルは1月の移籍期間でもエジルの受け入れ先を探すことだろう。しかし、ここでも壁が立ちはだかる。ソレコル記者は次のように言う。

「移籍に向けて障壁は多い。アーセナルは放出したいが、この状況でエジルの受け入れ先が見つかるだろうか。移籍が実現するには、3つのハードルをクリアしなければならない。(1)移籍先のクラブが、半年以上プレーしていないエジルに先発の座を保証する。(2)その上で、彼の報酬を支払う。(3)そして、エジル本人が移籍に同意する。つまり、移籍先は彼がプレーしたいクラブでなければならない。この3点をクリアしないと放出できない。

しかも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、各クラブが財政面で甚大な打撃を受けている。分かりやすい例が、ウェールズ代表FWのガレス・ベイルだ。レアル・マドリードは戦力外のベイルをレンタルでトッテナムに放出したが、移籍後も報酬の40%を支払うことになった。アーセナルも似たような負担を強いられるだろう」

エジルが起用されなくなった明確な理由は明らかにされていない。コロナ禍で全選手に12.5%の給与カットを求めたクラブの方針に対し、元ドイツ代表MFが同意しなかったことが原因との見方は強い。もしくは、前線からの献身的な守備を求めるミケル・アルテタ監督の構想から単純に外れたとの見方もある。いずれにせよ、真相は闇のままだ。

「稀代の名手」と謳われたエジルも、まだ32歳。錆びつく年ではないだろう。筆者もピッチで躍動するエジルの姿をもう一度見たいが、本人の意向を踏まえると、アーセナルでの現状はかなり厳しいだろう。

はたして、出番のないまま来年6月の契約終了日を迎えるのか、あるいは移籍の道を選ぶのか──。エジル騒動は、どう決着するだろうか。

英国在住ライター・翻訳家

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍にあわせ、2012〜14年までは英国マンチェスター在住。ワールドサッカーダイジェスト(本誌)やスポーツナビ、Number、Goal.com、AERAdot. などでサッカーを中心に執筆と翻訳に精を出す。

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