丸くなったモウリーニョ。スペシャル・ワンは3年目のジンクスを覆せるか【現地取材】

ソン・フンミンを褒め称えるトッテナムのジョゼ・モウリーニョ監督。(写真:ロイター/アフロ)

あのモウリーニョが丸くなった──。ジョゼ・モウリーニョ監督がトッテナムの新指揮官に就任してから2ヶ月が経とうとしている。現地で取材をしていて強く感じるのは、56歳になったポルトガル人指揮官の表情と言動が非常に柔らかくなったことだ。

眩しいくらいにギラギラしていたポルト&チェルシー1次政権時代と、見るからにフラストレーションを溜め込んでいたマンチェスター・ユナイテッド時代。どちらの時代にもなかった柔らかな表情を、モウリーニョはトッテナムで見せている。少し前の顔つきと比べると、まるで別人のようだ。

11日に行われたリバプール戦でも、モウリーニョの行動に思わず目が行った。試合前、選手通路口に姿を見せると、エスコートキッズの頭を優しく撫でて挨拶。柔和な笑みを浮かべて、緊張のあまりガチガチの子どもたちを和ませていた。以前のモウリーニョなら、試合前の時点で「戦闘モード全開」。極限まで張り詰めた空気がこちらにも伝わってきたが、今はどこか肩の力が抜けている。

試合中も身構えるところがなく、後半にMFジオバニ・ロ・チェルソが決定機を外した場面では、ポルトガル人監督は悔しそうに両膝をついた。そして、苦笑いを浮かべると、第4審判に歩み寄って冗談交じりにパンチを浴びせた。この時、0−1で相手がリード中。マンチェスターU時代なら、タッチライン際に置いてあるペットボトルを思いっきり蹴っ飛ばし、いらだちを爆発させていたに違いない。

極めつけは試合後だった。勝利に沸くリバプールの選手たちがサポーターに挨拶を済ませた、その後のことだ。モウリーニョは選手通路口の前で一人待ち、引き上げてくるリバプールの選手一人ひとりに握手を求めていった。試合に敗れたモウリーニョが相手チームを激励するという、まさかの光景。筆者が思わず目を丸くしたのは言うまでもないだろう。少し前のモウリーニョなら考えられないことだ。

「モウリーニョも年をとったのかな」と、最初は年齢を重ねて丸くなったと思った。だが、決してそれだけではない。モウリーニョは、意識して心に余裕を持たせているようだ。

振り返れば、「俺をリスペクトしろ! リスペクトだ! リスペクトしろ!」と番記者たちに言い放ち、指を上下に降りながら会見場を後にしたのは、マンチェスター・ユナイテッド監督時代の18年8月。わずか1年半前のことである。

このときの会見で、モウリーニョは指を3本立てながら「この数字を何だか知っているか? 俺がプレミアリーグで優勝した回数だ」と記者団に言い放った。ちょうどその試合で、マンチェスターUはトッテナムに0−3の完敗。3失点したことへの批判を、モウリーニョはうまく交わしたつもりだったのだろうが、「こういう精神状態になると先は長くないな」と思った。案の定、その4ヶ月後にモウリーニョは解任された。

そもそも、「リスペクトしろ」と言い放ってしまう人物に、尊敬の眼差しを向けるのは難しい。会社や組織の中でこんなことを言ってまわる上司がいたら、思わず眉をひそめてしまうだろう。しかも、当時のモウリーニョは、公の場で自軍選手たちへの批判を度々口にしていた。ポール・ポグバ、ルーク・ショウ、アントニー・マルシャル、ロメル・ルカク、アレクシス・サンチェスと、数多くの選手が槍玉にあげられた。そんな高圧的な態度を取れば、求心力を失うのは火を見るより明らかだ。

モウリーニョを語る時、よく言われるのが「3年限界説」である。選手たちにムチを打ち、在籍したクラブにタイトルをもたらすことには成功する。しかし、ムチが激しすぎるあまり、選手との関係がちょうど3年で破綻する。3年目で職を追われるシナリオが、レアル・マドリード、チェルシー(2次政権)、マンチェスターUと、過去3クラブにわたり続いているのは決して偶然ではない。

マンチェスターUの指揮官を辞した18年12月から、ポルトガル人指揮官は1年ほど監督職を離れた。この間、思うことがあったのだろう。トッテナムでの監督就任時、指揮官は「これまで在籍したクラブで、わたしは過ちを犯していたことに気がついた。同じ過ちはもうしない。職を離れている間、自分自身のことを見つめ直した」と語った。

現場に舞い戻ってきた今、モウリーニョは変わった。トッテナムでは、更衣室で選手たちと冗談をよく言い合っているという。韓国代表FWのソン・フンミンも「ボスは優しい」と証言する。

もちろん、モウリーニョが身を置いているのは、結果がすべての「勝負の世界」である。優しいだけで監督は務まらず、ピッチに厳しい視線を向ける時もある。まだ在任1年目。真価が問われるのもこれからだ。

しかし、チームスポーツで成功を掴み続けるには何が必要か。穏やかな表情を浮かべ、語り口もソフトになった56歳の姿を見て、モウリーニョの意識の変化を感じ取った。

そう、失敗から学ぶこともまた、名将の条件なのである。