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ファン・ダイクは「世界最高のCB」。ファーディナンド、吉田麻也が脱帽する才能

田嶋コウスケ英国在住ライター・翻訳家
チャンピオンズリーグ(CL)のトロフィーを掲げるDFフィルジル・ファン・ダイク(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

「ファン・ダイクは今、世界最高のセンターバックだ」

そう言い切ったのは、元イングランド代表DFのリオ・ファーディナンドである。テレビ解説を務めた欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝で、「センターバックに必要な要素をすべて備えている。存在感、高さ、強さ、速さは特筆に値する」と賛辞を並べた。

実際、リバプールが2−0で勝利したCLファイナルで、DFフィルジル・ファン・ダイクの存在感は際立っていた。特に、試合の終盤にトッテナムのソン・フンミンが仕掛けたカウンターへの対応と力強いディフェンスは、リバプールを戴冠へ導く貴重なプレーだった。

ファン・ダイクはドリブル突破を試みるソン・フンミンについていき、韓国代表FWがスピードをグッと上げたところで、ファン・ダイクも加速。シュートを打たれる直前のタイミングで、ファン・ダイクは体をぶつけてシュートを許さなかった。この時、試合の流れはトッテナムに傾きかけていたが、ファン・ダイクの的確な守備でリバプールは主導権を渡さなかった。

そして、9日に行われたUEFAネーションズリーグ決勝の対ポルトガル戦でも、オランダ代表CBとしてファン・ダイクは質の高い守備を披露。1−0で敗れはしたものの、英衛星放送スカイ・スポーツはファン・ダイクにチーム最高点となる8点(10点満点)の高評価を与えた。

さらに、準決勝のイングランド戦でも堅牢なディフェンスで牽引し、3−1の勝利に貢献している。元イングランド代表DFのジェイミー・キャラガーは「ファン・ダイクは世界トップのDF」とファーディナンドの意見に同調し、「プレーの波が少なく、継続性が高い」とその理由を述べた。

もっとも、サウサンプトンからリバプールに籍を移した当初は、DF史上最高額となる7500万ポンド(約103億円)の移籍金の高さに「そこまで価値はあるのか?」と批判的な声も聞かれた。しかし、リバプールを欧州の頂点に導く活躍を見せていくうちに、「移籍金はリーズナブルな値段だった」とまで言われるようになった。

そんなファン・ダイクの凄まじさを語る上で、ファーディナンドがサンプルとして取り上げたのが3月31日に行われたプレミアリーグ32節の対トッテナム戦だった。

この試合の後半、カウンターを受けたリバプールは、相手と「1対2」の状況を作られてしまった。リバプールで守備に残っていたのは、ファン・ダイクただ1人。対するトッテナムは、ボールホルダーのムサ・シソコと、彼と並走するソン・フンミンの2人で速攻を仕掛けた。

するとファン・ダイクは、ボールホルダーのシソコのドリブルをケアするのと同時に、ソン・フンミンへのパスコースを消しながら自陣に退去。ボールを刈り取るチャンスを冷静に待ちながら、シソコがシュートを打つタイミングで足を伸ばした。シソコの利き足ではない左足でシュートを打たせたことで、シュートは大きく枠を外れたのだ。この場面を振り返ったファーディナンドは、「ポジショニングの良さ、スペースへのカバー、流れを読む戦術眼、カバーリングの速さ、状況判断のすべてが素晴らしい」と守備対応を褒めちぎっていた。

ファン・ダイクの前所属先であるサウサンプトンで、チームメートだった吉田麻也も彼の才能に脱帽する一人だ。「1対1の対応がピカイチで、ビルドアップも本当にうまい。インターセプトも上手なので、見ていて勉強になります」と吉田は常々語っていた。プレミアリーグのなかで強烈なインパクトを残した選手として、ケビン・デブルイネ(マンチェスターC)、サディオ・マネ(リバプール)と共に、ファン・ダイクの名を挙げたこともあった。

データ集計会社Optaによれば、ファン・ダイクが今季出場した64試合で相手にドリブルで抜かれたシーンは一度もなかったという。首位マンチェスター・Cとわずか1ポイント差の2位で終えたプレミアリーグでも、PFA(イングランドサッカー選手協会)年間最優秀選手を受賞。さらに、クラブ通算6度目となるチャンピオンズリーグ優勝に大きく貢献し、ファイナルの最優秀選手にも選ばれた。圧巻のプレーを続けたことで、英紙タイムズは「今年のバロンドールの本命」と伝えた。

リバプールのクラブOBジョン・バーンズは、今年のバロンドールについて次のように予想する。

「ファン・ダイクの受賞? 可能性は非常に高いと思う。これまでの受賞者を振り返ると、ストライカーや攻撃的MFといった前線の選手が獲得することが多かった。しかし今季、前線で大成功を収めた選手はいないように思う。対するファン・ダイクは質の高いプレーを継続し、リバプールで栄冠を掴んだ。今季の活躍を踏まえれば、ファン・ダイクこそが受賞に相応しいだろう」

果たして、2006年のファビオ・カンナバーロ以来となる、DFのバロンドール受賞は実現するか──。

これまでのDFの受賞者を振り返ると、フランツ・ベッケンバウアー(72、76年)、マティアス・ザマー(96年)、そしてカンナバーロの3人しかいない。ただ、ひとつだけ確かなのは、有力候補に挙げられるだけの活躍を、ファン・ダイクは見せているということだ。

英国在住ライター・翻訳家

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍にあわせ、2012〜14年までは英国マンチェスター在住。ワールドサッカーダイジェスト(本誌)やスポーツナビ、Number、Goal.com、AERAdot. などでサッカーを中心に執筆と翻訳に精を出す。

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