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若者の闇バイトストップ! 求人サイト初の闇バイトチェックAI どちらが闇バイトかわかるでしょうか?

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

SNS上の闇バイトに応募して犯罪に手を染める若者が後をたちません。警察もAIを駆使して闇バイトとみられる書き込みを早期に発見し削除依頼をする取り組みをしていますが、次々に書き込まれるものに充分な対応ができているとは言い難い状況です。

また、高校生の8割が闇バイトと一般の求人募集の違いが分からないという調査結果も出ています。いかに見極める目を養うかが問われています。

闇バイトに応募する若者を減らすことが、昨年一昨年と増加している特殊詐欺の被害を防ぐことにもつながります。昨今は、名の知られた「求人系アグリゲーションサイト」(ネット上にある様々な求人情報を収集して、無料で掲載するサイト)にも、詐欺グループが募集を載せることもありますので、官だけでなく、民の力も必要になっています。

「闇バイトチェックAI」を導入の経緯について

「バイトル」など求人サイトの運営を行っているディップ株式会社は、昨年12月末から、自社の求人サイトに犯罪につながる募集が入り込んでいないかを検知する「闇バイトチェックAI」を導入しています。その経緯などについて「バイトル」の編集長・進藤圭さんに話を伺いました。

きっかけについて「これまでも現行の求人募集に掲載されているものに違法な文言や差別表現が入ってないかをAIでチェックしてきましたが、今回、闇バイトに着目をしたのは、我々以外の求人サイトさんに闇バイトの募集記事が載り始めたのを目にして、現時点でバイトルなどに闇バイトの情報が掲載されたということはありませんが、いずれ我々のところもやってくるのも時間の問題かもしれないと思い、闇バイト検知に特化したAIを導入しようと考えました」

ディップ株式会社より
ディップ株式会社より

詐欺などを行う者たちはあらゆる手段を駆使してアプローチしてきます。それゆえに、企業側の心構えとして「悪意ある者は必ずやってくる」との危機意識から、対策を講じることはとても大事になります。

他の求人サイトにおいて、闇バイトを検知するAIを導入したという話は耳にしていませんので、同社が求人業界として先陣を切って対策に乗り出したといえます。ぜひとも、他社においても詐欺被害の深刻さを受け止めて頂き、同様な取り組みを願うところです。

高校生を対象にした啓発授業プロジェクトも実施

ディップ株式会社では、今年2月から高校生を対象にした啓発授業プロジェクトを実施して、未成年者が闇バイトにかかわらないようにするための取り組みにも力を入れています。

「16歳からアルバイトができますので、高校生がトラブルに巻き込まれないように情報のリテラシーを上げて、アルバイトを始めていただくことが大事だと考えて始めました」(進藤さん)

今年2月には都内の高校で、230名の2年生を対象に「闇バイトトラブルを防ぐための正しい知識と安全なバイト探しを促す」啓発授業を行いました。たとえば、闇バイトと一般の求人募集をあげて「どちらが闇バイトなのかを当てる」というクイズ形式での質問をしています。

どちらが闇バイトかわかるでしょうか?

一つ目です。

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二つ目です。

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どちらが闇バイトの募集なのか、おわかりになるでしょうか?

判断するポイントは?

正解は一つ目になります。

どのような点を見て、判断すればよいのでしょうか。

「AIでも闇バイトにおける幾つかの特徴で検知するようにしていますが、まず『異常に高い報酬』を載せていながら、具体的な職務内容やスキルの要件が提示されていないもの(職務内容の不明瞭さ)や、『DMをください』といった通常の求人募集のプロセスとは違う方法を通じたものを不審なサインとしてとらえています」(進藤さん)

その観点からみていくと、一つ目の募集には、「日給5万円から」「DMにて応募」となっていますので、闇バイトの特徴を備えています。また詐欺の「受け子」や「出し子」は組織の指示役により、どこに行かされるかわかりません。そうした意味で、仕事場所が書かれていないことも特徴の一つになります。その点、二つ目の求人は「〇〇駅」と最寄り駅が示されていますので、一般の求人募集といえます。

ディップ株式会社より
ディップ株式会社より

事前調査で高校生の多くが闇バイトの危険性がわからないという結果に

すでに同社では、闇バイトを3つ入れた、6つの求人募集を作成して「闇バイトと一般の求人の違いがわかりますか?」との設問で、高校生を対象にウェブ調査をしています。その結果、全問正解できた人は2割ほどしかおらず「約8割の高校生が、闇バイトの募集に対して、危険性のあるものとそうでないものの違いがわからないことが判明した」としています。調査を通じて、未成年者にとって、闇バイトとそうでないものを見極める目が不足していることが明らかになっています。

闇バイトが身近なところに潜んでいることが分かった

今回、啓発授業を受けた生徒のなかにも実際に怪しいDMを受け取った人もおり「しっかりと見極めなければいけない」と危機感を抱いた生徒や、「闇バイトは遠い存在だと思っていたけれど、身近なところに潜んでいることが分かりました」という声もあったそうです。未成年にとって、TwitterやInstagramは日常使うものですので、そこに載る求人募集に連絡をすることで犯罪行為に巻き込まれる可能性がありますので、AIが検知するような目を養っておくことは必要になります。

企業審査、現地審査に、闇バイトチェックAIもプラスしての応募者を守る対応

進藤さんによると「他の求人サイトに比べて、審査や求人時の入力項目が多く、掲載するのが少し面倒かもしれない」とも話します。

同社はこれまで「過去に問題が起きていないか」「反社会勢力ではないか」といった企業審査や、訪問して会社を確認するなど現地審査を行い、怪しい求人は載せないといった取り組みを以前から続けています。

進藤さんは具体的な事例をあげて説明します。

「モデル募集といいながら、高いレッスン料を払わせるのが目的の募集や、覆面モニター募集といいながら、エステティックサロンなどに入会させる目的のものといったようなユーザー(求職者)に負担を求める求人は、一切載せないようにしています」

詐欺や悪質業者を寄せつけない取り組みが重要

今回の闇バイトチェックAIを始めた理由の一つにもなっていますが「悪質業者にディップの求人サイトに載せるのは、ちょっと面倒くさいと思わせるところを作った方が良い」との発想があるとのことです。

これは防犯意識として重要な観点です。

特殊詐欺において、アポイント電話(アポ電)という詐欺の事前電話をかけて、個人情報を取得するとともに、相手がだませる人物かを判別します。もし相手がだましづらい面倒な人だった場合、詐欺のアプローチを諦める傾向があります。詐欺を行う者たちは「面倒な人」を嫌います。そのために「掲載にあたって手間のかかる会社」と思わせることは、犯罪者を寄せ付けないことにつながります。

ユーザーからの相談や通報も、AIの精度をあげるカギとなる

それでも、闇バイトや悪質業者が求人募集をする可能性もあります。その辺りの対策について尋ねました。

同社では「掲載されている内容と違っていた」や「面接に行ってみたら怖い思いをした」などという、ユーザーからの申告を受け付ける窓口を作っています。また「バイトル」の問い合わせページには「掲載内容と実態の相違に関するお問い合わせ」だけでなく「闇バイト相談窓口」も設けています。こうした申告を通じて、さらなる精度の高い闇バイトの検知を目指しています。

一人で決めず、必ず誰かに相談する

未成年者を始めとした若い世代がアルバイトに応募する際には、企業審査や現地調査など闇バイトのような怪しい求人を排除するような、ユーザーを守る取り組みをしている求人サイトから応募することが安全といえます。

しかしながら同社のような厳しい審査基準を行っている求人サイトがある一方で、審査が緩いところもあるのも事実です。やはりチェックが甘いところに、詐欺グループは入り込みますので、どの求人募集に応募するのかを見極める目は、アルバイトをする側にも求められています。

最後に、進藤さんは「どれだけ魅力的な求人募集だと思っても、一人で決めずに、親御さんなど、誰かに相談するようにしてください」と話します。

官民による闇バイト排除の取り組みが必要

SNS上の怪しい求人かもしれないと思ったり、闇バイトに応募して悩んだ時には、公的機関にも相談ができるようになっています。

たとえば、東京都の「特殊詐欺加害防止 特設サイト」のHPでは、AIに質問ができるようになっていたり、相談窓口を紹介しています。

闇バイトを排除する企業側の取り組みは始まったばかりですが、こうした行動一つ一つが、未成年者が闇バイトに手を染める事例を減らし、その結果、特殊詐欺の被害を減らすことにもつながります。いかにして犯罪につながるような募集を排除できるのか。官民による取り組みが強く求められています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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