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全国弁連は「旧統一教会の解散命令請求事件の審理を可能な限り迅速に進める」ことを求める 情報戦の様相も

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影

2月22日、東京地方裁判所において、解散命令請求を行った文科省と旧統一教会の双方から意見を聞く「審問」が行われて、教団側は田中富広会長が出席して意見陳述をしたということです。

そのなかで、文科省が宗教法人法の解散事由に該当するとしてあげている「財産的利得を目的として、献金の獲得や物品販売にあたり、多くの方を不安や困惑に陥れて、その親族を含む、多くの方々に財産的、精神的犠牲を余儀なくさせ、生活の平穏を害するもので、これらの行為は、宗教法人の目的を著しく逸脱するもの」とした点について「明らかな間違い」と教団側は主張しています。

「旧統一教会に対する解散命令請求の審理について」の声明

「審問」に先立って行われた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)による司法記者クラブの会見のなかで、事務局長の川井康雄弁護士は「旧統一教会に対する解散命令請求の審理について」の声明を読み上げました。

そのなかで「昨年10月13日になされた解散命令請求は、日本のカルト問題対策の歴史における重要な一歩ではありますが、同時に遅きに失した一歩でもある」として、被害抑止及び被害者救済のために解散命令が早期に発令されるよう「裁判所及び政府に対し、旧統一教会の解散命令請求事件の審理を可能な限り迅速に進める」ことを求めています。

さらに盛山正仁文科大臣が旧統一教会から推薦状を受け取り、選挙応援を受けていたとの情報が、教団の関連団体の信者からリークされて、国会では不信任決議案(2月20日に否決)が出されて、世論調査でも盛山大臣の責任を問う厳しい声が出ています。これに対して大臣は「旧統一教会が(政権に)揺さぶりをかけてきていることも考えられる」と話していますが、弁護団は「報道された時期や内容からすると揺さぶりの可能性は十分に考えられる。そうであれば、揺さぶりによって解散命令請求の審理に影響を及ぼすことは断じて許されない」としています。

第三者委員会などの関係機関の設置を提言

政治と旧統一教会との関係断絶のために、弁護団は第三者委員会などの関係機関の設置を提言します。

盛山大臣の報道がなされてこれだけ大きな問題になった原因の一つに「旧統一教会と政治家との実態に関する調査が不徹底だった」ことをあげます。そして1976年以降にアメリカで行われた、フレイザー議員を座長とする委員会がコリアゲート事件に関する調査を行った件に触れて「フレイザー報告書と称される調査報告書を公表しています。それをもとに旧統一教会の教祖・文鮮明が脱辞容疑で告発され服役することになり、以後同国での旧統一教会の活動はそれ以前に比べて大幅に下火になりました。このような他国での取り組みを参考にして、旧統一教会と政治家との癒着の実態について、第三者委員会などの機関を設置した上で徹底した調査を行う」必要性を訴えます。

非公開の裁判ながら、概要だけでも行政側からの公表も必要か

今回の解散命令請求の裁判は非訟事件ですので、原則公開されません。それに関する記者からの質問があり、阿部克臣弁護士は、個人的な意見として次のように話します。

「これだけ国民の関心も高い事件になりますから、概要だけでも発表していただけたら有難いと思っております。我々がもちろん知りたいというのもありますし、被害者の方が知りたいというのもあります。非公開だからといって一切、外に内容を話してはならないものでもないと思いますし、裁判官は社会通念で判断しますので、社会がこの事件を問題として捉えていないと、被害者に沿った結論を出してくれないところもあると思いますから、その意味からも世論に向けて喚起していただきたい」それが結果として「解散命令が出ることへのプラスとして働くと思う」としています。

オウム真理教事件の時とは、違う裁判の状況も

紀藤正樹弁護士は1995年に出されたオウム真理教の解散命令を例にあげて、別な視点から話します。

「10月30日に東京地裁で決定が出ましたが、当時、オウム真理教の解散命令の裁判を公開してほしいという意見はほとんどありませんでした。なぜかというと、サリン製造施設の問題なんです。サリン製造の過程を国が証明しないといけないわけです。実際、それを証明するための証拠を出しました。その証拠が公開されると結局サリンが作れてしまうのではないかという議論があって、この時は(裁判の)公開を求める話には至らなかったんです」

しかし今回の(旧統一教会の)事件とサリン製造施設の事件とは違う点があり「霊感商法をやってたか否か、重篤な家族被害が生じたか否か。そういう議論なので、一定程度の公開はあってもいいのかなと思うんです。だから、オウム真理教事件の前例を踏襲して全く概要を説明しないということにはならないのではないか」と個人的な見解として紀藤弁護士は話します。

裁判の引き延ばしといった工作の可能性を危惧

木村壮弁護士は「どういうやりとりが裁判でされたかはわからないので、なんとも言いませんが、かなり早い段階で審問の手続きが入ったと思っていますので、それなりの整理がされてきたのかなと思う」と現在の裁判の状況について推察します。その一方で「(旧統一教会側による裁判の)引き延ばしといった工作の可能性を危惧する」と話します。

「今日、裁判所を含めて迅速な審理をしてほしいという要望を出していますので、必要でない反論を(教団側が)することを、裁判所が許すことがないような形で審理を進めていただきたい」(木村弁護士)

筆者も元信者として、解散命令の決定への引き延ばしへの懸念を持っています。

旧統一教会は甚大な被害という動かぬ事実をつきつけられているだけに、今後も、解散命令の阻止などを狙って、今回盛山文科大臣や林官房長官に対して行ったような、これまで秘していた情報をリークすることでの敵対行動を起こす可能性を感じています。

旧統一教会による甚大な被害は、組織的な情報の出し入れの巧みさが根底に

というのも、旧統一教会の特徴の一つに、自らにとって有利になるように情報を出す手法に長けている面があるからです。

なぜ多くの人が壺や印鑑などを買ったかといえば、事前に(モノを売る目的を告げずに)入手した個人情報を、商品を買わせるためのベストなタイミングで、霊の恐怖や悪因縁の話に絡めながら出して人々を術中にはめてきたからです。

それは布教においても同じで、旧統一教会は組織的に教団名を告げず、相手の弱みや悩みをアンケートや何気ない会話から聞き出します。そしてそれが解決する方法があるといって、ビデオセンターを通じて教団の教義と知らせないまま教え込みますが、その際、事前に個人情報は組織内で共有されており、いかにして信者にさせるかを組織的に考えて実行します。つまり、霊感商法や高額献金による甚大な被害は、旧統一教会の組織的な情報の出し入れの巧みさが根底にあるといえます。

それは今回、審問後に教団側がすぐさま会見を行ったことからもわかります。非訟事件ですが、国民の多くが知りたいと思う審問の状況について、教団は裁判後にいち早く会見を開いて、自らからの主張を社会にアピールしています。

会見で教団側は「明らかな間違い」と主張しているようですが、報道を通じての内容をみる限り、従来の主張を繰り返すだけであり、目新しさはなかったようにと思われます。
しかしながら、情報戦で後手後手に回ると、今後教団側に有利な形で一方的に情報が流されるとも限りませんので、弁護士らが話すように概略だけでも、行政側の対応として情報を出していくことの必要性を強く感じています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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