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高級腕時計トラブル多発 トケマッチ・シェアサービス停止からみえてくる裏側 犯罪グループ暗躍の可能性は

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

オーナーから高級腕時計を預かり、第三者に貸し出す形で配当を支払うシェアリングサービスを行っていた「トケマッチ」が、今年1月末に突然にサービスを停止しました。それにより、オーナーのもとには、預けた時計が戻ってこない状況になっています。

「ユーザー側の帰責事由等によりご返却が難しい場合」に注目

運営会社であるネオリバースは「法人解散によるトケマッチの今後について」と題した、HPでのお知らせのなかで「法人の解散を明らかにする」とともに、預託された高級腕時計の商品の返却については「6ヶ月を目安として発送手配する」としており、ユーザー側の帰責事由等によりご返却が難しい場合には「損害賠償の金額をお支払いさせていただきます」となっています。

筆者は「ユーザー側の帰責事由等によりご返却が難しい場合」の文言に注目しています。

すでにフリマアプリで預けたはずの腕時計が出品されて、売られていたという報道も出ており、もちろん同社の関係者による疑いもあるかもしれませんが、それだけではない気がしています。

今、高級腕時計は犯罪グループの格好のターゲット

高級腕時計は高値で売買されるために、時計店に押し入ったり、嘘の売買の投資話を持ち掛けたりするなど、犯罪を行うグループの格好のターゲットになっています。

そうした観点からみると、今回の「トケマッチ」のサービス停止の裏側には「いかにして高級腕時計をだましとれるか」を考えている犯罪グループが関与している可能性も排除してはいけないと考えています。

そう思うのには理由があります。

10年以上前から被害が出て、長年、取材してきているものに、高級時計を海外で買い付ける仕事があります。大手の求人募集などで、アルバイトとしてバイヤーを雇います。バイヤーは自らのクレジットカードを使い、海外で高級腕時計を購入して、それを販売会社に渡します。時計の代金は翌月の支払い時に、販売会社から報酬とともに振り込まれます。

長く運営を続けて、突然に破綻するスキーム

このスキームでは、バイヤーらにアルバイトを長く続けさせて、口コミでも「割の良いバイト」としての評判を広がらせて、より多くのバイヤーを雇います。そして、たくさんの高級腕時計を手にすると、突然に会社は運営が停止します。その結果、バイヤーらには高級腕時計の代金が入らなくなり、数千万円もの借金を背負う結果になります。この手法は最近も続けられてきており、23年末にもバイヤー

を雇っていた会社が運営を停止して、億単位を超える被害が出ています。


表面上は、会社としての運営が行き詰まり破綻している状況にみえるので、詐欺行為が問えないためでしょう。これまで警察に相談しても被害届は受理されず、長年、捜査が行われてきませんでした。今回の「トケマッチ」のサービス停止に関しても、報道では「被害届を受理してもらえない」との被害者の声がありますが、同様な状況になることを懸念しています。

「トケマッチ」のシェアサービスを狙った可能性も

バイヤーを募っていた販売会社の昨年末の運営停止と、今回の「トケマッチ」のサービス停止を重ね合わせてみると、レンタル希望者が高級腕時計をだましとる目的で、「トケマッチ」のシェアサービスを利用した可能性も充分に考えられるのです。しかも、組織的に狙われれば、大量の高級時計を失うことになります。

もちろん、そもそも破綻を前提にして会社を運営をしていたり、悪意ある関係者が同社に入り込み、腕時計を詐取したりした可能性も否定できませんが、犯罪グループが背後にいて、大量の高級時計がだましとられて、今回のトラブルに発展している視点も捨ててはならないと思っています。

運営会社はしっかりとした説明責任を果たすべき

とはいえ、運営会社の責任は免れません。

レンタル希望者には、必ず悪意ある者が入り込むことはわかっているからです。運営会社側が、身元確認を厳格化していたのか。もしその審査に甘さがあれば、必ず犯罪をもくろむ者に付け込まれることになりますので、運営会社の責任は大きいといえます。

HPでは「今後は改めて弊社代理人が決定次第、弊社サービスの利用者様へ個別にご連絡させていただきます」とありますが、これだけ大きな騒ぎになっているのですから、破たんに至った経過について、会社側は真摯に対応して、説明責任を果たす必要があります。それをしなければ、時計をだましとる行為をしたと疑われることになりかねません。今後、会社側がどのような対応をとるのかが注目されます。

繰り返しになりますが、今、高級腕時計は高値で売買されていることもあり、国内外の犯罪グループはいかにして「高額な腕時計をだましとれるか」「奪うか」を考えています。そしてそれを闇バイトなどで雇った人物に売りさばかせようとしています。

今回のトラブルにおいても、そうした犯罪グループの暗躍の可能性も排除してはいけません。今後、同じ様な手口で被害者を多く生み出すような事態を誘発しないためにも、警察による捜査が何より必要とされています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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