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解散命令請求を前に、全国霊感商法対策弁護士連絡会からの声明 今後の懸念と信者を持つ家族に求めること

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

文化庁による解散命令請求に向けて、宗教法人審議会が10月12日に開かれると報道されるなか、9月30日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(弁連)の集会と記者会見が行われました。

全国霊感商法対策弁護士連絡会の川井康雄事務局長により声明が読み上げられます。

文化庁の解散命令請求を高く評価

「全国霊感商法対策弁護士連絡会は1987年の結成以来、旧統一教会による被害を救済して、新たな被害を抑止するために、政府にはその抜本的な対策を求めて、文化庁には解散命令請求を行うように繰り返し申し入れてきました。政府が旧統一教会による被害を直視し、文化庁が解散命令請求を行うことに対しては、遅きに失した感は否めないものの、当連絡会は高く評価します」

しかしながら、裁判所により解散命令請求が出されて、旧統一教会が宗教法人格を失ったとしても、すべての問題が解決するわけではありません。

その点についても「過去30年以上にわたり放置されてきた、多くの被害者のほとんどはいまだ救済されておらず、2世問題や被害者家族の問題もあります。何より、旧統一教会は法人格を失っても、宗教団体としては活動可能であるから、その後も旧統一教会による被害が生じることがないように注視しなければならない」としています。

三つの声明の趣旨

同連絡会は、三つの声明の趣旨をあげます。

一つ目は、旧統一教会に対して「自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合い、誠実に対応し、謝罪の上で損害の一切を賠償するよう改めて強く求める」です。

阿部克臣弁護士は「旧統一教会は、相変わらず「被害者に真摯に向き合う姿勢をみせておらず、それどころか、当連絡会を始め、その所属の弁護士や教団への批判者、旧統一教会との関係を適切に対応しようとする地方自治体を被告として、民事訴訟を提起している」といい、さらに「文化庁が解散命令請求を行うことは、政府が旧統一教会について(宗教法人法第81条1項1号における)『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした』つまり反社会的な行為を法人として組織的に継続して行ってきたものと判断したことを意味するわけです。旧統一教会はこの事実を重く受け止めて、真摯に反省し第一に被害者への真摯な謝罪と賠償を行うべき」といいます。

旧統一教会のいう『教会改革』の欺瞞性も指摘

同連絡会は「旧統一教会は『教会改革のアクションプラン』として自らが改革を進めているとアピールしていますが、これは欺瞞的なもの」と指摘します。

「一般に不祥事を起こした企業、団体であれば、過去の事実をきちんと調査・検証、被害者に真摯に向き合い、謝罪し賠償するのが当然であり、これが再起に向けてスタートと認められるための条件になります。しかし旧統一教会にはその姿勢が全くなく、被害者の訴える声に対して、その被害が捏造されたものであるかのように主張しており、加害者としての自覚や反省が根本からかけています。それどころか、被害の声を上げる者に、その声を抑え込もうと攻撃するような姿勢さえ見せています」(阿部弁護士)

また「旧統一教会は2009年3月25日にコンプライアンス宣言を発出して『教会改革』を進めたとしていますが、2009年のコンプライアンス宣言以後も引き続き多くの相談・裁判が存在しており、同宣言が何ら内部的にも周知・徹底などされていなかったことは明らかである」と、同連絡会は声明のなかで述べています。

裁判所によるすみやかなる解散命令と、財産保全の特別措置法の制定を求める

二つ目はすみやかに解散命令が出されるように可能な限り「解散命令請求事件の迅速な審理」を進めるように求めています。

三つ目は、解散命令が出された時に、旧統一教会の財産散逸がなされないように、裁判所が宗教法人の財産を管理し保全を可能とする「財産保全の特別措置法」の制定を求めています。これは、喫緊の課題といえます。

声明のなかでも「解散命令が確定し清算手続きに移行すると、裁判所から清算人として選任された第三者の弁護士が、法人の財産を処分して、債券者への配当を行うことになります。被害者が債権者として認められれば、手続きのなかで支払を受けることができ、被害救済が図られるが、解散命令が確定して清算手続き開始前に財産が隠匿・散逸されてしまえば、それも不可能となり、被害者は泣き寝入りとなってしまう」と同連絡会は危機感を募らせています。

長年、教団の被害救済を手掛けてきた弁護士らの思い

山口広弁護士は集会の冒頭の挨拶で「我々が30年以上にわたって主張してきた、解散命令請求がなされようとしています。裁判所には大量の書類が提出されることになるでしょうが、そのなかから、統一教会の組織的で継続的、悪質性のある霊感商法的資金獲得の活動実態について、的確に認定して頂きたい。確信を持って申し上げたいと思います。統一教会は宗教法人格を認められるべきではありません。著しく公共の福祉に反すると、明らかに認められる行為を組織的、計画的に長期間にわたって繰り返してきたからです」と話します。

被害者一人一人の声が各相談機関に寄せられて、今回の解散命令請求につながっています。22年の7月の安倍元首相の銃撃事件以降、寄せられる被害相談が一気に増えましたが、文化庁から解散命令請求が行われることで、より多くの家族や被害者からの相談が寄せられることになると考えられます。

紀藤正樹弁護士は「消費者相談などは、窓口が知られると、相談件数が増える傾向にあります。窓口を知らない状況ですと、多くの方がどこに相談していいかわからないことになります。相談窓口の告知や、相談先が複数あることは重要で、それが(被害者の方に)わかると相談件数は増えます。マスコミや警察などの行政による役割はとても重要です。被害者の方が統一教会側にではなく、こちら(弁護士など)側に相談してきてくれることは被害実態を知る上でも大事で、これはチャネル(経路)の問題としても重要だと思う」と述べます。

いかに絶やすことなく、今後も生み出されるかもしれない被害の報道を続けていき、被害者が相談しやすい環境を作り続けていくのかが、大事ということがわかります。

今後の懸念と、信者を持つ家族に求めること

山口弁護士は、教団から離れる信者などへの新たな懸念も口にします。

「今後(解散命令などが行われた場合)、統一教会は組織が混乱して、分派や離脱者が出て、そのなかには『文鮮明の教えをもう一度』といって悪質な資金集めや詐欺的勧誘が行われる恐れがあります。これまで以上に悲惨な被害相談が生じる可能性も考えています。警察や関連行政組織には、そうした事態が起こらないように、監視の目を光らせて頂きたい。信者のご家族は心配していることでしょう。しかし決して家族は信者を責めないでください。信者が自分の頭で考えて、自分の歩むべき道を見出せる、そういう環境を提供して頂きたいと思います

これからは教団の活動に疑問を持つ、信者たちも多く出てくることと思います。その時、「脱会」という選択肢を一方的に迫るのではなく、まずはしっかりと本人に自分のこれまで歩んできた道を時間をかけて振り返ってもらうことが、何より大事になってきます。

さらに同弁護士は「40年あまりの統一教会の活動による、最大の被害者は、信者の子供たち、一人住まいの高齢者たち、かけがえのない人生を文鮮明のために歩まされてきた長年過ごしてきた信者たち」とも話します。

旧統一教会の偽装勧誘や、社会常識を逸脱するようなお金集めの活動によって、普通に暮らせない状況になっている方が多くいます。そして今も、カルト思想を持つ多くの団体があり、その影響を受けた方々へのサポートをどうしていくかも、今後の課題といえます。

解散命令請求は、それらすべての問題を解決するための一歩に過ぎず、その道は始まったばかりです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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