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悪質な高額献金の手口 息子のお金を引き出すために「統一教会の男性に委任状を書いてもらえばよい」の指示

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

10月中旬にも旧統一教会への解散命令請求が出されるとの報道がなされるなかで、立憲民主党を中心とする国対ヒアリングが9月27日に開かれました。

70代の元信者AさんとBさん、お二人の代理人でもあった全国霊感商法対策弁護士連絡会の中川亮弁護士、ジャーナリストの鈴木エイト氏から話がありました。

ここでは、息子さんの定期預金を無断で引き出すために、当時の婦人部長から「統一教会の男性に委任状を書いてもらえばよい」との指示を受けたという衝撃的な話がもありました。

今回はAさんとBさんの被害を中心にお伝えします。被害者家族である中野容子さん(仮名)の念書問題や橋田達夫さんのお話については、機会を改めて書きたいと思います。

最初に長妻昭議員は、今月、NHKが旧統一教会の番組を放送しようとして、教団から抗議を受けて、違うタイトル名に変えた件に触れて「解散命令請求が出るか出ないかという時期に、旧統一教会が表裏で圧力をかけていくことを心配しています。多角的な観点から議論をして頂き、一人でも多くの被害者が救われ、新たな被害者が出ないように取り組んでいきたい」と話します。

家族が幸せになるためには、霊界で苦しむ先祖の恨みをとく必要がある

Aさんは、平成26年(2014)2月頃に統一教会とかかわり、昨年の11月に脱会しています。

きっかけは、9年前、統一教会だと身元を明かさずに一人の女性が尋ねてきたことだといいます。数日後に3人の女性がやってきて「家庭が幸せになるセミナーがあるのできてみませんか?」と誘います。

Aさんは「私は一人の子供を亡くしていることがあったので、有益になることもあるかもしれないと思い参加しました。たくさんのビデオを視聴して、13歳で亡くなった子供が、霊界の地獄で苦しんでおり、家族に救いを求めて恨めしそうに霊界から見ていると教えられました」と話します。

そして家族が幸せになるためには、霊界で苦しんでいる先祖の恨みをとく必要があるといわれます。それを信じ込まされたAさんは、統一教会の信者(のアベル:教団の上司)から求められるままに、献金や物品購入で2500万円以上を払い、被害に遭ったといいます。しかし脱会後に弁護士らの力を借りて今年の8月に示談しました。

私が経験したことのなかでもっとも心が痛むこと

Aさんは「私が経験したことのなかでもっとも心が痛むことをお話します」と切り出します。

2000万円以上の献金をさせられた後のことです。

Aさんは教団の婦人部長に「先祖解怨のためのお金がない」と話したところ、息子さんのお金の状況を聞かれます。

「『息子名義の定期預金はあるが、私には下せない』と答えると、婦人部長は『統一教会の男性に委任状を書いてもらえばよい』と指示してきました。私は息子の定期預金を、しかも無断で他人に委任状を書いてもらうことまでして、先祖解怨のお金を用立てなければならないことに、良心の呵責と罪悪感を覚えましたが、家庭が幸せになるためには、先祖の因縁を解決しなければならないといわれ続けてきたので、そうするしかないと思って、婦人部長の指図に従うしかありませんでした」と当時の辛い胸の内を語ります。

良心の呵責を心に押し込めながらの辛い歩み

「息子のお金を無断で(統一教会に献金したことは)息子に本当に申し訳ないことをしたと思っています。脱会後、息子には正直に話して謝りました」とAさんは言葉を詰まらせます。

筆者の信者時代、アベルだった人が、高齢者などから多額のお金を出させて霊感商法をしてきたことについて「もしこの教えが真実でなかったならば、何て自分はひどいことをしてきたんだろう」と話し「この教義を正しいと信じて、もう進むしかない」との思いを吐露してきたことがあります。

どれだけ多くの信者たちが神様、メシヤの指示は絶対に従わなければならないとの思いから、良心の呵責を心に押し込めて、辛い道を歩んできたのでしょうか。そして多くの元信者が教団を辞めて後に、その時の苦しい気持ちを抱えて続けていきていかなければならないのか。そのことを思うと、本当に心が痛くなります。

Aさんは「統一教会は平成21年(2009年)に出したコンプラインス宣言を出したといいますが、名ばかりだと思います。一度もその説明を受けたことがないからです。統一教会の解散命令請求を心から思っています」と涙をこらえ、絶え入るような声で話します。

夫とためてきた1700万円以上を支払う

Bさんも、平成26年(2014年)3月から統一教会とかかわるようになり、昨年の10月に脱会しました。

「ある日、統一教会だと名乗らない女性が訪問してきて『悩み事、心配事はないですか?』と聞かれたので、二人の子供の結婚を願っていると話すと『家庭が幸せになる良い話がある』と誘われました。そこでは、子供たちが結婚して幸せな家庭を築くためには、まず霊界で苦しむ先祖の恨みをとく必要があると教えられました。そして信者に求められるままに、夫とコツコツとためてきた1700万円以上を支払ってしまいました」

Bさんは夫の助けによって脱会し、返金を求めて、今年の5月に統一教会と示談します。

Bさんが思う二つのこと

Bさんは、二つのことを話されます。一つ目は旧統一教会の勧誘方法についてです。

「最初に宗教的施設であることはまったく知らされていませんでした。講義を受けてその教えを信じて、140万円もの献金を捧げた後に、はじめて統一教会であることを知らされました。もし宗教の勧誘だと最初からわかっていれば、断っていたはずです」

二つ目は選挙の応援についてです。

「選挙の時期が近づくと、リストを作成するように指示されました。ある選挙の時は、私が通っていた統一教会の2Fの施設で、他の人が作成したリストをもとに電話をかけて『〇〇候補者の後援事務所です』と名乗って賛同を求めたり、投票の依頼をしました」

脱会して思うことは「統一教会の教えに従わなければ、不幸になると教えこみ、弱みに付け込んで、先祖解怨の名目で無理やり献金させる。それによって次々に家庭を不幸にする組織が、統一教会だと思います。壊されて傷ついた家庭は多くあります。その被害の実態を知って頂き、政治家の皆さんには、統一教会から選挙の応援を受けることが、日本の国のため、世界平和のためにならないことを考えてほしい」とBさんは話します。

「いずれもコンプラインス宣言後の被害」との弁護士の見解

中川弁護士は「強調しておきたいことは、お二人が受けた被害はいずれも2014年以降のもので、2009年のコンプラインス宣言の被害です。統一教会はコンプライアンス宣言以降は『霊感商法的なものはやっていない』といっていますが、2014年以降に被害が発生しており、明らかに違います」と話します。

そして文化庁が進める解散命令請求について「悪質性、組織性、継続性を3つの要件がいわれていますが、継続性において、コンプライアンス宣言以降も被害が発生していたことが、お二人の証言によって裏付けられています。組織性という意味では、2人はまったく同じ地区の方です。同じ地区の方がほぼ同時期に被害を受けています。これは組織性の根拠になりうると思います。悪質性は、正体隠しの勧誘をして、家族の財産にまで手をつけさせていることで、いうまでもありません。一刻も早い解散命令を求めたい」といいます。

文化庁は「最終的な判断に向けてさらなる検討をしていきたい」

山井和則議員は「Aさんが声を詰まらせておっしゃっていましたが、息子さんの定期預金を統一教会が委任状を偽造してまでお金を下させた。正直、びっくりされると思いますが、これまで多くの被害者からヒアリングを行うなかで、自分の知らないうちに(信者である親から)娘さんが借金を背負わされていたなど、こうしたケースは残念ながら稀ではありません」と話し、解散命令請求の状況について文化庁に尋ねました。

文化庁総務課長は「総理が会見でおっしゃっているように、我々は最終の判断に向けて、最終の努力をしているところでございます。最終の努力は、法律のかなり厳しい規定がございますので、その条件をクリアするのかしないのか、弁連の方と連携しながら、我々も独自にヒアリングを行っておりまして、その成果を踏まえて最終的な判断に向けてさらなる検討をしていきたい。具体的な時期についてはお答えを差し控えさせていただきます」

コンプラインス宣言は「まったく形だけの欺瞞的なもの」との指摘

鈴木エイト氏は「お二人の話は、統一教会がこれから信者にする人たちの貯蓄、家族関係、資産などを調べ上げ、どうやって収奪していくのかを会議や調査をして進めていく。これまで見聞きしてきた事例と一致しています。息子さんの資金も把握していたことだと思います。実際の信者たちはコンプラインス宣言など知りません。偽装勧誘をしている現役の信者たちに、コンプラインス宣言を知っているかを聞いたところ『何ですかそれ?』と答えて、浸透もしていないし、まったく形だけの欺瞞的なものだったと思う」といいます。

同氏は2013年・14年頃に行われていた家系図講演会、家系図セミナーなど様々なチラシを入手しており「札幌から沖縄まで、いろんなパターンがあったのですけれども、共通しているのは同じイラストが使われている。明らかに組織性を感じさせます。住宅街を回ると、統一教会の偽装勧誘員が片っ端から一件ずつ家を訪ねている状況も目の当たりにしてきました。訪問伝道で勧誘されてカルトの罠にひっかかってしまった数多くの事例があると思います」と話します。

解散命令請求を通じて、多くの人に悲しみと苦しみを背負わせた現実に目を向ける必要性

筆者も信者時代に「地の法より、天法が優先される」と教えられてきました。それにより、相手の事情など気にせず、多くの人に声をかけて教団に誘いました。その時に、心ない言葉でどれだけ相手の心を傷つけてしまったのかを思うと、慙愧に堪えません。

教団を辞めた後に昔の友達に会うと、正直、記憶があまりないのですが、ほぼすべての人に声をかけてビデオセンターなどの連れこもうとしていました。

某局の元プロデューサーだった、大学からの友人は「あの時のお前は、本当におかしかった」と笑ってくれます。しかも元統一教会員だったことをわかってくれて、昔から番組などに出演させてくれていました。本当に嬉しいことです。

信者らは、教団を辞めた人間に対してはサタンとみて牙をむいてきますが、社会の人たちは逆で、愛ある心を持って接してくれます。その友人、知人らの暖かさに触れて、今を生きていることを感じます。

おそらくAさんBさんも、そうした周りの人たちの暖かい心の支えもあって、脱会できたのだと思います。旧統一教会は、解散命令請求がなされた場合、そのことを通じて信者一人一人が多くの人たちに、言葉に尽くせないほどの悲しみと苦しみを背負わせている現実にしっかりと目を向ける必要があります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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