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後ろ姿の写真は詐欺要警戒 実際に登録してみてわかった 最近の婚活・マッチングアプリの対策はこうだった

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

マッチングアプリを利用して婚活する人は急増しています。しかしながら、人が集まるところに詐欺などをもくろむ悪い者たちは、はびこるものです。別人になりすましてアプリに登録して、お金をだましとるロマンス詐欺は相次ぎ、出会った女性から誘われたお店で、高額な代金を請求される「ぼったくり被害」も最近、頻発しています。

7月には警視庁がマッチングアプリの運営事業者に、利用者の身元確認の徹底と、不正利用が発覚した際の利用停止などの対策強化を求めましたが、その辺りの対策は、実際にどのようになされているのでしょうか。

実際に登録して経験した顛末をそのままお伝えします。結論からいえば、やはり詐欺師は入り込んでいました。

ひょんなことから、マッチングアプリに登録することに

宗教2世の実態を取材するなかで、20代女性(仮名・吉田さん)に旧統一教会元2世信者らの集まりを教えてもらい行ってみました。そのなかで、たくさんの2世からの話を聞くことができました。

その時、その場を紹介してくれた吉田さんは、私が子供なしのバツイチとの話をすると「多田さんは、彼女はいなんですか」と単刀直入に聞いてきます。

「は、はい、今はいません」と答えると「マッチングアプリに登録してますか?」とさらに尋ねます。

「昔は登録したことがあるけど、今はしてませんね……」というと「登録しちゃって、彼女を見つけて下さい」と吉田さんも使っているという大手マッチングアプリをスマホで開かせられました。

「ええっと」登録に戸惑っていると、「ここを押すんです」「ここに打ち込みます」と手際よく指示していきます。そして、あれよあれよという間に、無料会員になってしまいました。

気に入った相手がいれば「いいね」のボタンを押して、双方がそれを押せば、マッチング成立になり、メッセージのやりとりができます。その辺りは以前に登録していたので、わかっています。

他の2世の人たちも登録しているようで「メッセージを読むには、〇千円のお金がかかりますよ」と正確な金額まで教えてくれます。その場には20代~30代が多かったですが、この世代はマッチングアプリを使うのが当たり前になっているようです。なぜか宗教2世の話を聞きに行って、彼女を探すためのマッチングアプリにも登録することになってしまいました。

まったく「いいね」こず

登録から数日たっても、女性からのアクションはまったくありません。そこで、プロフィール写真を今年撮った桜をバックにしたものに変えました。すると数件「いいね」がありました。そのなかに、とても積極的なアプローチをする40代女性(仮名・今井さん)がいました。彼女は身バレを警戒してなのか、後ろ姿の写真のみをアップしています。

ようやく「いいね」がきたことを、吉田さんに知らせると「多田さんモテモテ」という返事をもらいましたが、実はモテモテではありませんでした。

今井さんのプロフィールには、経営者、自営業、年収「400~600万円」とありました。おかしな点はないようなので、彼女からの「いいね」にお返しをして、晴れてマッチングとなりました。すぐにメッセージがきます。しかしその文面は、有料会員にならなければ見られません。そこで、お金を払って会員になりました。

最初はしっかりした文面だったが…

そこには「今週、入会したばかりで、アプリの使い方がわからないけれど、よろしくお願いします」というメッセージがありました。

こちらも「今井さんの思いも色々とわかれば嬉しいです」と返信をして「どんな仕事をしているのですか?」と尋ねました。すると「友達と一緒にネイルショップを経営しています」と答えてくれます。

さらに彼女からは「将来は、お互いを信頼し合って、価値観が違うとしても、それを受け入れながら、共に成長していけるような関係が理想的です」などという真面目な文面もきます。

ところどころ、日本語のおかしい部分が出てくる

どんなお顔の方なのでしょうか。思いをはせているなかで、何やら不審なものも感じてきました。

ところどころ、日本語のおかしい部分が出てきたのです。

次のようなものです。

「ここで長くつき合う手をみたい。難しいと思いますが、やってみる気持ちで登録してみました」(原文のママ)

「つき合う手」とは、最初は“つきあう相手”の間違いだろうかと思っていましたが…。

さらに私が今井さんの顔写真を見たいというと「いいですよ、アプリを使い始めたばかりなので、だから慣れないことも多い。LINEで写真を交換してもいいですか?」といきなり、LINE交換を促してきます。

このメッセージ内でも写真は送れます。しかし、すぐにLINEを交換しようとしてきます。相手がロマンス詐欺師の可能性が出てきました。しかも「多い」の言葉で切るなど、日本語の怪しさがますます出てきました。

昔と今、詐欺の手口の違い

以前は、外国人風の美男美女の写真をアップして、マッチングアプリの利用者を引き付けていましたが、最近は、後ろ姿などで顔を見せないことで興味を引かせて、写真を見せることを口実に、LINEでのやりとりをしようとしてきているようです。

この背景には、なりすましの写真をアプリ側でも厳しくチェックしてはじくため対策がなされているために、最初のうちは顔を見せないパターンに出てきていると考えられます。

私はあえてLINEのQRコードを教えました。長年、この手の詐欺の調査をしてきたので、相手の写真を見れば詐欺師かどうかがわかるからです。

相手はLINEに私を友達登録したようで、「追加されました」という、またもや妙な日本語のメッセージを寄こします。

本来の日本語は「(友達に)追加しました」ですので、ロマンス詐欺師の可能性はかなり高くなりました。

LINEでは、すぐに友達登録となりました。相手からは「距離がもっと近くなったように思います。もっと仲良くなることを期待しています」とのメッセージがきます。そして、写真が送られてきました。

それを見て、「やはり」と思いました。

筆者のもとに送られてきた写真(筆者修正)
筆者のもとに送られてきた写真(筆者修正)

そこに写っていたのは、韓国人のような顔立ちのグラマラスな美女でした。出会った相手を引き付ける完璧な写真で、この今井を名乗る女性は、なりすまし詐欺師であることは、ほぼ間違いありません。

しかしこの手口を知らない人は、もしかするとこの写真の容姿に心惹かれるかもしれませんが、後ろ向きの姿から振り返れば「絶世の美男美女だった」は、危険だと心得て下さい。

「専門は詐欺です」というと

さて、相手を追い込むことにします。

まず「私の専門分野の仕事はご存じでしょうか?」と尋ねました。というのも、プロフィールに「詐欺や悪質商法の記事を書いている」とあかして、ロマンス詐欺への注意喚起をしている写真も載せていたからです。

「記者ですか?」と返事がきます。

「はい、専門は詐欺になりますが、ニュースは見られますか?」と返信すると、急に人が変わったように日本語がおかしくなります。

「そうだね。今は詐欺が多い」

見ているかどうかを聞いているのに、それに対しての答えになっていません。

「詐欺は多いので、かなり被害を受けた方の取材をしてきています」と返信すると「そうだね。お仕事はさぞかし大変だったことでしょう」という返事がきます。

さらに「ロマンス詐欺、投資サイト詐欺はご存じですか?」と返信をしましたが、既読にもならなくなりました。なりすましの行為がバレたので、逃げ出したのでしょう。

運営会社の対応は、以前と違っていた

さらなる被害が出ないように、この件を運営会社に通報しなければなりません。そのためにも正確にアプリ側へ伝えるために、今回の顛末をまとめておく必要がありました。

というのも、以前は詐欺被害に遭った人がアプリ側にその人物を通報しても、なかなかプロフィールが消えず、その人物による被害が次々に起こり続けていたからです。しっかりと相手がなりすましの人物であることを伝えなければならないと思い、一連のやりとりをまとめていたわけです。

翌日の朝、アプリの運営会社から、スマホに連絡がきました。

「お客様とマッチングされた『〇〇〇』は悪質なユーザーであることが判明し、利用停止の対応を行いました。もしLINEなどの連絡先を交換されていた場合、今後のご連絡はおやめ下さい」とのことでした。

すでにこの女性には「いいね」が数件ついていたので、おそらく別な誰かが通報したのかと思いますが、私の通報をする前の迅速な対応でした。

警視庁の要請も大きかったのかもしれませんが、利用者を守る対策は、以前に比べて、かなり改善されてきているといえます。

しかし詐欺師らは、対策の裏をつくのを常とう手段にしています。どんな対策をアプリ側がしても、入り込んでくることは充分に考えられます。

だまされないための4つの注意点

そこで、今回の体験をもとに、注意点をまとめておきます。

1.後ろ姿など、顔を見せずに近づいて、写真を送るためという口実でLINEのやりとりを持ち掛ける。後から送られてきた写真が、美男美女だったら、怪しいと思うこと。

2.日本語のおかしさに気づいたら、誤字などの打ち間違いだろうと思わずに、詐欺を疑うこと。

3.質問に正面から答えずに、誤魔化してきたら、やりとりをやめる。

やっとマッチングした相手なので、相手の機嫌を損ねると思い、質問への答えが曖昧だったとしても、突っ込んで聞くことをためらい、やりとりを続けるケースがありますが、被害に遭わないためにもしっかりと尋ねて下さい。

4.出会った女性から、ぼったくり店などに誘われるケースもあり、男性は待ち合わせ場所やお店は自分で決めて、主導権を握っての対応をとる。

私はロマンス詐欺師のメッセージを見るために、有料会員になってしまいましたが、真剣な出会いを求めている人をだまそうとする輩を許すことはできません。

今後も利用者の立場から、良い相手が見つかるまでになりますが、マッチングアプリの状況を注意深く見守っていきたいと思います。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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