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ロマンス詐欺師は名刺を見せる そのお店に行ってみると… 偽投資サイト詐欺の被害女性の苦しみと悲しみ

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

「出会った相手の男は日本人と外国人のハーフを名乗っていました」

50代女性の相田さん(仮名)が、40代男性と出会ったのは今年の春、大手のマッチングアプリでした。男はアプリ内でメッセージのやりとりをするなかで「LINEで話をしよう」といい、さらに「アプリからの退会」を促してきます。彼女は良い人と出会ったと思い、アプリを退会します。

「好き」から「愛している」の言葉に変わり…恋に落ちる

相田さんはLINEで男から「あなたが好きです」「一緒に暮らしたい」というアプローチを受けます。

「そのうちに『好き』から『愛してる』という言葉に変わっていきました。朝から夜まで、たくさんのメッセージをするなかで、彼は『私が仕事で疲れている』と話すと、体の面だけでなく、メンタルも気遣う優しい言葉をかけてきてくれました」

何より、自分との価値観の共通点も多く、いつも自分のことを思ってくれる言葉の数々に、彼女は徐々に彼を信頼するようになっていきます。アジア系の端正な顔立ちもあり、相田さんは1週間たった頃にはすっかり恋に落ちてしまっていたと話します。

将来のためにと、投資話を持ちかけられる

そのなかで「自分は投資をしていて儲かっている」といってきましたが、最初のうちは関心がないので、男の話をスルーしていました。それでも「自分のしている投資をやってみないか」と何度も誘ってきます。

恋愛感情を抱かせられた相手からの誘いゆえに断り切れずに、出会ってから10日ほどして、投資サイトに登録をして約5万円を振り込みました。

投資サイト上では「USDT」(テザー)の暗号資産で、振り込んだ金額分が表示されます。そして男のいうように投資をすると1万円ほど儲かります。そこで彼の指示のもと出金の手続きをすると、自分の口座にお金が戻ってきます。さらに数十万円の入金をすると、10万円以上が儲かりました。

1~2度儲けさせて儲かる投資サイトであることを信じさせる。今年に入っても、以前と変わりなく行われています。

儲かる状況を信じ込んでしまった相田さんは、LINEでつながった投資サイトのカスタマーセンターに指示された複数の銀行口座へ入金します。そのトータル額は500万円を超えます。

不正口座は全員、日本人の名義、そして複数のネット専用銀行

相田さんによると「振り込み先は、全員、日本人名でした」と話します。多くの日本人が不正口座の開設に手を貸している実態が伺えます。

以前と変わってきている点として、外国人名義ではなく、ほぼ日本人名義であること。そして、これまでは大手の某銀行の口座にお金の振り込みを指示させるのが一般的でしたが、今は複数のインターネット専業銀行への振り込みも指示していることです。

もしかすると、ネットから不正な形での口座開設が容易になっている面があるのかしれません。インターネット専業銀行側も不正口座の開設には目を光らせる必要があります。

彼女がここまで金額が膨らんでしまった理由に、ボーナスイベントに参加させる手口が使われたことがあります。これはある一定の目標金額を投資サイトに入金をすると「USDT」の形で、ボーナスが受け取れるというものです。

この手口は以前からありましたが、今もまだ続いています。

投資サイトから、ボーナスイベントに参加しないかと誘われたら、詐欺を疑う

気をつけてほしいのは、出会った相手からの「ボーナスを受け取るために、僕が協力する。お金を貸してあげる」という言葉です。

相田さんの場合も、男から数百万円を入金してもらったといいます。その時、投資サイト上のお金は増えていました。

「男からは『あと100万円の入金でボーナスが受け取れるから、残りのお金を工面してほしい』といわれました」(相田さん)

彼女が彼の言葉を拒否できない理由の一つに、ボーナスイベントをやめると、数百万円の違約金がかかるようになっていたことがあります。一度参加すると、目標金額を達成するまで後には引けない状況を、投資詐欺グループの側は作っていたのです。

「二人で将来住むための家を買おう。そのために貯金をしよう」などの言葉で、「ボーナスイベント」に誘ってきたら、詐欺を必ず疑ってください。

写真だけでなく、動画で相手の心をつかむ

「彼から『たくさんの(相田さんの)写真がほしい』といわれて送ると、私の写真をミックスさせて編集した動画を送ってきてくれました。心が落ち込んだ時には、何度も動画を見返して、気が付けば心のよりどころの一つになっていました」とも相田さんは話します。

出会った異性の恋愛感情を高めるために、こうした動画を作り、騙そうとしてくることもあります。

「違う、違う」と口ではいいながらも…

彼女はすでに貯金をすべて使い果たしていたので、親族に借金の相談をしました。その時に「詐欺ではないのか」といわれて、口では「違う、違う」といいながら「もしかして」の思いがよぎります。

ネットで調べていくと、自分とまったく同じ手口で騙されている人がいることがわかり、自分が詐欺に遭っていることに気づきました。

そこで彼女は警察にいきます。しかし警察からは「今の時点で詐欺かどうかはわからない。どうして、これが詐欺だとわかるんですか?」との答えが返ってきたそうです。

しかし彼女が被害に遭った手口は、すでに警察庁などから注意喚起されている、ロマンス投資詐欺の手口でほぼ間違いありません。

警察からこのような言葉を受けて被害届を受けてもらえませんので、詐欺と認めてもらうためには、やはり出会った男が架空の人物であることを調べる必要があります。

男は自分の職場の名刺を写真で送り、見せてきました。相田さんもその名刺を見て、信じてしまったそうです。

名刺のお店に行ってみると…

男が勤めるという職場は、彼女にとっては遠方ですが、筆者の家から遠くないので行ってみました。

お店を訪れて、「○○さんはいますか?」と名刺にある男性名を尋ねると「そうした人はいません」との答えでした。男はこの職場に存在せず、明らかに彼女を騙していたことがわかりました。

そこで、このお店の名前が使われて、詐欺被害に遭った方がいる状況をつげると、お店の方は快く、取材に応じて下さいました。

男の名刺をお店の方に見てもらいました。すると、お店の方が実際に使っている名刺を出してくれましたので、見比べてみると、デザインも色もまったく違うものでした。

男が働いているというお店の写真を見てもらう

さらに男が自分が働いている店の写真を送ってきていたので、それも見てもらうと、「これは、うちではありませんね。中国か台湾の感じのお店にみえますね」との答えでした。

この会社の名刺を使って、相田さんを騙したということは、他の女性にも同じ名刺の写真を使い回して被害が出ている恐れもあります。

そしていまだ、気づかずに、お金を払い続けていることも考えられます。何よりこの店の名前がかたられて、風評被害を受けている状況ですので、お店の側からも、彼女が出会ったという大手のマッチングアプリにも連絡をして頂けるとのお話を頂きました。

被害が起きた時のすばやい対応がカギ

今なお、マッチングアプリをきっかけにした詐欺行為が横行しています。

これまでもマルチ商法の勧誘や、投資マンションの悪質な勧誘や、詐欺行為などの様々な犯罪のツールとして利用されてきています。より厳格なアプリ側の対策が求められています。しかし今も被害が多発している現状をみると、あまりその状況が改善していないといえます。

危機感を持ってほしい点は、アプリを通じて詐欺被害に遭う人がいると、そこに振り込ませる不正口座が増えることにもつながり、詐欺の連鎖がどんどん広がっていくことになることです。

この犯罪組織の本体は海外のグループですので、相手の素性はわからず、お金はまず戻ってきません。入金した口座にお金が残っていれば返金もあるでしょうが、すぐに詐欺グループは出金しますので、詐欺に気づいた時には口座は空になっていることがほとんどです。もし残っていても、被害者同士で分配しますので、わずかなお金しか戻ってこないのが現状です。

とはいえ、国内には不正口座を開設した人物がいるわけですから、この詐欺にかかわった人物らを一人でも多く警察にすばやく逮捕してもらうことが必要です。

彼女自身も仕事先に相手の男がいなかったことを踏まえて、被害届を警察に受理してもらえるように動くとのことでした。

彼女がマッチングアプリに連絡するも、いまだ返事なし

サイト利用者からの通報と、それを受けたマッチングアプリの運営会社の素早い対応と、警察との情報共有、連携が求められます。そして被害報告を受けた警察の捜査、これらのどこかが欠けていてもダメです。三位一体となった取り組みこそが、深刻な詐欺被害を減らすことにつながります。

残念なことに、相田さんが大手マッチングアプリに問い合わせの形で連絡したものの、いまだ返信がなく、詐欺師である男の写真などの情報も送ることができないということです。これがマッチングアプリの現状です。

おそらく現会員であれば、すぐに対応するのでしょうが、ロマンス詐欺師によって意図的に退会させられた人の言葉には、迅速に対応しない点も見えてきており、こうした点が被害を拡大させている一因にもなっているといえます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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