だます側は、ワル知恵を絞って、私たちのもとにやってきます。そこで、被害を防ぐためには、最新の手口を知り、「よし、こうしよう!」と、反対の善良な知恵を絞ることが必要になります。

デルタ株が蔓延しつつあるなかで、東京に4回目の緊急事態宣言が出されようとしています。詐欺犯らもこの波に乗って、さらなる詐欺の罠をしかけようとすることでしょう。

すでにコロナ禍に便乗した詐欺の手口は横行しており、金銭的被害もでています。

警察庁によると「ワクチン注射の予約ができる。予約がとれたら返金するなどと言われて、お金を支払った」や「ワクチン開発への投資を持ちかけられて支払った」という被害があったとのことです。

実際、ニュースでも、コロナ関連の詐欺事件が報じられています。

ワクチン開発名目で詐欺 4250万円被害(産経新聞)

昨年7月、70代女性のもとに銀行員をかたる人物から「新型コロナウイルスワクチンを開発するための債券を優先的に購入できる権利が、あなたにはある」という電話がありました。そこで、自分の名義を貸すことに同意したところ、後日「名義貸しは犯罪行為だ」と犯人側に言われて、解決金などの名目で、繰り返してお金を払い、4250万円をだまし取られています。今年3月に警察に赴き、事件が発覚したということです。

また同庁からは、新型コロナウイルス感染症に関連した特殊詐欺事件として「高齢女性が市役所職員及び金融機関を名乗る男から『コロナの還付金がある。書類は届いていますか。手続をしますのでキャッシュカードを持って銀行のATMに行ってください』などの嘘の電話を受け、ATMで男の言われるままに操作して送金した」との事案もあったとのことです。

今は、ワクチン接種の予約をするために、多くの人たちが市役所に電話をしたり、ネットにアクセスしています。さらに「ワクチンを保管していた冷蔵庫の電源が入っておらず、廃棄処分された」「ワクチンの供給が滞り、予約のキャンセルが行われた」などのニュースも流れ、中高年の多くは、自治体の方を向きながら、日々、生活せざるをえなくなっています。

そうしたなかで市役所を装う者からの「保険料を払いすぎています」との嘘の電話に耳を傾けてしまい、多くの人が還付金詐欺の手口に引っかかってしまっていると考えられます。

さらに詐欺犯たちは、「ワクチン接種の予約はまだだから、関係ない」そう思う人たちも狙ってきています。

ワクチン未接種理由に、女性が100万円だまし取られる(山陰中央新報)

鳥取市の60代女性のもとに、男性から「医療保険の還付金がある」との電話がかかります。ここまでは従来の詐欺の手口と同じなのですが、次からが違います。

「新型コロナのワクチンの注射を打っていない方は、窓口での取り扱いができませんので、ATMに向かってください。そこで手続きができます」と言われ、ATMを操作して100万円を振り込んでしまいました。

私も50代で接種券は届きましたが、基礎疾患も特にないため、自治体での接種の予約受付はまだ先です。ワクチンの未接種の人を狙う手口には、警戒が必要になってきています。

詐欺被害に遭わないために

警察庁は「まずは、犯行グループからの電話を直接、受けないことが効果的です。警察では、防犯機能付き電話機、自動通話録音警告機等の迷惑電話防止機能を有する機器や留守番電話機能の活用を呼びかけています。また、ワクチンは無料で接種できます。予約はインターネット・電話等で受け付けていますが、予約金は必要ありません。もし不審な電話を受けた時には、住所、氏名、資産状況等の個人情報は答えず、電話を切って家族などに相談し、最寄りの警察署や警察相談専用電話『♯9110』などに相談してください」と注意を促します。

これまで見てきたように、詐欺犯らはその時々の状況に合わせながら、微妙に手口変えながらアプローチしてきます。それゆえ、さらに効果的に詐欺を防ぐためには、警察の注意する対策をベースに、私たちも状況に合わせた形で、「防犯の知恵」を上積みすることが欠かせません。

詐欺を防いだ事例を見ても、それがよくわかります。

「システムエラーです」 バイトの優しいうそが特殊詐欺被害防ぐ(毎日新聞)

三重県の70代男性が、25万円分の高額な電子マネーを買おうとしました。コンビニの店員らが詐欺を疑い、声をかけますが、男性は応じなかったそうです。そこで店員らは警察を呼ぶことにしたのですが、男性を店にとどめ置くために機転を利かせます。

「システムエラーが起きてます」

今、電子マネーが購入できないことを話して足止めをさせたのです。

後に、警察がやってきて、男性の電子マネーの購入理由は、サイトの利用料金名目の詐欺だとわかり、被害を食い止めることができました。

詐欺犯らは、「未納料金がある」「会社の金を使い込んだ」など、ありもしない大きな嘘をついて、高齢者らをだまそうとします。まさに、それを逆手に取り、小さな嘘で詐欺を未然に防いだわけです。

以前から話していることですが、大きな嘘をつく人物の前では、小さな嘘で身を守ることが大事になります。警察の騙されたフリ作戦を見ても、それがよくわかります。

北品川駅の取り組みも、防犯の知恵が効いている。

今や、オレオレ詐欺を仕掛けた時の現金の受け渡しは、公園などの人気のないところに、高齢者を呼び出して、お金の受け渡しをさせます。その際、被害者の後ろに警察の尾行がないかなどの確認をするために、最初は誰もが行きやすく、わかりやすい駅に呼び出します。そして携帯の持たない高齢者には、駅にある公衆電話から指定する番号に電話をかけるように言い、次の移動場所を指示します。

東急電鉄の北品川駅では、駅構内の数か所に「注意」の張り紙をしました。

東急電鉄株式会社からの提供写真
東急電鉄株式会社からの提供写真

「多額の現金をお持ちで,息子さんやお孫さんと,北品川駅でお待ち合わせのお客さま!! 伝言がございますので,駅事務室へお越しいただき,駅係員にお声掛けください!」

ここには、防犯の知恵が効いています。

多くの注意喚起では、「詐欺に注意!」との言葉を直接的に書いています。

しかしこれでは、詐欺に遭っていながら、自分のことではないと思いスルーする人も出てきてしまいます。

そこで、本人に思いあたるような形で記述をして、「伝言がございます」と、ごく自然に駅員に尋ねるように仕向けているところがすばらしいといえます。

東急電鉄の広報担当者によると、「以前から、詐欺の受け渡し場所に北品川駅が指定されており、2018年から駅員に高齢者が尋ねたことなどがきっかけで、詐欺を防いだケースは6件確認されていました。その後、新型コロナの影響で、改札の窓口を閉めることになりましたが、警察との情報共有から、駅周辺での特殊詐欺による現金の受け渡しの件数は減っていないことがわかり、駅係員が『何か駅としてできることはないか』と考えて、ポスターを作成、掲出することになりました」ということです。

「何かできることはないのか」という思いから出発しており、ここにも知恵を利かせての防犯対策がみられます。

それにしても、なぜ、この北品川駅が詐欺犯に使われてしまうのか、わかるでしょうか?それはなんといっても、品川駅に比べて、乗降客が平日の乗降客数が少ないからです。

というのも、詐欺グループには、直接に現金を受け取る「受け子」の他に、それを見ている「見張り役」がいます。この見張り役らが、おどおどしながら紙袋をもって不安になっている高齢者をまず見つけて、周囲を見回して、尾行がないなど、大丈夫と思ったところで、ターゲットを別な場所に移動させて、お金の受け渡しをさせます。つまり、あまりに人の多い駅では、被害者を効率よく見つけることができないため、比較的乗降客の少ない駅を選ぶ傾向があります。

ですので、乗降客の少ない駅ほど、こうした知恵を利かせた注意喚起の効果はあると思っています。

何より駅構内にこの張り紙をすることで、「ん?これは、どういう意味がある?」と道行く人にも考えさせ、人目を引くことができます。これは被害者自身が尋ねやすくなるだけではなく、見守る側への詐欺の意識を持たせる意味合いも大きいと思います。

さらに、これを見た詐欺犯は、この駅は詐欺には使いづらいと思い、回避することになるでしょう。

二つの防犯事例からみえてくるのは、状況に合わせた、「知恵の上積み」です。

詐欺の起こる状況はその時々によって違いますので、その場に合わせた知恵を付加することで、間違いなく被害を防ぐことができるのです。