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スギHD会長夫妻へのワクチン接種の優先予約に続き、町長も。詐欺対策において全国民への影響必至【追記】

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

詐欺犯らがもっとも好むものは、混乱、不安、焦りです。これに乗じて、彼らはやってきます。現在の接種状況をみながら、2015年に発生したマイナンバー詐欺を思い出します。まさに、今は、当時の状況に酷似しているのです。

 今、続々と、ワクチン接種に関する不審電話がかかってきています。この背景には、各自治体でワクチン接種の予約受付などで混乱が生じていることがあるからに他なりません。

何度かけても、電話がつながらないまま、予約終了となる。

ネットでの予約システムに障害が起きてアクセスできない。

逆に、ネットに不慣れな高齢者のために、良かれと思って、窓口予約を開始したら、人々が殺到して、徹夜で並ぶ人までが出てきて、窓口予約は中止となる。

接種現場でも、ワクチンではなく、誤って生理食塩水を接種したり、ワクチンを常温保存するミスを犯して、960回分を廃棄してしまったなど。

連日、自治体職員が「申し訳ありません」「申し訳ありません」と頭を下げて謝る場面ばかりが、目につく毎日です。

この光景をみながら、多くの人は、ますます不安を感じてしまいます。まさにこうした状況につけ入り、詐欺犯らは次々に詐欺につながる電話をかけてきているのです。

北海道では、今月11日、「口座に金を振り込めば、ワクチン接種が受けられます」という電話をかけてきて、だまそうとしてきています。

「指定の口座に金を振り込むとワクチン接種ができます」…北海道で初めて確認「ワクチン」めぐる詐欺に注意 (HTB北海道ニュース)

秋田では、50万円を払えば、ワクチン接種が優先的にできるという封書がポストに届いた事例もあります。

「ワクチン余った、50万円支払えば優先的に接種」…60代男性に不審文書

(読売新聞オンライン)

特に多いのが、「お金を払えば、優先接種できる」という電話です。消費者庁からもこの種の電話への注意喚起がなされています。

「接種予約を代行します」の勧誘 消費者庁が注意喚起 (朝日新聞デジタル)

によると、すでに全国の消費生活センターに、85件もの相談が寄せられていて、「『ワクチン接種の予約の代行をします』と話す人物が自宅を訪問してきた」というものもあるとのこと。

実は、これからの詐欺のアプローチでは、電話や郵送、ネットだけでなく、訪問にも注意が必要になります。

自治体の混乱ぶりで思い出される、マイナンバー詐欺

自治体の混乱ぶりをみながら思い出すのは、2016年に本格的にスタートしたマイナンバー制度です。この時も、多くの国民にこの制度が充分に浸透せず、自治体でも発行手続きなどのトラブルが続出する中で、その前年にマイナンバー詐欺が横行しました。

「マイナンバーカードの発行・登録には手数料が必要です」といって、高齢者宅を訪問してきた女が、1万2千円をだましとろうとしたとして、詐欺容疑で逮捕されています。

まさに、今の状況によく似ています。

実は、電話での詐欺の場合、組織的詐欺集団がかけてくるものがほとんどですが、訪問に関しては、個人が行うケースがあり、詐取する金額も比較的少額になります。

こうした混乱に乗じて、組織だけでなく、個人も入り乱れての詐欺が行われるので、少額を取る手口にも、注意をする必要があります。

さらに、詐欺電話に拍車をかける恐れが出るような事件が勃発しました。

それこそが、西尾市で起きた優先接種に関する事件です。

西尾市の副市長が、スギ薬局の創業者である会長とその妻に、ワクチン接種の予約枠を優先的に与えるように指示していました。内部告発により、その事実が発覚して接種当日に取りやめとはなりました。

夫妻が、地域に貢献している方だったゆえ、再三再四のワクチン接種の優先依頼の問い合わせに応じてしまったとの反省の弁をしています。

スギHD側も公式サイトに「当社、代表取締役会長ならびに相談役のコロナワクチン接種の対応に関する経緯について」と題して、謝罪文を掲載しています。

まさに、この件は詐欺対策にも、大きく水を差すことになりました。

詐欺を防ぐには、誰にでもわかりやすく、インパクトある言葉で注意しなければなりません。そこで、私は多くかかってきているワクチン接種の不審電話対策として、特に二つのことを中心にして、メディアなどで注意を促してきました。

一つ目は、「ワクチン接種に、お金のかかる話が出てきたら、詐欺!」です。

ワクチン接種は無料だからです。

二つ目が、「ワクチンの優先接種は、絶対にない!」です。

つまり、「『お金』『優先接種』の言葉が出てきたら、詐欺を疑う!」というものでした。

ところが、今回の事件で、二つ目の詐欺対策がもろくも崩れ去り、この事件を知った時、私は愕然としました。

「えっ、優先接種の事実があった?これまでの詐欺対策が、ボロボロになる恐れが出てきたな……」と。

というのも、このような事件があると、詐欺犯は次のような巧みな文言を駆使して、高齢者宅に電話をかけて、信じさせる可能性があるからです。

接種予約がなかなかできない人に「実はこうした優先接種は、裏ではよく行われているんですよ。表に出てこないだけです。優先予約が代行できますよ」と、電話をかける。

この事件は、詐欺犯らにもっともらしい嘘を、つきやすくさせてしまったのです。

まさに、詐欺のアプローチをしやすい、混乱、不安、焦りを生む環境を、さらに作り出してしまったわけです。

詐欺犯らにつけ入る隙を与えてしまったことを考えれば、もはや西尾市の地域住民だけでなく、全国民に対して、大きな迷惑をかけてしまったということになるのです。

【追記(5/13)】

スギHDの会長夫妻に続いて、兵庫県神河町の町長、茨城県城里町の町長などが、優先的にワクチン接種を受けていた事実が、次々に明るみになりました。

詐欺グループが利用するであろう、公に知らされない形で優先接種をしていたニュースがどんどん出てきています。

もはや「優先接種はない」では、詐欺を見抜けなくなってきています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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