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あなたの知らないロマンス詐欺がやってくる。(1)「プリカを買ってきて」から、黒い紙幣まで登場

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

コロナ禍で人と会う機会が減り、ネットを使っての出会いも多くなっています。そうしたなか、海外から日本の男女を狙っての詐欺アクションが多くなっています。

架空の外国人異性がマッチングアプリなどでアプローチをしてきて、恋愛を感じさせながら騙す国際ロマンス詐欺

これまでのようなイケメンの軍人関係者が連絡を取ってきて、お金を請求する……の形ではなく、より手口が巧妙化してきており、「ブラックマネーを使う」「プリカを買ってきて」が出てきています。さらに、詐欺がばれてからの脅迫行為もあります。

プリカを買ってきて

今年の夏、50代女性は、マッチングサイトで、年の近いアメリカ在住の外国人医者と出会いました。彼女自身、英語ができるので、スカイプでのメッセージのやりとりを始めます。

そのなかでわかったのは、彼は3年前に奥さんを亡くし、10代の女の子を始めとした3人の子供を育てていることでした。

知り合って1週間もしないうちに、彼は「結婚してほしい」と言ってきます。

彼女は、突然の告白に驚きましたが、メッセージのやり取りをしながら、彼は医者という仕事もこなしながら、3人の子供を育てており大変なことに思えました。しかも、医者としての財産もあるのでとても魅力的に映りました。

時に、スカイプ電話で英語の会話もしました。

彼は彼女の身の上話もよく聞き、「これまで、どのようにして子育てをしてきましたか?」と真剣に聞いてきます。

そして口頭で「やはりあなたは自分の妻にふさわしい。3人の子供の親になってほしい」と懇願します。

しだいに彼女も「この人の人生の役に立ちたい」「好きな人と一緒にいれたら幸せだ」と思うようになり、結婚を承諾しました。

すると子供たちから、「ママ、いつヒューストンに来るの?」というメールも届きます。

彼女の母性本能もくすぐってきたのです。

まもなくして、彼から「9月初めにワシントンの出張後に、仕事で来日する」との連絡がありました。

さらに「もう少しで長女の誕生日がやってくる。ぜひとも、彼女にiTunesカード1万円をプレゼントしてくれないか。それに、2番目の男の子にも同じものを」と言います。彼女は「誕生日をきっかけに新しいお母さんになる私に、子供たちの印象を良くしたいだな」と思ったそうです。

コンビニに向かい、1万円のプリペイドカード(プリカ)を2枚購入し、シリアルナンバーを子供たちのメールに張り付けて送ります。

すると、長女から「マミーありがとう!あなたは私の一番のお母さん」と喜ぶメールが届きます。彼女も嬉しい気持ちになりました。

しばらくすると彼は「今、出張中で忙しいのだが、どうやら子供たちがゲーム機を壊してしまったようなんだ。新しいゲーム機を買うために、子供たちに5万円のiTunesカードを送ってくれないか」

彼女は、再びコンビニに行って5万円分のプリカを購入します。

彼がワシントンから飛行機に乗り、日本に到着するだろう数時間前に、また連絡があります。

「さらに10万円分が必要になった。着いたら返す」

そう言われましたが、彼女はとりあえず5万円分だけを購入して、ナンバーを伝えました。これで12万円です。

彼女は空港に迎えに行きました。しかしいくら待っても、彼は現れません。そこで宿泊先に問い合わせると、彼の名前はありませんでした。

ここで彼女は詐欺だと気づきました。

この国際ロマンス詐欺では、子供たちをだしに使って、彼女からお金をせしめる形を使います。

以前に、LINEを乗っ取ってその人物になりすまして、「プリペイドカードを買ってきてほしい」という手口がありましたが、まさにその国際ロマンス詐欺バージョンといえるでしょう。

彼女は「もう騙されない!」と、お金を払わずに無視をすることに決めていると、詐欺師の男性は次の手に出てきました。

なんと!詐欺と見抜かれながらも、詐欺をする

「私は、アフリカ人です。米国に行ったことはなく、子供もいません」といきなり、ぶっちゃけたメッセージを送ってきたのです。

さらに「実は、私は有名な詐欺師である人物の下で働いています。あなたはこれ以上お金を払わないようなので、彼は、あなたのすべての写真をオンラインで公開して、あなたを脅迫しろと言っています」

この時、彼女は青ざめました。

というのも、彼女は、つい彼とのノリからセミヌード写真を送ってしまっていたからです。

しかも巧妙なのは、この写真を盾に「金を払え」とはいってこない点です。

「しかし私は(セミヌード写真の公開を)拒否して、上の人間である詐欺師から殴られて怪我をしています……ついに、私はお金までとられてなくなってしまいました」と同情を誘います。

彼女は詐欺に気づいたとはいえ、まだ数時間しかたっていません。恋愛感情に訴えて、お金を取るように迫ってきたのです。

この手口にやられる人は多いことでしょう。

「あなたは素敵な女性で心が広い。私はあなたのために死ぬ準備ができています。私を理解して許してください、あなたの返事を待っています」

このように、ロマンス詐欺がバレたとしても、執拗に、相手の心につけ入ってお金を取ろうとし続けるのです。

幸いにも、彼女は周りの人たちに相談をしており、その後、気持ちを切り替えて、電話番号もすべて変えて、男との連絡を絶ちました。ただ、どこかで写真は使われている可能性も否定はできませんので、その点は心配なところです。

ブラックマネー&国際ロマンス詐欺も出現

その逆で、女性が男性を騙そうとするロマンス詐欺も出てきています。

60代男性は、SNSでアメリカ人女性と出会い、メッセージのやりとりをするなかで、「結婚してほしい」と言われました。

彼女は「自分の親の遺産が10億円ある」が「それを受け取ってほしいが、手数料がかかる」と言って、仲介役として日本に住むカメルーン人を紹介します。そして男性は5回にわたり、700万円を支払いました。

8月末日に60代男性は、遺産の半分500万ドル分(約5億円)のお金を渡されます。しかしそこにあるのは、すべて黒い紙幣でした。

仲介人は言います。

「これらは1万円札と100ドル紙幣を黒くしたもので、薬品で洗うと元の紙幣に戻ります」

実際に薬品をかけて元の紙幣に変わるところを見せたのです。

これはブラックマネー詐欺といわれるもので、黒い紙幣を本物の紙幣に変える実演をして信じさせますが、本物の紙幣は数枚だけで、あとはただの黒い紙をアタッシュケースに入れていることがほとんどです。

仲介人は「これらのすべての黒い紙幣を洗浄するためには、薬品を購入しなければなりません」と、その代金として、まず8万ドル(約800万円)を要求してきました。

しかし男性はおかしいと思い、その後、警察に相談して、そのカメルーン人は逮捕されています。この男には、余罪があるということで、他にも騙される男性もいるようです

薬品の購入費用をもちかけて、金を騙し取るブラックマネー詐欺自体は、十数年以上前から繰り返されているものです。

最近はあまり聞かなくなったと思えば、国際ロマンス詐欺とコラボしながらやってきたというわけです。

一口に海外からの詐欺アプローチといっても、様々なものがあり、日々巧妙化しているのです。

この他にも、オンラインカジノに誘われるロマンス詐欺も存在もします。

追って、詐欺の実情をリポートします。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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