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日本の都道府県知事について考える

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
日本の現在の知事はどんな出身か(写真:アフロ)

 最近、政治関連の記事などをみていると、何となく国会議員が自治体の首長に転身している方が増えているように感じる。

 そこで、47都道府県知事のバックグラウンド等を調べてみた。その成果をまとめたのが図表「都道府県知事バックグラウンド情報」である(注1)。

図表:筆者作成
図表:筆者作成

 同図表から、47知事のうち、実に14名(29.8%)が国会議員出身であることがわかる。

 以前は、知事や首長経験者が、選挙制度の関係もあり、その後参議院議員などの国会議員になることが多く、国会議員を経験後に知事などに転身する方は多くなかったと記憶している。それは、日本では、中央政府が上位で、地方自治体の方が下位という明治以降の近代化の中における中央集権国家であることの名残からだろうか。

 それに対して、現在において知事の約3割を国会議員経験者が占めているということは、国の中央政府が動きにくく、その成果が見えにくく、その活動が隔靴掻痒の感の国会議員に見切りをつけ、自身の独自性や役割を発揮しやすい自治体の長である知事に転身してきていると考えることができるのではないかと思う。今回は、知事に関する調査だけであるが、市町村の首長に転身する国会議員経験者も増えてきているように感じている。

 また、元国会議員で知事の議員時代の所属政党をみると、自民党が6名(42.9%)、非自民党が8名(57.1%)である。現在の国政をみると、2000年代には高かった改革志向や政権交代の可能性は完全に失われ、今の政治状況が大きく変化したり、政権交代が起きる可能性はない。その意味では、国会議員でも野党に属していては、大きな活躍はできにくい。そこで、野党所属の国会議員経験者が活躍の場を求めて、知事などに転身してきているということもできるであろう。

 現知事のうち、国家公務員出身者は実に26名(55.3%)を占めている。そのうち自治省・総務省出身者が10名(38.5%)、経済産業省出身者が5名(19.2%)、合計で15名(57.7%)と半数以上を占めている。

 このことからも、日本の自治体が中央政府とのつながりが今も強いということができよう。特に旧自治省・総務省は、全国の自治体を管理・監督する立場にあり、自治体との人的および財政・情報等において密接な関係にあり、地方自治の権限は拡大してきているが、この数字だけをみても、いまだ密接なつながりがあると考えることができる(注2)。

 そして、副知事経験者で知事であるものは8名(17.0%)で、ある程度の数を占めている。そして、そのうちの6名(75%)は旧自治省・総務省出身者である。このことからも、自治体は、今も旧自治省・総務省とのつながりがあるといえるだろう。

旧自治省・総務省出身の知事は多い
旧自治省・総務省出身の知事は多い写真:イメージマート

 地方公務員出身の知事は、10名であるが、そのうち5名は中央政府からの出向で、純然たる地方公務員出身者は5名に過ぎない。

 市町村の首長経験者の知事は9名(19.1%)で、ある程度の割合を占めているといえる。なお、地方議員出身者の知事は7名(14.9%)に過ぎない。これを国会議員出身や民間その他出身者の知事と比較すると半分である。また地方議員出身者で知事になった者のうち5名(71.4%)は、市町村の首長経験者である。このようなことから、国会議員経験者と比較しても、地方議員のルートから知事になるのは、市町村の首長経験がないと難しいことを考えると、ハードルが高いといえそうだ。

 民間およびその他の出身者の知事は計27名(57.4%)を占めており、意外に多いことがわかる(注3)。女性知事は、東京都及び山形県の2名のみである。

 このように現知事のバックグラウンド情報をみていくと、女性などの数は非常に限定的ではあるが、多様化してきてはいるようであるが、いまだ中央や国からの影響があるようにみえる。特に国家公務員出身者が多いことにもその点がみて取れる。

 他方、国会議員出身者の知事がある程度占めていることには、今の日本の中央政府や国の政治や政策の動きにおける失望や無力感なども反映されているのではないかともいえそうだ。

 日本における政治や社会の方向性を知るうえでも、今後とも、知事ばかりでなく、自治体の政治における動きや変化に注目していくべきだろう。

(注1)同図表は、さまざまな情報を基に作成したが、知事の職歴などで一部不明あるいは不確定な点もあったので、その点については、筆者の判断で分類してある。そのために、事実と異なることもありうることを付記しておく。

(注2)なお、旧自治省・総務省は、「明治~昭和(戦前)期の地方行政や警察など対民衆行政一般を所管した中央行政官庁(出典:小学館・日本大百科全書(ニッポニカ))」である「内務省」の流れを組む政府組織である。

(注3)この中には、国・地方の公務員経験者などでダブルカウントされている者も含まれている。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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