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「変われない」日本が、3つの事例から学べること

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
OISTのキャンパス 写真:OIST提供

 沖縄県にある沖縄科学技術大学院大学(以下、OIST)、千葉県の流山市、東京都調布市にあるドルトン東京学園中等部・高等部(以下、ドルトン)。この3つの組織・学校や地域をご存じだろうか。それらの3つは、一見すると、無関係であるように思える。だが、実は共通点がある。

 私たちは、日本では、厳格な規制や詳細な手続きなどで雁字搦め(がんじがらめ)で、新しいことや異なることをすることが難しく、変化できないと思うことが多く、ある意味そのようなことを諦めてきていた。その結果が、今の日本の「失われた30年」の事実に繋がってきているといえるだろう。

 日本は、1950年代から70年代の高度経済成長で多くの成果を生み出した。しかし、その後世界や日本社会は大きく変化し、海外の国々は日本の成功や経験から猛烈に学び、大きく変化してきた。また新しいテクノロジーや世界構造が大きく進展してきた。

 他方、日本は、90年代でのバブル経済の崩壊後、いくつかの改革の試みもあったが、自国・日本社会へのある意味のそれまでに得たと錯覚した「優位性」(今から見ると、その実態は相対的で経過的に過ぎないものだったのだが)への意識や「慢心」からそれらの動きは矮小化・極小化され、大きく変われなかった。

 その結果は、ある意味で日本社会に安定性を生んだが、日本は世界の変化から大きく取り残され、世界の中で「相対的」に衰退、低迷する結果となった。それこそが、日本の「失われた30年」の本質だろう。

 社会はその安定性が生まれ、変化が生まれにくくなると、厳格な規制や手続きを生み出し、それらが社会の硬直化を生むことになる。その社会の維持指向性が、私たちに、「日本は変わらない、変われない」というマインドを生み(注1)、根拠のない日本への「自尊心」「優越性」と同時に「失望感」「自虐感」を生み出してきたといえるだろう。

 そのような中で、本記事の冒頭のような新たなる試みをする組織や地域が存在しているのだ(注2)。

OISTは、学際性や多様性、国際性・国際水準、専門性などの視点や観点を軸にして、従来の日本の大学とは異なる仕組みで運営される大学。設立8年超で質の高い研究機関ランキングで世界9位になるなど、その高い研究水準で世界から注目されている。またそれらの視点や観点に基づいた、建物・施設・レイアウト等も、日本の基準とは大きく異なる、別社会・別世界を形成している。

OISTの象徴の一つであるトンネルギャラリ 写真:OIST提供
OISTの象徴の一つであるトンネルギャラリ 写真:OIST提供

流山市は、「母になるなら、流山市。」のキャッチコピーの下、「子育て中の共働き世代」に的を絞った政策から人材活用、産業振興、都市計画、環境保全などのテーマまでのさまざまな政策を同時並行で推し進めている。その結果、以前は、「千葉のチベット」と呼ばれるほど不便で、数多ある東京のベッドタウンの一つに過ぎなかっただけの千葉県流山市が2016年から6年連続人口増加率全国トップとなり、さまざまな問題や課題はあるようだが、脚光を浴びている。自治体は、国の規制やコントロールが相変わらず強く、その改革がなされてきたが、現在も3割自治とも言われる構図は大きくは変わってきていない。だが、流山市は、その現状の中でも、独自の努力で、新しい「自治体」像を提示しようとしている。

流山おおたかの森駅の駅前とS.C 写真:筆者撮影.
流山おおたかの森駅の駅前とS.C 写真:筆者撮影.

ドルトンは、「生徒中心の学校」および「社会に開かれ、社会のリアルと共に歩む学校」を実現するために、「それは生徒の学びに最適か、必要か」という視点から、現在の大人が用意した画一的な価値観からできた教育を問い直し、「多方向・複線型の生き方」を保証できる新たなる価値を生み出していける学校・教育や教員を生み出せるように、絶えざる問題・課題も生まれているようだが、現在の日本の教育制度の枠を守りながらも、新しい可能性を生み出すために、日々奮闘実践している。またそれらの理念は、同校の建物・施設・レイアウト等にも貫かれて、生徒の自由度・多様性が活かされたものになっている。

ドルトン  写真:筆者撮影
ドルトン  写真:筆者撮影

ドルトン校内を案内する安居長敏校長 写真:筆者撮影
ドルトン校内を案内する安居長敏校長 写真:筆者撮影

 以上のことからもわかるように、これらの組織や地域の共通点は、日本の多くの組織・学校や地域と異なる運営の仕方や対応をしていて、それなりの成果を出してきていることだ(注3)。その重要なポイントは、先述のような「変われない」日本でも、実は異なることや新しいことができるということであり、「変わること」ができるということである。また、それらの事例は、完成形というよりも、実験場であり、挑戦し続ける場であるということだ。

 これらの事例からわかるのは、日本も変われるのであり、私たちも絶えず学び、挑戦し続けていくことが必要だということだろう。

(注1)例えば、次の資料などを参照のこと。

「日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)」日本財団 2019年11月30日

(注2)これらの組織および地域については、次のような資料を参照のこと。

「創立8年で“東大超え”のワケ 世界中から人材が集まる沖縄・OISTのユニークな研究環境」井上輝一 ITmedia News 2020年3月16日

「OISTの挑戦にみた日本変革のヒント」鈴木崇弘 Voice2023年2月号 2023年1月6日

『もしわたしが「株式会社流山市」の人事部長だったら』 手塚純子 木楽舎 2020年12月15日

『流山がすごい』大西康之 新潮新書 2022年12月

「『早慶よりお金がかかり、進学実績は未知数』それでも"河合塾の中高一貫"に生徒が集まるワケ親には"信じて見守る覚悟"が必要」 中曽根陽子 PRESIDENT Online 2021年10月27日

「答えは全て自分の中にある。AI時代の学校に必要なことは、生徒に努力を求める『ティーチング』ではなく、夢中にさせる『コーチング』。」PREBELL 2022年12月3日

「理系だらけの女子校、期末試験ナシ、志願者殺到の進学校が打ち出す驚きの教育『豊島岡女子学園』『ドルトン東京学園』の魅力に迫る」富永雄輔 ダイヤモンドオンライン 2022年12月14日

・【進学塾VAMOS】ドルトン東京学園対談動画 ①から③(ここでは①のみ掲載)

(注3)もちろん、それら以外の事例でも独自に動いている例はあるだろう。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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