コロナ禍を乗り越えてサイエンスフェスタの新たなる「始動」…「科学×国際性」のOISTの真骨頂…
筆者は現在、沖縄科学技術大学院大学(OIST)にあるレジデンスに滞在しながら、研究活動をしている(注1)。
この滞在期間は、コロナ禍がいまだ残りながらも、世界や社会が、ここ数年の厳しい経験を経て、それを乗り越える試みや模索がなされ、次のステップに動き出してきているタイミングに偶然にも重なった。
筆者が、着任した9月はじめの時期は、OISTのキャンパス内部はさまざまな人や情報がインターラクティブに交わり、相互触発が起きる工夫がされているが(注2)、コロナ禍の影響で、学内でも交流や意見交換が活発に行われていたとはいえなかった。
しかし最近は、OISTの学内をみても、日常のインターラクションや交流をはじめとするさまざまな活動が、これまでよりもかなり前向きに動き出してきているように感じる。
その象徴の一つが、11月12日(土)にキャンパス内で開催された「OISTサイエンスフェスタ2022」(注3)といっていいだろう。
同フェスタは、コロナ禍以前は、5千人を超える参加者がある人気プログラムだった。コロナ禍のために、ここ数年対面での開催がなされていなかったが、今年は、コロナ感染への配慮をしつつ、対面参加者数は制限しながらも(午前午後の各回300名)、オンラインとのハイブリッド形式で開催された。
筆者も午後の部を参観させていただいたが、雨天にもかかわらず、会場は日本人ばかりでなく外国人の家族連れなどで満席に近い状態だった。
今回は、コロナ禍以前には行われているキャンパスツアーや学内での研究ユニットでの実験の見学などはできなかったが、そのプログラムの内容は、非常に充実したものだった。
参観したプログラムは、次の3部構成だった。
・「科学のマジック:巨大雲を作ろう!」
これは、電子技術のための光・物質相互作用ユニットのブルミス・テオドロスさんが、時に会場の子どもたちにも実験を体験させながら、ワイヤレスで伝導する電気、熱冷と空気圧の関係、化学反応の不思議、巨大な雲の作成等の科学を活かしたさまざまなマジック(?)というか不思議を実際に見せてくれるものだった。
・「OISTの秘密を見つけよう。オンラインラボツアー!」
今回は、OISTのキャンパスに入って実験などの見学ができなかったが、スタッフが研究室に潜入し、ライブ配信で、実験室の内部を実況中継。サイエンス・テクノロジーグループ(STG)のサイエンス・テクノロジーアソシエイトの久保結丸博士と量子情報物理実験ユニットの博士課程の院生である濱元樹さんから、量子コンピューター(注4)の研究について、実験装置をしながら。わかりやすい説明がなされた。
・「海の王者 サメの世界へようこそ」
非線形・非平衡物理学ユニットのファビエン・ズィアディ博士が、サメに関するイメージと実態の驚くべきギャップなどを分かりやすく解説した。また実物の標本を使いながら、子どもたちと一緒に、サメと他の魚との違い、サメの部位や雌雄の見分け方などについても学んだ。
どのプログラムも、たとえ科学への興味や関心が低くても、非常にわかりやすく、さらに大人でも学ぶことがたくさんあり、子どもばかりではなく同伴した家族の大人も十分に楽しめるような内容だった。つまり子どもでも誰でもが、見た目でもまた知識でも刺激を受けて、科学に関心をもてるようなエンターテインメントになっていた。またどのプログラムも、多国籍の研究者やスタッフによって、日英語で進行され、国際性豊かなOISTの特徴が見事に反映されていた。
各プログラムは、内容的にも非常に興味深く、インターラクティブでかつ楽しい内容だったので、子どもたちが、どのプログラムにおいても、日英語で、時に鋭いかつ時間が全く足りないぐらい多くの熱心な質問をしていた(注5)。
さらに、OISTのエントランス部分にあるトンネルギャラリーには、映画「スター・ウォーズ」のストームトルーパー、R2D2などのキャラクターが出現したり、科学者グッズを身に着けて写真を撮る場所やインスタスポットなども用意されたり、キッチンカーも用意されていて、コロナ禍での制約のなかでもできるだけ楽しめる工夫もされていた。
近年では、子供などに自然科学の面白さを伝える目的で、科学実験を応用した出しものを見せたり、見て楽しい実験や観客が参加できる実験などをおこなうイベントであるサイエンスショーが盛んに開催され、TV番組でも放映される機会が増えてきている。これに対して、OISTサイエンスタは、先にも述べたように、「科学(サイエンス)」と「国際性」を掛け合わせた、OISTの真骨頂を示す、サイエンスショーを超えたイベントに仕上がっていていた。
その意味で、同イベントは、子どもたちを科学や国際社会に対して、目を向けさせ、関心を高める非常に有効な機会になっていた。
筆者は、今回の同イベントに参加した子供たちのなかから、将来国際的に活用する研究者が必ずや生まれるに違いないという確信と来年以降の本格的な開催への期待を胸に、会場を後にした。
(注1)今回このような機会を提供していただいた、ピーター・グルース学長をはじめとしてOISTおよびその教職員の皆さん方には感謝申し上げたい。
(注2) 次の記事等を参考のこと。
・「OISTは、『ハウルの動く城』であり『アリスの不思議の国』なのかも?」(鈴木崇弘、Yahoo!ニュース、2022年10月8日)
・「創立8年で“東大超え”のワケ 世界中から人材が集まる沖縄・OISTのユニークな研究環境」(井上輝一、ITmedia News、2020年3月16日)
(注3) 本イベントはライブ配信されたが、OISTのHPでアーカイブ配信も予定されている。
(注4) 量子コンピュータについては、次の記事等を参照のこと。
・「量子コンピュータ」野村総合研究所のHP
・「量子コンピュータとは?専門家がわかりやすく解説」NECのHP
(注5)日本国内の大人が参加するイベントや会議などでもこんな光景はめったにない。