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日本にとって「人口減」は問題か?

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
人口減少が大きな問題になってきている。(写真:イメージマート)

 近年、日本における少子高齢化に伴う人口減少の問題が大きく注目され、社会に大きな影を投げかけている。

 実際、多くの地域での過疎化、地方の地域における人口減少やそれに伴う行財政問題や学校の閉鎖統合、中小企業等の後継者不在の問題、いくつかの産業分野における労働力不足などさまざまな問題が起きてきている。

 そのような問題・課題が生まれてくるなか、それに対して、政治や行政などからは、その危機的状況が語られ、その対策として、高齢者や女性の働きやすい環境づくりなども含めた雇用対策、出産などを含む人口増加対策、人口1億人維持などの意見や政策が出されるようになってきている。

 2022年4月15日に総務省が発表した「2021年10月1日時点の人口推計」によれば、総人口(含外国人)は2020年10月と比較して64万4000人減少し1億2550万2000人となり、減少は11年連続した。その減少率は統計を開始した1950年以来、最大となる0.51%となり、今後も同様あるいはさらに厳しい状況になることが予想されている。また労働の担い手である15~64歳の「生産年齢人口」は58万4000人減の7450万4000人で、総人口での割合は59.4%と、過去最低を更新した。

 このように人口減少は、ある意味、厳しく深刻な状況にあるということができる。

 しかしながら、人口に関しては、別の視点からの考察も必要なのである。

 まず、人口の変動は、基本的には、統計学的にもかなり正確な予測が可能であり、現在起きつつある日本の人口減少の問題はかなり以前から指摘されてきていた。それにもかかわらず、政治や行政などは、積極的な対策をとらず、今日のような状況に至っているのである。このことは、人口問題だけでなく、多くの社会課題においても当てはまることが多い。その意味では、日本における政策や対策において、ここでは特に「人口問題」に関して、非常に近視眼的で、場当たり的な対応がなされているという状況に対する問題提起をしておきたい。

人口減への政策・対策が打ち出されているが。
人口減への政策・対策が打ち出されているが。写真:イメージマート

 もう1点は、私たちは、どうしても現状を基に、社会の問題や課題を考えがちであるということだ。現在の日本の人口は、上記にもあるように、1億2550万人程度である。その現状を受けて、人口の急激な減少のなか、「人口1億人維持」などの意見や議論がなされている。

 ところが、下の図表をみてもわかるように、日本の長い歴史をみれば、現在のような1億人を超える人口規模こそが、日本において実は例外に近い状況なのである。

 日本の人口は、江戸時代(1603年 – 1868年)の初期は1200万人程度でその後増加し、明治初年ごろまでに3000万を超えた程度であったのである。その後人口が急激に増大し、第二次世界大戦期に若干の人口減があるが一貫して人口が増えてきたのである。

 そして、日本社会は、1960~1980年代に生産年齢人口がピークを迎え、労働力増加率が人口増加率よりも高くなったことにより、経済は人口ボーナスのメリットを享受し(これを「人口学的ボーナス」と呼ぶ)、経済成長が後押しされ、実質経済成長率が年平均で10%前後を記録した高度経済成長期(1955年頃から1973年頃まで)を実現したのである。

・図表:「日本人口の歴史的推移」

 出所資料:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(1846年までは鬼頭宏「人口から読む日本の歴史」、1847~1870年は森田優三「人口増加の分析」、1872~2005年は内閣統計局「明治五年以降我国の人口」、総務省統計局「国勢調査」「推計人口」)

・図表「日本の人口推移(明治期~21世紀~2110年)」

 出所資料:旧内閣統計局推計、総務省統計局「国勢調査」「推計人口」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成24年1月推計[出生中位・死亡中位推計])

・出所:上記2図表ともに、「人口減少・超高齢社会日本の課題と調整」(鹿島平和研究所 外交研究会(2013年 11月28日(木))での国立社会保障・人口問題研究所・金子隆一氏(当時)作成PPT資料の一部。

 しかしながら、この人口増加に加え、地方から都市部への人口の加速度的移動が行われて、都市部の学校や上下水道、交通機関などのインフラの不足とその対応が必要になったのである。筆者も、当時、地方の都市部に生活していて、日々新しい学校が新設されたり、学年毎に毎年新しいクラスが増加するような状況にあって、日々の社会的な変化や発展・進展を体感していたことが、今も記憶に鮮明に残っている。このようにして、当時は急激な人口増加によって、現在とは別のさまざまな社会的な問題や課題が起きていたのである。

 このように人口増加の時期は、「人口ボーナス」といわれるように、人口増加のプラス面がいわれることが多いが、さまざまなマイナス面もありうるということだ。

 上述のことから、少なくとも3つの点がわかる。

 1つ目は、「人口の適正規模」の問題である。

 日本の歴史における人口の推移を見た場合に、実は現在の人口規模は例外的なものであり、この国にとっての適正な人口規模(簡単に決められることではないが)はどの程度なのかについて社会的に議論し、考えていく必要があるということである。現在の日本においても、さまざまな社会的変化が起きてきており、その変化への対応が必要になってきている。その意味で、地域・都市との関係、人口密度、都市化、インフラ整備、日本社会全体のあり方、個々人のライフスタイルや住環境などさまざまな問題・課題を考慮する必要があるが、今日のように、人口減少期にある時期だからこそ、人口的な観点からみた、日本のあり様を考えるべきであるといえよう。その意味で、現在は、日本社会にとって、貴重なチャンスの機会なのだ。

 2つ目は、「人口の増減」の問題である。

 上述したように、人口増はメリットもあるが、その急激な変化は、さまざまな社会的な問題や課題を生むのである。実は、同様のことは、人口減少の場合にも当てはまるのだ。人口減少期には、総人口に占める高齢者や子供(従属人口、65歳以上及び14歳以下の人口)の人口割合が高まり、経済成長の足を引っ張っている「人口オーナス」の状態になる。日本は現在、正にその状態にある。その結果、労働力不足や税収減などの問題が起きるのであるが、上述したように、当該の国・社会を再認識・再考し、そこにおける新しい社会を構築することのできる機会であるなどというプラスの面もあるのだ。

人口ボーナスと人口オーナス
人口ボーナスと人口オーナス提供:イメージマート

 他方で、現在の日本では、主に人口減のマイナスの面や問題・課題だけが指摘され、議論されている。それはある意味で、ある特定の考え方や方向性を実現するための誤った対応や操作、さらに政策的プロパガンダであるともいえるのではないかと思う。日本の人口減の現状をもっと冷静に理解し、それに基づいて今後の対応や方向性を考えていく必要がある。

 最後が、「人口の変動」の問題である。それは、「人口の増減」の問題とも関係することだが、その増減が起きる時期・期間(長さ)の問題であり、それが急激かつ短期間で起きることが実は問題なのである。

 そのような社会的な変化が短期間で起きた場合は、現在の政治・経済・社会的な仕組みなどは、その変化に対して短期的に迅速に変更、改善できず、さまざまな問題が起きるのである。行財政、税制、社会保障の制度や政策が、その変化にアジャイルに対応できず、社会的な問題・課題が起きて、社会的な不安や混乱が起きるのである。

 現在の日本で起きつつある雇用や行財政・税制、子供や女性の貧困、社会保障などにおけるさまざまかつ多くの問題・課題は、人口減少などを中心にした「短期間」でかつ「急激」な変化に、的確に対応できていない、政治・政策・行政の現状から生まれてきているといえるのである。そのことは、これまでこの問題に真正面から向き合ってこなかった政治・行政や社会の問題でもあるのだが。

人口問題を考える際には、自分たちの社会を適切にイメージすることも必要だ
人口問題を考える際には、自分たちの社会を適切にイメージすることも必要だ提供:イメージマート

 これまで論じてきた人口に関わるいくつかの視点からもわかるように、今日の日本の人口減に関わる問題・課題は、やや的外れの議論がなされているように感じる。今起きつつある問題の本質は、実は「人口減」そのものよりも、「人口の急激な減少」に伴うものなのである。

 その意味で、現下で起きつつある「人口減問題」の本質をとらえて、今後の日本を中長期的にどのようにしていきたいかという視点なども考慮しながら、考え、議論していく必要があるということができるだろう。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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