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改めて、国・国家のあり方について考えてみた。

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
国・国家とは果たして何であり、その役割は?(提供:イメージマート)

 国・国家が何であるかを定義づけるのは難しいが、一般的には、「一定の領土と国民と排他的な統治組織とをもつ政治共同体をいい,また一定の地域 (領土)を基礎に固有の統治権によって統治される継続的な公組織的共同社会」(出典:ブリタニカ国際大百科事典・小項目事典)を指している。

 そして国・国家は、そのような共同体を形成することで、当該地域の社会を運営し、ある意味でその社会やそこの国民・住民等の豊かさや繁栄(それらが誰にとってのものであるかは議論のあるところであろう)をもたらすものであろう。

 その観点から、国・国家を考える上で参考になるいくつかの情報があるので、それを基に、国・国家について考えてみたい。

 まず「表1:幸福度ランキングに基づく国ランキング」をみていただきたい。同表は、「①幸福度」ランキングを中心にして、「①幸福度」「②人間開発指数(豊かさ)」「③民主主義指数」および「人口」のランキングを組み合わせて作成したものである。

(注)表1は筆者が作成。
(注)表1は筆者が作成。

 同表の①は「幸福度」ランキングである。これは、世界幸福度調査(World Happiness Report)の結果に基づいて、国連機関である持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)が毎年発表している世界ランキングである。同ランキングは、キャントリルラダー(Cantril ladder)の手法を採用し、幸福度が0~10までの11段階中のどこに当てはまるのかというアンケート調査(各国年間約1,000件の回答の収集。3年間平均に基づき各年の幸福度ランキングを決定)である。目には見えない「幸福度」を、主に「主観的な幸福度」で数値化して、順位付けしている。なお、同幸福度では、「1人当たり国内総生産(GDP)」、「社会的支援の充実(社会保障制度など)」、「健康寿命」、「人生の選択における自由度」、「他者への寛容さ(寄付活動など)」、「国への信頼度」の6つの項目を加味して判断している。なお同表の①は、2021年版ランキングに基づいた、国・国家の順位を示している。

 同表の「②人間開発指数(HDI:Human Development Index)」は、パキスタンの経済学者・マブーブル・ハックによって1990年に考案され、国連開発計画(UNDP)が毎年発表しているもので、「健康」「教育」「所得」の3つの側面から、国の発展レベルや豊かさを測定する指標のことである。同表の②は、2019年版に基づいた国のランキングである。

 同表の「③民主主義指数(Democracy Index)」は、英国のエコノミスト誌傘下にあるエコノミスト・インテリジェンス・ユニット研究所が、世界167の国・地域を対象に毎年発表している、各国の政治の民主主義のレベルを、「選挙過程と多源性」、「政府機能」、「政治参加」、「政治文化」、「人権擁護」の5部門から評価した指数である。同表の③は、2021年版に基づく国のランキング(正確には、同ランキングは国・地域を対象にしている)である。

 同表の「人口」は、IMF・World Economic Outlook Databases(2022年4月版)に基づいたもので、単位は100万人である。

 また「表2」は、「幸福度+人間開発指数(豊かさ)」に基づく国ランキングで、「幸福度ランキング」の順位と「人間開発指数(豊かさ)ランキング」の順位を合算し、その数値の少ない順、つまり「幸福度」および「豊かさ」の双方の意味で高い国のランキングである。

(注)表2は筆者が作成。
(注)表2は筆者が作成。

 そして、「表3」は、「表2」にさらに「民主主義指数」のランキングを加えた、「幸福度+人間開発指数(豊かさ)+民主主義指数」に基づくランキングである。

 なお、上記の表1~表3は、上述の情報を基に、筆者が作成したものである。

(注)表3は筆者が作成。
(注)表3は筆者が作成。

 これらの表は、「幸福度」、「人間開発指数(豊かさ)」、「民主主義指数」という異なるランキングを組み合わせただけのもの(国別ランキング)で、科学的な因果関係などをみているわけではない。しかし、見比べてみてわかるのは、3つの表のどのランキングにもほぼ同様の国がランクインしていることである。

 その主な国は、「ノルウェー」「アイスランド」「スイス」「フィンランド」「デンマーク」「スウェーデン」「オランダ」「アイルランド」「ニュージーランド」「オーストラリア」などである。それに、「ドイツ」、「カナダ」、「オーストリア」が追随してランクインしているのである。

 また、これらの表からわかるのは、「幸福度」、「人間開発指数(豊かさ)」、「民主主義指数」は各々別の指標ではあるが、そのうちの1つの指標の順位の高い国は、他の2つの指標も高いランキングにある傾向にあるようだ。

 そして、そのような国々のランキングを確認しながら、表の人口の数字をみていただきたい。それでわかることは、「幸福度」、「人間開発指数(豊かさ)」、「民主主義指数」の国別ランキングおよびそれらの指標を合算して作成し直した国別ランキングをみても、その上位にランクインしている国々の多くは、人口1千万あるいは多くても2千万人以下であるということである。なお、比較的ランクの高い国の中で、オ-ストラリアおよびカナダは人口が比較的に多い国である。特にドイツは、8千万人を超える人口を擁し、これらの指標の国別ランキングの比較的上位になる国々の中では、数少ない人口的にも「大国」なのである(注1)。

 以上のことから、「人口」規模がある程度抑えられている国の方が、そこに住む国民・住民等の意見や考えなどが活かされて社会的納得感が高く、その「幸福感」や「豊かさ」などが高まる可能性があるということがいえるかもしれない。

 このことは、これまで、「国力」を考える際には、「人口」規模は有力な指標であったが、その国・国家がそこに住む国民・住民等のことを考えると、異なる発想が必要なのであるかもしれないことを示しているといえるかもしれないのである(注2)。

 他方、上述の表をみてもわかるように、日本は「幸福度」ランキングで56位であり、他の指標でも10位台後半であり、必ずしも上位国ではないのである。

 日本は、現時点ではある意味恵まれ、安全性の高い安定した社会である。国際社会がダイナミックに変貌し、急成長してきているこの30年の間、日本は、低迷し閉塞し、社会全体の変化やダイナミズムは相対的にかなり失われてきている。

 その時期の状況を見る限り、日本は、現状のままでは、大きく変化し、新しい可能性があるとは感じられない。場合により、さらに厳しい方向に向かう可能性が高い。

 いずれにしても、日本は、今後より厳密な検討が必要であるが、上述の指標やデータなどを参考にして、国・国家として、今後の方向性やどのような対応をすべきであるか、根本から考え直す必要があるようだ。

(注1)なお、ドイツは、州の権限が強い連邦制をとっており、州間の格差が発生するなどの問題もあるが、連邦制であるためには、行政区分が小さいので、小回りの利く政治を実施できているようである。詳しくは、記事「ドイツの連邦制の特徴は?…小回りは利くが、州間の格差も問題」(ドイツニュースダイジェスト、JBpress、2013年5月15日)

(注2)拙記事「試論:『国力の方程式』再考」(Yahoo!ニュース、2021年4月1日)参照のこと。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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