Yahoo!ニュース

「インバウンド観光」の可能性…共に学び、考えてみませんか

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
インバウンド観光客で賑わう(写真:つのだよしお/アフロ)

 筆者は、インバウンド観光について研究を行っていることは、拙記事「人吉温泉に見たインバウンド観光における外国人人材の可能性」(2019年9月3日掲載)でも述べた。

 読者の方々もご存知のように、外国人が日本に訪れるインバウンド観光は、近年日本でも注目を集めている。それは、日本経済における低迷が続く中、本年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、近年その需要が急速に拡大してきており、外貨も稼げる、日本における数少ない可能性のある産業分野である観光の中核部分を形成してきたからである。

 訪日外国人数は、全体としてはこれまでも徐々に増加傾向にはあったが、その数が1,000万人を超えたのは2013年。2015年にほぼ2,000万人(約1,974万人)、2016年約2,404万人、2017年約2,869万人となり、2018年には実に3,000万人(約3,119万人)を超えた。そのことは、訪日外国人数がこの5年間で約3倍に増加したことを意味する。

 これに伴い、2018年のインバウンド全体の旅行消費額は、観光庁によれば、4兆5,189億円(推計)に達したのである。政府も今後さらなるインバウンド観光に伴う外国人観光客数の拡大を目標に掲げており、その点でも、インバウンド全体の旅行消費額やその可能性のさらなる増大が期待されているのである。

 このような中、昨年来の日韓関係の悪化が引き金となって起きてきている日本への旅行ボイコットに伴う訪日韓国人客の数の激減が起きた。それにより、日本政府観光局による訪日外客数統計によれば、2019年11月の韓国人観光客は前年同月比実に65.1%減となった。これは、9月以降3カ月連続で東日本大震災時に匹敵する落ち込みとなったといわれている。

 また、昨今は中国武漢で発症したといわれるコロナウイルス(正式名称はCOVID-19)による新型肺炎は、日本でも感染が広がるが、中国国内では、特に春節の時期と重なり、人の中国国内外での移動が制限されて、中国人の日本へのインバウンド観光にも大打撃を与えてきている。

 それらのことは、インバウンド観光は、日本経済にとっても今後も非常に可能性のある有望な成長分野ではあるが、政治や社会などのさまざまなリスクもあるということを実感させる実例であったということができる。

 それらのリスクのいくつかは、個人や個別企業・組織だけでは対応可能ではないが、観光、特にインバウンド観光分野で活躍する人材や組織は、それらのリスクについても考えておく必要があるといえる。

 

 観光の分野は、海外や国外の旅行も含めて、長い歴史があるが、それらのリスクの問題の多くは、1980年代や90年代の東西冷戦構造の崩壊に伴う世界のグローバル化、グローバル経済の現出に伴う、人や情報の国を超えたより自由でかつ柔軟な動きから生まれてきていると言っても過言ではないだろう。 

 その意味からすると、観光学の分野自体もまだまだ新しいといえようが、特にインバウンド分野の観光学(ここでは、それを「インバウンド観光学」と呼ぼう)は、今後を考えるとチャレンジングだが、まだまだ社会的にも学問的にも蓄積が少ない分野だといえよう。

 その観点からも、観光分野で活躍しあるいは今後その分野で活躍していくことを希望する人材は、現場で経験を積みながら、その分野への理解を深めていく必要があるといえるだろう。

 筆者が所属する城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科は、観光をその対象分野の一つにしているが、東京都の「大学等と連携した観光経営人材育成事業」の支援を受けて、今月29日と3月1日に「観光経営人材育成講座(無料)」を開講する。同講座は、本研究科の特徴である国際的観点や在籍する多くの留学生などの国際性などを活かすべく、インバウンド観光やそこにおける外国人人材の活用などの視点を核にして、本研究科の教員は、コーディネータとして参画し、外部講師や参加受講生と共に、新しいインバウンド観光の可能性を考えていく機会を提供する予定だ。同講座は、本年度も含め3ケ年度にわたるプログラムであり、今後上述した「リスク」の問題や課題も取り上げていく予定だ。本研究科は、その講座の事業を通じて、外国人材との連携を見据えた高度観光経営人材の育成等を目的とする教育プログラムの開発を行うべく、その事業に取り組んでいる。

 読者の方々の中で、本記事を読まれて、同講座に興味を持たれた方がいれば、ぜひご参加希望申請をいただければと思う(注)。

 共に、新たなるインバウンド観光学を考え、創っていければと思う!

(注)当該講座は、新型コロナウイルスの感染症の関係で、3月20日(金)に延期された。同日は、リモートでも参加できるように準備しているので、参加希望の方は、同講座担当のメルアド(admi-tokyo@jiu.ac.jp)にご連絡ください。なお、同日の日程(予定)は、次の通り。◎3月20日(金/祝日) :(1)9:30~11:00『観光市場の動向とデータ分析』 (2)11:10~12:40『観光マーケティング手法』 (3)13:40~15:10『観光マネジメント手法』 (4)15:20~16:50『外国人材の活用手法』

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

鈴木崇弘の最近の記事