コネクティビティー…香港の活力の源泉
今月初旬から中旬にかけて、中国の大湾区を訪問し、現地で調査研究を行った(注1)。大湾区は、拙記事「中国において今後最も注目すべき発展地域はここだ!大湾区」でも紹介したが、日本でもその一部である深センには注目・関心が高まってきているが、その多くについてはいまだ知られていない。その現地の調査研究のために、今回現地を訪問した。
大湾区は、中国の香港および澳門の2つの特別行政区ならびに広東省の9都市(広州市、深セン市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市と肇慶市)を含む地域で、近年目覚ましく発展してきており、非常に大きなポテンシャルのあるエリアである。
今回の訪問の一つの重要な目的は「一帯一路サミット」(注2)への参加であるが、そのサミットは、市民デモが頻発し、空港、会場等での厳しいセキュリティーの下、香港で開催された。そこで、本稿では、その香港について論じたい。
筆者が、はじめて香港を訪問したのは、記憶が正しければ、恐らく今から38年程度前だ。その後何度か訪れる機会があり、昨年も2度訪れ、今回が6、7回目の訪問だったと思う。
そして今回改めて、次のように思い、感じた。
「香港は、相変わらず活気に満ち、ダイナミックだ。地域により以前と比べて廃れたところもあるようだが、全体としては38年前と変わらない。いや、以前よりも活気に溢れ、ダイナミックになっている。そして、エキサイティングだ。」
現地の方との意見交換をしたり、サミットのオプショナル・ツアーなどにも参加しながら、上述のサミット(注3)に参加して、その香港の活力の源泉に思い当たった。
それは、香港が、歴史的、現時点そして将来において有する、海外との深い関係性、つまり「コネクティビティ-(Connectivity)」の存在だ。
香港は、歴史的には、長らく英国植民地であり、英語が公用語の一つで、ほとんどの香港人は英語が話せる。また長らくそして現在も、金融および交易の世界的に重要な中心地の一つである。
また、中国の一国二制度の下、自治が認められており、華人中心であるが(注4)、多くの外国人も居住している。さらに、中国の一部ではあるが、南端に位置し、地政学的にも、中国本土と海外の間に位置している。
このようなことからもわかるように、香港は、正に多くの繋がりのハブとして、あるいは結節点として、高い「コネクティビティー」を有していることがわかる。それが、香港に、人材、情報、資金、物・サービスを集積させ、外との交流や関係性を生み出し、その都市のダイナミズム、活力を生み出しているといえるのである。
筆者は、今回のサミットでも、これに関しては詳しくは別の機会に譲るが、中国の存在感の増大や中国政府の推進する「一帯一路政策」や「大湾区構想」において、香港は、正にその有する、高い「コネクティビティー」で、これまでも香港の将来に懸念が生じたり、現在の香港市内は揺れ動いていたりしていても、また同政策や同構想で中国本土に飲み込まれるという議論や意見もあったりしても、存在感を増している面もあると感じることができた。
このようなことを考えていると思い出したことがある。それは、日本の「大阪」についてである。筆者が、大阪大学に在籍していた際に、大阪梅田の北ヤードに関する国際コンペに参加する際に、大阪についてかなり学ぶ機会があった。その際にわかったことは、大阪は、以前は起業の町であり、新しいアイデアや仕組みの生まれるイノベーションに満ちた地域であったということであった(注5)。
なぜそうだったかといえば、大阪は当時(特に16世紀の安土桃山時代以降から江戸時代)、日本国内において文化・言語や制度なども異なる外国ともいえる諸藩や諸地域を繋ぐ中心地だった。つまり、日本における「コネクティビティー」の中心地であり、様々な文化やアイデアがケミカルを起こし、世界最初の先物取引が行われるなど新しいイノベーティブでクリエイティブな仕組みやアイデアが生まれる町であり、さらに町人による自治に満ちたダイナミックな町であったのだ。
そのため、大阪は、「天下の台所」と呼ばれるほどに、日本全国の物流が集中する経済・商業の中心地となり、「元禄文化」が花開き、ある意味で当時江戸(東京)をも凌駕していた。
だが、明治維新により、日本の首都が東京になり、情報・資金・人材・制度などのあらゆる面で中央集権が進められ、大阪は日本における「コネクティビティー」の優位性を喪失し、その活気やダイナミズム、クリエイティビティーを失っていくことになったのだ。
また、明治以降、日本が中央集権化され、全国が単一化し、多様性が失われたために、全国をコネクトしても、イノベーションやクリエイティビティーが生まれにくくなったといえるのではないか。しかも、日本は、地政学的にも、国際社会の周辺部にあり、文化や文明の集積には有利な地にあるが、国際社会がグローバル化するなか、その優位性も低下してきている。
このような状況において、日本は、イノベーティブであるためには、ある意味で強制的に国際社会との「コネクティビティー」を国内に創出していく必要があるといえる。その視点からすると、現在多くの留学生が来ていることや本年4月から施策された入管法改正による外国人による労働可能性の容易化等は、多くの問題・課題があるのも事実であるが、その状況を前向きに活かしていければ、日本の国際社会との「コネクティビティー」を高める契機になるかもしれない。
いずれにしても、香港をはじめとして、「コネクティビティー」等を活かして、活力とダイナミズムを発揮している地域や国を冷静かつ前向きに研究し、日本や地域の今後に活かしていく必要性があるといえそうだ。
(注1)同調査研究では、香港貿易発展局、Find Asiaの加藤勇樹氏、ACIPのAndres Wang氏、そして深セン市駐日経済貿易代表事務所に、アポの手配や現地ガイド・支援等で大変お世話になった。心より感謝したい。
(注2)同サミットの主催は、香港特別行政区政府および香港貿易発展局であった。
(注3)同サミットは、中国政府が推進する「一帯一路政策」や「大湾区構想」を推進することを目的とした、イベントだ。しかも、同サミットの主催者は、香港政府であり、当然に、それらにおいてに香港の役割およびその存在意義を向上させる意図があるといえよう。
(注4)華僑の定義は難しいが、多くの華人が、東南アジアを中心に世界中に、拡散し定住しており、それらの繋がりも、華僑ネットワークを形成し、香港の「コネクティビティー」の強化に貢献していると考えられる。
(注5)こうして大阪で起業され、成功した企業等の多くは、大規模化すると、東京に進出していったのだ。その意味では、大阪は、絶えず起業し続けないとその活気等は失われることになるが、「コネクティビティー」を失った大阪にはそれは本質的に難しかったといえよう。