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政権交代(1)・・・政治・政策リテラシー講座4

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

政権交代とは、一体どういうことで、どのような意味をもつのでしょうか。それを考えていきましょう。

それは、単に政治のトップである人が代わったというわけではありません。政変交代は、現在のやり方や政策に行き詰ったり、国民の間に現在の政治に対する不満や不信が高まってきたときに、その現状を打破するために、日本の場合には、主権者である国民(有権者)が、選挙によって、政治において指導権を持つ議員のグループ、政党を変えることです。2009年や2012年の衆議院選挙で、与党が代わったときがその典型です。

日本では、政府(内閣)は議会(国会、特に衆議院)の信任によって存在するという議院内閣制という政治制度をとっているので、基本的には国会(特に衆議院)で多数をとる政党(複数政党で連立を組むこともあります。現在は自民党が公明党と連立を組んでいます)が、政権をとり、与党として内閣を構成しています。

政権交代が起きることで、社会や政治の運営の仕方や政策の内容や方向性が大きく変わります。

本記事においては、いくつかの観点から、その政権交代について考えていきましょう。

歴史からもわかりますように、人類は何度も、権力者を代えたり、社会の方向性を大きく変更してきました。そのような場合、以前は武力や革命で、政権を倒して、新しい権力を確立してきたのです。そのことは、フランス革命やアメリカの南北戦争などの例をみればわかります。

その過程では、実に多数の尊い人命が失われてきたのです。そのような歴史と経験を通じて、人類は、選挙という政治手続きによって、武力や暴力を用いることなしに平和裏(注)に政権を代えるというより賢い仕組みを確立してきたのです。

このように考えてくると、日本でも何度か起きてきている政権交代とは、選挙という政治制度によって政治権力を代えることで、静かな革命といえます。

政権交代は、民主主義の問題と大きく関係します。民主主義(あるいは民主制度)は、決まった理想があるわけではなく、その時々において、民の多くの意見に基づいて、社会の方向性や政策を変え、絶えずよりよいものを求めていく政治制度のことです。

その民主主義の中で、日本が採用している代表民主制は、その国民・有権者の意見を反映してくれる代表である議員や政党を選挙で選び、その代表が国民に代わって政治を運営していく仕組みです。

このことをよく考えてみると、政権交代が起きても、それだけで社会がずっとうまく運営されるかどうかはわかりません。新しい政権ができてそれに任せても、さまざまな問題が生じたり、うまくいかなかったら、有権者や国民は、それらの結果などを踏まえて、再度判断して、別の政党や議員に政権を任せることも必要です。

また政権交代をすれば、プラスもマイナスもあります。

プラスは、従来とは違った政策や運営の仕方を大きく変えることができることですし、いわゆる既得権益を排除することなどもできることなどです。

他方、マイナスは、政権移行することで、政策運営がギクシャクしたり、トラブルなどが起き、緊急時などの対応が難しいことや新しいルールづくりに時間がかかることなどがあげられるでしょう。2009年の政権交代でできた政権でも、そういうマイナスが起きたことはいまだに記憶に新しいところです。

ですから、政権交代を良いとか悪いという一面だけでとらえることは非常に難しいのです。

その意味では有権者や国民は、政治や政策についてできるだけよく知り、よく考え、常日頃から自分の判断をしておくことが必要だといえます。

民主主義で重要なことは、政治的要請つまり民意と、行政以外も含めた複数の専門性のバランスをとることです。

民意は、社会や経済における状況やメディアの論調などの影響をされやすく、ぶれることも多いのです。他方、政治や政策は、そのような民意も勘案し、短期的な視点(それも重要であるが)も考慮しながらも、より長期的な視点つまり中長期的視点も視野に入れて、専門性も活かしながら運営していかないと、誤った選択をしないとも限らないのです。

その2つのバランスをとりながら、政権を運営していくわけですが、政治(議員)は、選挙活動も含めて非常な多忙な日常を送っており、また全ての分野の政策的な専門性を有しているわけではないのです。

このような状態において、政権が交代しても、代わらない行政にだけ依存していて、独自のアイデアを生み出す仕組みや一身同体であるチームをもっていなければ、政治は、大胆な改革や大きな政策変更をするのは非常に難しいのです。政治が、行政・官僚機構を的確にコントロールしていくには、政治と志や政治的価値観、理念を共有する人材やチームが、政権交代以前からそれらを共有した時間を経た後に、政権交代と共に、政権に入っていけるような仕組みになっていることが必要です。

その問題を解決するには、日本でも、政策に関する活動をするシンクタンク(公共政策研究機関)をはじめとする金儲けをせずに社会的な活動をする組織や人材からなる非営利のセクターを育てていく必要があります。そのセクターは、政策活動や社会的活動をして経験を積んだ人材が、政権交代した時に政権に入っていったり、逆に政権交代で仕事を失った人材がそのセクターに戻っていったりと、人材のプールとしての役割も果たすのです。

現在の日本でも、すでに非営利組織であるNPOが多々ありますが、財政難である組織がほとんどです。特に政策に関する分野での活動は非常に限られていて、社会的な役割は低く、社会的な活動をできる人材のプールの役割は非常に限定されているのが現実です。

そのセクターを充実させることにより、社会の中にさまざまで多様なパブリックや政策代替案が生まれることで、行政機構にだけ依存しなくとも、大きな変更を生み出すことのできる政権交代をはじめて起こすことができるといえるでしょう。

米国をはじめとする多くの国々には、シンクタンク等があり、新しい政策代替案や政策人材を生み出し、政権交代をはじめとする社会変革において、重要な役割を果たしています。

このような政権交代をはじめとする民主主義の社会を運営していくには、さまざまなインフラや仕組みが必要なのです。

ここでは、英国の例を挙げておきましょう。ショートマネー(Short Money)という制度です。これは、政権与党は官僚機構のサポートがあり有利であるので、野党の活動を支援する資金を提供するという仕組みです。つまり、野党にはハンデを与え、政権交代が起きやすく、つまりより多くの民意を政治や政策に反映しやすくするのです。さすがに民主主義の制度の経験の長い英国の歴史の賜物といえます。

今後の日本における民主主義の深化や適正な政権交代の実現のためには、このような仕組みをつくっていくことも必要でしょう。

(注)もっとも、現在でもさまざまな国や地域で、クーデターやテロなどの暴力によって、政治の権力を代えるという動きがなくはありません。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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