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ユニクロがパリの一等地サンジェルマン・デ・プレにオープン

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト

日本のファションブランドとして、これは悲願だったに違いない。パリ、それもサンジェルマン・デ・プレに店を持つこと。

「ユニクロ」は2009年にパリ初出店を果たした。オペラ座のすぐそば、デパートがひしめくショッピングエリアの真ん中に当時世界最大規模の旗艦店という鳴り物入りのニュースだったので、オープニングの様子はわたしもかつて記事にしたことがある。

それから着実に店舗数を増やし、パリで8軒めになるサンジェルマン・デ・プレ店が11月4日にオープンした。

マルシェ・サンジェルマンのユニクロ
マルシェ・サンジェルマンのユニクロ

場所は「マルシェ・サンジェルマン」という歴史ある公設市場の建物内。「フロール」「ドゥ・マゴ」といった名店カフェをしたがえてそびえるサンジェルマン・デ・プレ教会、そして『ダヴィンチコード』でいっとき話題になったサンシュルピス教会からもすぐという一級の立地だ。商業施設の観点からみれば、ほかにも魅力的な界隈はパリにたくさんあるが、地域の文化的イメージ、シックな高級感、おしゃれ度合いからいったら、格別のプレステージ性があるといっていいだろう。

開店翌日、わたしも一般客として行ってみた。間口の割に中は狭いというのが第一印象だったが、レジの女性店員さんにそのことを尋ねると、面積は500平米ほどで、パリ8店舗のなかでは一番小さい規模だという。それだけ陳列もぐっと絞りこんであって、ダウンジャケットやカシミアなどの主力商品、世界的ファッションエディターやデザイナーとコラボしたコレクションは充実しているが、細かいアイテムまでは置いていない。たとえば、ヒートテックのインナーなら、丸首はあってもタートルネックはなかった。

だが、この店の存在意義は品揃えとは別のところにあると直感する。というのも、店舗の中央はまるで「アップルストア」を思わせるような雰囲気で、テーブルの上にタブレットが並んでいる。そして隣りにはなんとロボットがいるではないか。日本に暮らしている方々にくらべるとこういう方面でだいぶ遅れをとっているわたしにとって、ロボット現物と対面するのはこれが初めて。

「ペッパーにタッチしてみて」

と、店員さんが子どもたちに話しかけるのを聞いて、これがソフトバンクのPepperというものだと知った次第である。

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それはともかく、日本が誇るこのハイテクは単なるお飾りではなく、ほかの店舗にはない新しいサービスのシンボルになっている。たとえば、購入商品をホテルまで届けてくれたり、コートを預かってくれたり、さらには近辺の見どころやおすすめのレストラン情報を提供するといった、旅行者に便利なコンシェルジュ的機能をこの店に持たせており、それらをタッチパネルからオーダーできる仕組みなのだ。

旅の指南役として、この界隈に店を持つイヴ・カンドゥボードシェフに白羽の矢をたてたあたりもなかなか心憎い。パリのネオビストロブームの先駆けになった人物で、それから10年以上にわたって繰り広げられている彼の新しい試みは、いつでも食の世界の話題になるスターシェフのひとりだ。

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このサンジェルマン・デ・プレの新店舗が、パリを愛する外国人が憧れる場所にあるという特性をコンセプトにはっきりと表現しているとすれば、2014年に開店したマレ地区の店舗は、土地の記憶がコンセプトになった設計。かつて宝飾品を生産していた工場の建物を利用したもので、大きな煙突がモダンな内装のアクセントになっている。さらに、フロアの一部といえどもかなりのスペースを使ってミニ博物館風に昔の工具を展示してあるのも、かなり大胆な決断だ。

「服を売るだけでなく、文化を創造したい」というようなメッセージがこれらの店から聞こえてきそうな気がする。それも、黒船到来よろしく異質なものをいきなり押し付けるのはなく、かといってまったく同化してしまおうとするのでもなく、外様の立場を重々承知のうえで、その国、場所の風土を尊重する形で。

巷で感じるかぎり、「ユニクロ」は確実にパリの風景のなかに浸透している。白地に赤い四角模様の紙袋を往来で見かけない日はまずないくらいだから…。

開店記念のオマケは厚手コットンのトートバッグ
開店記念のオマケは厚手コットンのトートバッグ
パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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