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アートの聖地、オルセー美術館から世界へ―パリ2024オリンピック公式ポスターお披露目!

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
オルセー美術館で発表された公式ポスター(出典記載のない写真はすべて筆者撮影)

舞台はオルセー

2024年3月4日午後6時半、オルセー美術館でパリオリンピックパラリンピック2024年の公式ポスターが発表されました。

パリを代表する美術館の休館日。皆さんおそらくごぞんじの中央ホールが、この日はいつもと少し違った様子を呈していました。

歴史的名画や彫刻が並んでいることには変わりないのですが、正面奥に、オリンピック、パラリンピックのロゴをデザインした幕がかかっています。

ポスター公開が行われたオルセー美術館。パリオリンピック、パラリンピックのロゴマークが入った垂れ幕が正面奥に据えられていた
ポスター公開が行われたオルセー美術館。パリオリンピック、パラリンピックのロゴマークが入った垂れ幕が正面奥に据えられていた

そしてその下、大会関係者、報道関係者の熱い視線が注がれる先には黒い幕をかぶった巨大な横長のパネルがありました。

パリ五輪組織委員長トニー・エスタンゲ氏、ポスターを制作した画家のウーゴ・ガットーニ氏らが檀上に上がり、プレジデントのスピーチのあと黒い幕が上がると、そこには私たちの想像を鮮やかに裏切ってくれるビジュアルが広がっていました。

オリンピックのポスターといえば、一般に縦長の画面で、象徴的なデザインが一つ大きく描かれ、オリンピックの文字、都市のロゴが大きく浮き上がって見えるようなものを考えます。

(パリオリンピックのポスターなのだから、どんなカッコイイものを見せてくれるのだろう?) 誰もがそんなふうに思っていたはずです。

けれども、幕が上がった瞬間、多くの人が(あれっ? どういうこと?)と驚いたことでしょう。そして一呼吸置いて、それがいかに壮大なスケールのアートであることに私たちは気付かされたのです。

公開前にスピーチをするパリ五輪組織委員長トニー・エスタンゲ氏(中央)
公開前にスピーチをするパリ五輪組織委員長トニー・エスタンゲ氏(中央)

いよいよ公開!
いよいよ公開!

世界各国の記者たちの注目を集めたポスター原画
世界各国の記者たちの注目を集めたポスター原画

「ミクロコスモス」、あるいは「ユートピア」

作品の明るく陽気な色使いに、観るものの気持ちがまず華やぎます。さらによく見ると、エッフェル塔を「スタッド・ド・フランス」、つまりオリンピックのメインスタジアムになる競技場が取り囲んでいます。また「グランパレ」、これもパリの歴史的モニュメントにしてオリンピックの競技場の一つになる場所ですが、そういった要素が無数にちりばめられていることが次第にわかってきます。

オルセー美術館中央に置かれたポスター原画
オルセー美術館中央に置かれたポスター原画

つまりこの絵は、一瞬で決定的なインパクトを与えるものではなく、時間をかけてじっくりと何度も繰り返して眺め、その世界に没入しつつ楽しむことができる作品。細密にして壮大な世界です。

ウーゴ・ガットーニ(Ugo Gattoni)氏
ウーゴ・ガットーニ(Ugo Gattoni)氏

作者のウーゴ・ガットーニ氏は、1988年パリ生まれのアーティスト。巨大なフレスコ画の作品によって注目を集め、「エルメス」「ルイナール」「カルティエ」などのブランドとのコラボレーションも数多く手がけてきました。

「パリ2024の公式ポスター制作を依頼されたとき、世界に開かれた都市スタジアムというイメージがすぐに浮かびました。止まった時間の中で、人々はミクロコスモスを自由に歩き回る。そこでは数々のパリのモニュメント、さまざまな競技種目が楽しく共存しています」

と、ガットーニ氏は語ります。彼が2000時間、およそ半年を費やして完成させたこの絵には、4万人の人物が描かれているそうです。さらに驚くのはこのご時世にもかかわらず、というかこんなご時世だからあえて、というべきか、コンピュータ、AIなどの技術を使わずに手作業で描き上げたのだそうです。

美術館内にはタッチパネルが設置され、画面を拡大して細部を見ることができる
美術館内にはタッチパネルが設置され、画面を拡大して細部を見ることができる

エッフェル塔を「スタッド・ド・フランス」が取り囲み、その下にヴェルサイユ宮殿の庭園が広がっている(タッチパネル画面から)
エッフェル塔を「スタッド・ド・フランス」が取り囲み、その下にヴェルサイユ宮殿の庭園が広がっている(タッチパネル画面から)

凱旋門の上にパラリンピックの競技場、アーチの下を高架式のメトロが走り、車両の上でもまた競技が繰り広げられている(タッチパネル画面から)
凱旋門の上にパラリンピックの競技場、アーチの下を高架式のメトロが走り、車両の上でもまた競技が繰り広げられている(タッチパネル画面から)

絵の中にはオリンピックのマスコットが8つちりばめられている。「ウオーリーを探せ」のような楽しみもあるポスターになっている(タッチパネル画面から)
絵の中にはオリンピックのマスコットが8つちりばめられている。「ウオーリーを探せ」のような楽しみもあるポスターになっている(タッチパネル画面から)

画面左下。五輪マークの鉄柵から応援していている人々に、多様性のメッセージを感じるのは筆者だけではないはず。ここにもマスコットがいて、製作者の名前も刻まれている(タッチパネル画面から)
画面左下。五輪マークの鉄柵から応援していている人々に、多様性のメッセージを感じるのは筆者だけではないはず。ここにもマスコットがいて、製作者の名前も刻まれている(タッチパネル画面から)

さまざまな「仕掛け」があるポスター

オルセー美術館でこれがお披露目されたことはまさに象徴的で、それは間違いなく歴史に名を残すアートになるでしょう。それでいて同時代を生きる私たちにとって、とても親しみやすく陽気で活力を与えてくれるような波動を発信しています。絵の中に描かれた4万人ともいわれる微細な人物像に、自分自身あるいは家族友人たちの姿を投影し、誰もがそのシーンの参加者であるというメッセージ性も感じられるような気がします。

ちなみに、作品は横長の絵として発表されましたが、実は左側半分がオリンピックのポスターで右側半分がパラリンピックのポスターになっています。つまりそれぞれが縦長のポスターとして単独で十分に作品になり、さらに、その2枚を合わせることで、今回発表になったようなより大きなスケールの世界が展開するという心憎い演出がされているのです。

左がオリンピック、右がパラリンピックのポスター(写真/パリ五輪組織委員会)
左がオリンピック、右がパラリンピックのポスター(写真/パリ五輪組織委員会)

除幕式のあった場所、つまりオルセー美術館の中央ホールにて、この作品は3月10日まで一般公開されています。

また3月5日から、オンラインショップ、公式オリンピックショップ、オルセー美術館でポスターの販売が始まります。サイズは30ー40cm、50ー70cmの2種類。価格は20ユーロから(2枚1組ではなく、単体での販売)。

またポスターの包装にはQRコードがついていて、そこから没入型体験へと導かれる設計がなされています。その体験は7月19日から公式アプリなどを使って可能になる予定とのことです。

さまざまな趣向が盛り込まれ、子供から大人まで楽しめるこのポスターに描かれたようなユートピアが、大会を通じて実現されることを切に願いたいと思います。

セーヌ川への飛び込み台にいる選手の左腕に白い鳩がいる。これは紛れもなく平和のメッセージ(タッチパネル画面から)
セーヌ川への飛び込み台にいる選手の左腕に白い鳩がいる。これは紛れもなく平和のメッセージ(タッチパネル画面から)

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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