マリー・アントワネット展 パリコンフェランス

「マリー・アントワネット」、「ベルサイユ」‥

フランスの歴史などまったく知らない子供のころから、その響きに親しみがあったという方はわたしのほかにもあまたいらっしゃるに違いない。

それはひとえに池田理代子さんの漫画『ベルサイユのばら』のなせる技。宝塚歌劇団で舞台化され、テレビアニメにもなった“ベルばら”は、まるで『忠臣蔵』のように、わたしたち日本人にとっておなじみの歴史物語のひとつになっている。

もうじき東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで始まる「マリー・アントワネット展」(10月25日〜2月26日)は、フランス国外では史上初の規模を誇るもので、“ベルばら”の素地がある日本だからこそ可能になった企画。ベルサイユ宮殿の秘蔵品をはじめとする200点もの美術品が海を渡り、東京にやってくる。

開催に先駆けて、パリの在仏日本大使公邸で記者発表があった。大統領府の並びに位置するフォーブールサントノーレ通りの公邸に、テレビでもお馴染みの王室歴史専門家をはじめ日仏のジャーナリスト、展覧会の実現に携わった人たちが招かれ、ベルサイユ宮殿のプレジデントと学芸員の言葉に耳を傾けた。

フランス本国での主だったマリー・アントワネット展は過去に3回行われていて(1867、1955、2008)、直近の2008年はパリ有数のアートイベント会場「グランパレ」が舞台。そのときの作品数は280ほどだったというから、今回の日本での展覧会がいかに力の入ったものか想像できる。

それだけでなく、会場にはベルサイユ宮殿内のマリー・アントワネットの個室が実物大で再現される予定で、現在は消失してしまった図書室の部分も3Dで出現するとなれば、本国でも例をみない試みといえそうだ。

木寺昌人大使の挨拶をうけた、カトリーヌ・ペゴープレジデントのスピーチでは「日本とフランスとの文化の絆をさらに強める展覧会」と、彼女が就任してからのベルサイユと日本との交流の深さを語った。

ベルサイユ宮殿プレジデントのカトリーヌ・ペゴーさんと木寺昌人駐仏日本大使
ベルサイユ宮殿プレジデントのカトリーヌ・ペゴーさんと木寺昌人駐仏日本大使

とりわけ新宿御苑と王の庭の庭師たちの交流をあげたが、これは東日本大震災後の復興祈念の意味合いもこもっていたプロジェクトで、2014年ベルサイユのトリアノンで菊の大作りがフランス人の賞賛を浴びたことは記憶に新しい。

「フランス語が話せない日本人と、日本に一度も行ったことがないフランス人。言葉や文化は違えど、一流の庭師という共通項で結びついた彼らが協力して成し遂げた大輪の花々に感動を覚えました」と、プレジデント。

わたしも実際に大作りを鑑賞したが、それはそれは見事なもので、その時のことを記事にもした。

「今回の展覧会では、王妃マリー・アントワネットの数奇な運命とともに、彼女の時代のフランス美術、工芸の豊かさをご覧いただきだいと思います」

と、プレジデントが語るとおり、展覧会では、王妃の生涯を豊富な肖像画で辿ることができる。

バラの花びらそのもののような柔らかな肌、時代の最高のファッションに身を包んだ姿から一転、頭をすっかり覆い、黒い衣を身につけた幽閉中の姿…。これが同じひとりの人生かと思うと息がつまりそうになる。豪奢の極みに生き、やがて断頭台の露と消える運命は、物語を超えたドラマチックさだ。

もうひとつの見どころの美術品では、漆器やセーブル焼の食器にこの時代の“ジャポニズム“が感じ取れて興味深い。マリー・アントワネットの時代といえば、日本は鎖国のただ中だったが、当時最高級の工芸品がヨーロッパに渡っており、王妃の母、マリア・テレジアは世界有数の漆器の蒐集家だった。王妃のコレクションは、それを受け継ぎ、さらに充実させたものだ。

焼物では、伊万里焼の特徴である藍に赤の挿し色が、王室の名窯セーブル焼に取り入れられ、“ジャポン“とよばれる豪華な食卓セットのシリーズが生まれたが、これも出展される。

こうしてみるとつくづく、日本とフランスの縁は深い。鎖国下であっても、日本趣味がヨーロッパの宮廷でもてはやされた時代があり、漫画がきっかけになって“ベルばら”が社会現象になった時代あり…。

今回の展覧会もまた、日仏の文化相思相愛の1ページを綴るビッグイベントになりそうだ。