装飾芸術博物館(Musees des Arts Decoratifs)は、パリのリピーターにおすすめしたいミュージアムのひとつ。ルーブル美術館と同じ建物、つまりパリのど真ん中にあって、しばしば興味ぶかい展覧会が開催されている。

この1月から6月にかけてのテーマのひとつが「壁紙と壁布」。まずひとつめのフロアでは博物館所蔵の40万点の壁紙のうち300点が4世紀の時代の流れをたどるように展示されている。

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そしてもうひとつのフロアでは、フランスを代表するインテリアファブリックのブランド「Pierre Frey(ピエール・フレイ)」の代表作がこちらも80年のデザインの変遷が走馬灯のように展開する。

壁布と一緒に、色や時代を象徴するオブジェも展示
壁布と一緒に、色や時代を象徴するオブジェも展示

考えてみると、日本の住まいもいわゆる西洋風になってきたが、室内を装飾する伝統は、フランスと日本ではだいぶ違う。日本家屋で絵模様を取り入れるというと襖や屏風が思い浮かぶが、フランスの場合は壁全体を布や紙で彩ってきた。カーテンや家具でも絵模様は雄弁。その伝統は途切れることなく続き、現代の住まいでもますます盛んだ。

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ナポレオンの遠征があり、国境を越えた交易が盛んになった時代にはエジプトや東洋のモチーフが取り入れられ、アールデコの時代には幾何学模様が盛ん。騙し絵やアニマル柄の流行、写真や近代建築など異分野のアートからも題を得た絵模様など、デザインの変遷は時代の映し鏡そのもので、人間の発想の果てしない豊かさが伝わってくる。

「ピエール・フレイ」のフロアでとくにわたしの目に留まったのは「Les montagnes japonais(日本の山々)」と名付けられた1981年の作品。人間国宝、鎌倉芳太郎の型絵染(かたえぞめ)のきものと再会したような気分になり、ここでもまたフランスと日本とのアートの交流を思わずにはいられなかった。

日本の型絵染を連想させるモチーフ。アフリカのオブジェが対になっているのが面白い
日本の型絵染を連想させるモチーフ。アフリカのオブジェが対になっているのが面白い

そうしてもうひとつ。柔軟な発想で未来を視野に入れてきたブランドらしく、現代アーティスト7人に依頼したこの展覧会のためのオリジナル作品を展示。そのなかに、ニューヨーク在住の日本人アーティスト山下工美さんの作品もあった。

NY在住アーティスト、山下工美さん。作品の前で
NY在住アーティスト、山下工美さん。作品の前で

「壁に色紙が並んでいるだけに見えるので通りすぎてしまう人も多いのですが、あとで人から話を聞いて、引き返して見に来るような作品なんです」

と、山下さんご本人が言うとおり、よく見ると、紙の凹凸と光によって人物の横顔が影絵のように浮かび上がっている。今回は「ピエール・フレイ」社の人々をモデルにしていて、現場で1週間をかけて制作。ほんのすこしでも指を触れようものなら影絵は変形してしまうというデリケートさで、展覧会が終われば消えてしまうという。

ファミリーブランドを率いるパトリック・フレイ氏も大絶賛のこの作品。刹那の美しさを尊ぶ日本の美意識の伝統を、現代のパリに見たような思いがした。

山下工美さんの作品
山下工美さんの作品
パトリック・フレイ氏と山下さん
パトリック・フレイ氏と山下さん