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お笑い界は「個人戦」から「ギブアンドテイク」へ…ランジャタイ、さらば森田など秋の新番組にみる傾向

鈴木旭ライター/お笑い研究家
(写真:イメージマート)

ランジャタイの勢いが止まらない。今月4日、深夜枠の冠番組『ランジャタイのがんばれ地上波!』(テレビ朝日)がスタート。初回から「番組アシスタントの座をかけ、一般人の大島さんと大御所俳優・高橋英樹が対決する」というカオスな展開で笑わせている。

昨年の「M-1グランプリ」決勝で注目を浴び、一気にバラエティーでの露出を増やしたランジャタイ。同大会で優勝した錦鯉のほか、モグライダー、真空ジェシカとともに“地下ライブ”と呼ばれる小規模な会場で切磋琢磨し飛躍したコンビだ。そんな彼らの持ち味は、何と言っても突飛なパフォーマンスにある。

前述の『がんばれ地上波!』の初回では、なぜか国崎和也がカメラから逃げ続けるというオープニングで始まり、今月8日に放送されたTBS系大型特番『お笑いの日2022』内の『お笑いプラスワンFES』では、ダイアン・津田篤宏が音楽に乗せて「ゴイゴイスー」と歌い、わんこそばを食べてエネルギーチャージするという荒唐無稽なコラボネタを披露。肝心のランジャタイは、ほぼエキストラ役に徹していた。

固定観念を破壊する芸風が、どういうわけかコンプライアンスを重視するバラエティーで求められている。もちろん、めちゃくちゃなパフォーマンスを見せた後に見せる国崎の笑顔に好感を持つ視聴者も多いことだろう。

しかし、近年は芸人各組の魅力だけではない別の理由があるように感じてならない。芸人同士の関係性こそが、新しいコンテンツを生み出しているからだ。

地下ライブ出身の仲間に愛されるモダンタイムス

そもそもランジャタイは、2021年元日に行われたマヂカルラブリー主催の無観客イベント「マヂカルラブリーno寄席」で知名度を上げた。

同イベントの配信チケットの売り上げは、最終的に1万7000枚超えを記録。当時の「FANYチケット(よしもと公式のチケットサービス)」の売上枚数で歴代1位となった。M-1 2020の王者・マヂカルラブリーの勢いに加え、同イベントに出演したランジャタイら“地下芸人”の芸風が多くの視聴者に知れ渡った瞬間でもある。

その中の1組であるモダンタイムスは、バラエティーでの露出こそ少ないがアルバイトをせず、お笑いだけで生計を立てている。収入源はYouTubeチャンネルでもなく、地方営業でもない。その出所について、メンバーの川崎誠はこう語っている。

「マヂカルラブリーの仕事とアルコ&ピースとも仲いいんですよ。だから、アルコ&ピースの番組の仕事と、今ランジャタイが売れてきたんでランジャタイの仕事、この3つがほぼ収入源で。(中略)マヂカルラブリーの仕事がめちゃくちゃギャラいいんですよ。本当もう軽の車買えるぐらいギャラをボンってくれるんで。イベントをやると」(YouTubeチャンネル「街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜」の動画「44歳で毎日違う女と…/辿り着いた20歳下の彼女は超人気芸人Mの…/彼氏いる女抱き300万訴訟/モダンタイムス 川崎誠」より)

モダンタイムスは、マヂカルラブリー・野田クリスタルが「師匠」とあがめる存在だ。昨年6月に所属事務所のソニー(SMA NEET Project)を退所し、川崎の自宅にカメラを置いて24時間365日ライブ配信を行うYouTubeチャンネル「かわさんの部屋 -LIVEMAN-」をスタートさせた際には、野田が50万円を出資。現在も配信は継続している。(詳しくは、こちらを参照)

若手時代から交流のあった仲間たちがブレークし、モダンタイムスの活動をサポートしている格好だ。

YouTuberとして這い上がった岡田康太

YouTuberとして再注目を浴びている芸人と言えば、元なかよしビクトリーズ(改名前はオレンジサンセット→新オレンジサンセット。2020年解散)の岡田康太が真っ先に思い浮かぶ。

オレンジサンセット時代、岡田は次世代のお笑い芸人を発掘する番組『新しい波16』(フジテレビ系・2008年10月~2009年3月終了)に出演。数多くの若手芸人の中から有望株の1組として抜擢され、後続番組『ふくらむスクラム!!』(同)のメインキャストとなった。

しかし当時、岡田は高校を卒業したばかりだ。芸歴を考えれば、あまりに早過ぎるチャンスだったと言わざるを得ない。1992年から8年ごとに制作されている『新しい波』は、それまで『めちゃ×2イケてるッ!』や『はねるのトびら』(ともにフジテレビ系)といった番組をヒットさせてきたが、『ふくらむスクラム!!』は半年で終了。続く『1ばんスクラム!!』を含めても1年で打ち切りとなっている。

同番組のレギュラーである、しゃもじ(現・ハンジロウ)、かまいたち、ニッチェと同じく、振り出しから再スタートを切ることとなった岡田。大きな転機は2019年にYouTubeチャンネル「岡田を追え!!」を開設したことだろう。基本的に港区の質素な自宅で撮影される動画ではあるものの、3時のヒロイン・福田麻貴、かが屋・加賀翔、ZAZYといった若手芸人、YouTuber・フワちゃん、インフルエンサーやYouTuberなど様々なゲストが登場することで、ジワジワと話題となっていった。

着実に登録者数を伸ばし、現在では45.8万人(2022年10月16日時点)の人気チャンネルへと成長。ガスコンロを使用した料理動画も好評を博し、2020年には『ウマーバクッキング』(ABCテレビ)として放送された。また今年に入って『よるのブランチ』(TBS系)や『ダウンタウンDX』(フジテレビ系)に出演するなど地上波での露出も増加している。

デビュー間もなくレギュラー番組を獲得し、その後はコンビ名の改名、解散など苦汁を舐めた岡田。今の活躍があるのは、当人の人間的な魅力もさることながら、芸人をはじめとする仲間たちの支えがあったのは間違いないだろう。

関係性をコンテンツ化する、さらば青春の光・森田

昨今、芸人同士のつながりをバラエティーやライブ、YouTube動画にもっとも落とし込んでいるのがさらば青春の光・森田哲矢だ。

ランジャタイと同じく、10月からテレビ朝日の深夜枠で『満パンスター2023−さらば&三四郎が3月にライブすることだけ決まってる番組−』がスタート。三四郎・小宮浩信と森田は2020年からスタートした『カチコチTV』(FANZA見放題chライトおよびプレミアムで配信)でも共演中だ。

森田の著書「メンタル童貞ロックンロール」(KADOKAWA)の中で、小宮は「金だけは持っている売れっ子芸人」として登場する。大阪での滑稽なエピソードが記されているが、これも2人の信頼関係があってのことだろう。

見取り図やニューヨークとも、森田はゆかりが深い。見取り図とは2021年10月~2022年3月まで『さらば×見取り図 お願い!ゲーム予備校』で共演し、2022年4月からスタートした『見取り図じゃん』(ともにテレビ朝日)では、初回ゲストとして森田が登場した。

見取り図がM-1グランプリで頭角を現す前の2010年代中盤、森田が「まずは盛山(晋太郎)でいったほうがいい。お前がツッコミのフレーズ、ガンガンハメていくことが爆笑に持っていける鍵になる」とアドバイスしたことで結果が出始めたという。(2021年6月11日に放送された『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系)より)その信頼関係が、バラエティーでも反映されているのだろう。

ニューヨークとは、『マッドマックスTV論破王』(テレビ朝日/ABEMA)で共演している。2021年9月にMCのかまいたちが卒業し、その後を引き継いだ形だ。

そもそもニューヨーク・屋敷裕政と森田はプライベートでも仲が良く、先に触れた著書「メンタル童貞ロックンロール」でも先輩のバイク川崎バイク(BKB)とともに悪友(または親友)として登場する。私自身、取材の中で森田本人から“ラジオならリスナーの数はそんなに変わらない”と、YouTubeでのラジオ配信「ニューラジオ」を勧めたと直接聞いたこともある。

そのニューヨークが見取り図と定期的にツーマンライブ「ピアス」を行い、同じ芸歴のさらば青春の光と見取り図がよしもと漫才劇場でのイベント「さらば青春の見取り図」を開催するなど、森田周辺はライブやバラエティーへと着実に結びつく印象が強い。

YouTubeチャンネルではライス・関町知弘や謎のピン芸人・ひょうろくといった芸人の面白さにスポットを当て、『ダウンタウンDX』(読売テレビ制作/日本テレビ系)をはじめとするバラエティーでも活躍する森田は、個人事務所という身軽さを生かして今のお笑い界を全方位で体現している。

人数が多い中でのギブアンドテイクの時代

千鳥、かまいたち、見取り図の3組からも関係性の強さを感じる。彼らはいずれも大阪から東京進出して成功した同じ事務所の先輩・後輩の間柄だ。大阪のレギュラー番組で経験を重ね、M-1決勝に進出して知名度を上げた点も共通する。

現在、千鳥とかまいたちは『千鳥かまいたちアワー』(日本テレビ系)、『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)で、千鳥・ノブと見取り図が『ノブナカなんなん?』(テレビ朝日系)で共演。かまいたちと見取り図も、大阪でのトークライブ「かまミト」を開催し、『かまいたちの知らんけど』(MBS)に見取り図がゲスト出演するなどつながりは深い。

こうした関係性によるコンテンツが、今のお笑い界のトレンドと言えるだろう。平成ノブシコブシ・吉村崇は、「2000年初頭からテレビの戦術が変わりました」と語る。

「かつては個人戦でした。ダウンタウンさん、とんねるずさん、ウンナン(筆者注:ウッチャンナンチャン)さんっていう個人戦。圧倒的な武力を持った人が平定して天下を治めた。(筆者注:そのほか、明石家)さんまさん、(筆者注:ビート)たけしさん。これが複雑化してきまして集団戦になりました。(中略)『僕がウケるっていう代わりにあなたもウケさせますよ。だから次、私にもチャンスくださいよ』っていう、人数が多い中でのギブアンドテイクみたいなことになっていくっていうような時代」(YouTubeチャンネル「Aマッソ公式チャンネル」の動画「芸人がスベると発症する症状とは!? 熱血テレビ塾 #3【ノブコブ吉村】」より)

バラエティーの脇を固め、様々な番組を渡り歩いてきた吉村だけに説得力が違う。現在、このシステムは多くのメディアの主力コンテンツとなっている。今後さらに強度を増し、関係性を軸とする番組が支持されていく気がしてならない。

ライター/お笑い研究家

2001年から東京を拠点にエモーショナル・ハードコア/ポストロックバンドのギターとして3年半活動。脱退後、制作会社で放送作家、個人で芸人コンビとの合同コント制作、トークライブのサポート、ネットラジオの構成・編集などの経験を経てライターに転向。現在、『withnews』『東洋経済オンライン』『文春オンライン』といったウェブ媒体、『週刊プレイボーイ』(集英社)、『FRIDAY』(講談社)、『日刊ゲンダイ』(日刊現代)などの紙媒体で記事執筆中。著書に著名人6名のインタビュー、番組スタッフの声、独自の考察をまとめた『志村けん論』(朝日新聞出版)がある。

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