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沢田研二inさいたまスーパーアリーナは「ロック第一世代」のリベンジだった【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
沢田研二LIVE2022-2023『まだまだ一生懸命 PARTⅡ』公式サイト

 東京スポーツ紙の「オジサンに贈るスージー鈴木のヒット曲講座」と連動して、最新ヒット曲の中から、毎月「レコード大賞」を決める連載ですが、今回は特別編として、ある意味「最古」のヒット曲の話をします。

 6月25日(日)、さいたまスーパーアリーナで行われた沢田研二のバースデーライブ「まだまだ一生懸命」について書きます。ちなみに、この日は、沢田研二が75歳となる誕生日でした。

 19000枚のチケットが完売、満員の中で行われたライブは三部構成。

 第一部は、ザ・タイガースの同志、岸部一徳、森本太郎、瞳みのるをバックに、雑談を交えたリラックスした雰囲気の中、沢田研二が虎の着ぐるみ(!)をまとって歌うタイガース・ヒット曲コーナー。第二部は逆に、MCはほとんどなし、ソロ時代のヒット曲+最新曲をがんがん歌う。

 しかし私が特にシビれたのは、第三部、つまりアンコールでした。ア・カペラの「河内音頭」(!)から、再度、岸部一徳、森本太郎、瞳みのるを呼び寄せ、『タイム・イズ・オン・マイ・サイド』『ドゥ・ユー・ラヴ・ミー』『サティスファクション』という、彼らがアマチュア時代から親しんだ洋楽曲のカバー。そして最後はタイガース『ラヴ・ラヴ・ラヴ』で締め。

 とりわけローリング・ストーンズのカバー『サティスファクション』がよかった。その時点で、ライブ開始から約3時間経っているにもかかわらず、75歳が快活に歌い・動き・シャウトする。

 さて、今回のライブは、2018年に起きた例の「さいたまスーパーアリーナ・ドタキャン騒動」の「リベンジ」として報道されました。事実、沢田研二自身も、ライブの冒頭で「おかげさまで完売いたしました!」と叫んだのですが。

 しかし私は、「ロックンロール第一世代」としての沢田研二によるリベンジのように感じたのです。ローリング・ストーンズをリアルタイムで聴いて、リアルタイムでカバーした世代のリベンジ。

 17歳の沢田研二が、タイガースの前身「ファニーズ」に入ったのが、1966年の元日(第三書館『10 YEARS, ROMANCE ザ・タイガース写真集』)。京都の悪ガキ5人組が好んで演奏したのが、ローリング・ストーンズでした。

 ちょっと余談ですが、一般には「GS(グループサウンズ)=ビートルズ」という連想が強いのですが、実際はむしろ「GS=ローリング・ストーンズ」だったという指摘があります。近田春夫『グループサウンズ』(文春新書)より、近田と瞳みのるとの会話。

近田春夫:GSはビートルズに影響を受けたという説が支配的だけど、GSのライブでは、ビートルズのカバーを演奏するのってあんまり観たことがない。

瞳みのる:ノリがよくないんだよね。「サティスファクション」(1965年6月)、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」(68年5月)、「ペイント・イット・ブラック」(66年5月)といったストーンズのナンバーは、とにかく盛り上がる。やってるこっちも楽しいしね。

 それから。ファニーズは関西出身という理由で「ザ・タイガース」に改名させられ(沢田研二「いやだよ、こんなの、てみんな言ってたね」~上掲『10 YEARS, ROMANCE』)、ロックンロールではなく歌謡曲っぽい短調の曲を強いられ、人気沸騰で忙殺される中、メンバーの人間関係もほころび、GSブームは完全に退潮、1971年にタイガースは解散。萩原健一らと次に組んだバンド「PYG」も盛り上がらず、ソロに転じて大成功、独立独歩でライブ活動を続けながら、今に至るも――。

 長く沢田研二を観続けて思うのは、バンドという形態への彼のこだわりです。強いこだわりがなければ、「♪怒りに顔をひきつらせ 去っていったあいつ」(タイガースのメンバーのことか?)や、「♪野次と罵声の中で司会者に呼び戻された にがい想い出のある町」(PYGのことか?)という歌詞の『いくつかの場面』(作詞:河島英五)という曲で感極まったりはしないはずです(1975年のレコード音源や、2008年の東京ドーム『人間60年・ジュリー祭り』で、彼はこの曲を泣きながら歌っています)。

 そして、沢田研二がこだわったバンド像の中核にあり続けたのが、タイガース、いやファニーズだったような気がするのです。

 という沢田研二が、ファニーズ加入から57年、タイガース解散から52年経って75歳となった今、あの頃のバンド仲間と一緒に、驚くほどの大観衆を前に、『サティスファクション』をカバーするという奇跡。まさに「ロックンロール第一世代」のリベンジ、ここに完結。

「ラジオで聴いた『サティスファクション』のイントロ、あの音、どうやって出すんやろ?」

「♪ジッジージジジー、あれなぁ、アンプのボリューム目いっぱい上げるんやろか?」

 京都の三条大橋を歩きながら、そんな会話をしている痩せっぽちの彼らに、「今から57年後、約2万人の前で、君ら『サティスファクション』やるんやで」って教えてあげたいと思うのです。

  • Time Is On My Side/Norman Meade
  • Do You Love Me/Berry Gordy Jr.
  • (I Can't Get No) Satisfaction/Mick Jagger and Keith Richards
  • ラヴ・ラヴ・ラヴ/作詞:安井かずみ、作曲:村井邦彦
  • Jumpin' Jack Flash/Mick Jagger and Keith Richards
  • Paint It, Black/Mick Jagger and Keith Richards
  • いくつかの場面/作詞・作曲:河島英五

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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