あなたは理解できる? あの「ジップロック」とBEAMSコラボがヒットした理由

イメージヴィジュアルのモデルは、女優の永野芽郁。 写真提供:ビームス

8月15日に発売した、ビームスと「ジップロック(Ziploc)」のコラボレーションが話題だ。発売から1ヶ月が経とうとしているが、日本のメディアはもちろん、米NBCの朝の看板番組「Today」で取り上げられるなど、海外メディアが取り上げるほどにまでなり、「ツイッター(Twitter)」上では日本語と英語による感想が混じり合っている。SNS上では「あれ本当に存在するんだ…ネタかと思ってた」という驚きの声をはじめ、「誰か買うの?着るの?」という感覚を理解できない男性の声、「くそかわいくない?めっちゃ可愛いんだけど」といった女性の肯定的な声が目立った。

 写真提供:ビームス
写真提供:ビームス

傘 9200円/トートバッグ 1万1000円/リュックサック 1万3000円/ウエストポーチ 8800円/キャップ 9000円/ポーチ 各1200円/サコッシュ 各1800円/エプロン 1万円/サンバイザー 8400円(すべて税別)

アイテムは全9型。「ジップロック」のロゴや配色をベースに、トートバッグやサコッシュ、エプロン、キャップなどに落とし込んでいる。価格は1200円~1万3000円まで。広報に売れ行きを問い合わせると「販売数は非公表だが、発売直後に初回販売数量が完売するアイテムも出るほど好評を得ている。一番人気はウエストポーチ。サコッシュやポーチといった取り入れやすい低価格帯も次いで人気」だと言う。

一見すると話題性だけにみえるが、そこにはファッション業界やトレンドの流れによる売れる“理”が見え隠れしているように感じる。そこで今回はいくつかの要因からヒットの理由を考察するーーー。

「元より価値の高いモノを」- アップサイクルという考え方

BEAMSの倉庫に眠るオリジナル商品のデッドストック品を中心に、手仕事によるリメイク手法を用いて、新たな価値を持った1着へと甦らせている 写真:「ビームス クチュール」公式サイト
BEAMSの倉庫に眠るオリジナル商品のデッドストック品を中心に、手仕事によるリメイク手法を用いて、新たな価値を持った1着へと甦らせている 写真:「ビームス クチュール」公式サイト

今回のコラボレーションは、アップサイクルとハンドメイドをコンセプトに掲げる「ビームス クチュール(BEAMS COUTURE)」と旭化成ホームプロダクツの「ジップロック」がコラボレーションしたもの。ハンドメイドは文字通りだが、アップサイクルという言葉は耳慣れない人も多いだろう。アップサイクルとは、従来から行われてきたリサイクル(再循環)とは異なり、単なる素材の原料化、その再利用ではなく、元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すことを最終的な目的とするサスティナブル(持続可能)なものづくりの新たな方法論のひとつである。一見、無鉄砲な組み合わせにも見えるがこのようなブランドコンセプトに裏付いている。

笑える演出を本気でやりきる姿勢

朝ドラ『半分、青い。』のヒロインで注目を集めている永野芽郁は、俳優の松尾諭と一緒に海外通販番組のMCのように商品を紹介する「BEAMS テレビショッピング」に出演したり、世界観たっぷりのファッションシューティングを行った。その他にも新宿店のウィンドウを「ジップロック」風に変えるなど、いずれもファッションブランドとは思えない、思わず笑ってしまう演出だが本気でやりきる姿勢が伝わってくる。そのため「笑えるけど、なんかいい」という、不思議な感情が生まれる。

90年代、PVC素材のトレンドが後押し

男性女性問わず人気を集めるサコッシュ。 写真提供:ビームス
男性女性問わず人気を集めるサコッシュ。 写真提供:ビームス

2018年、日本は90年代ブームが目覚ましい。安室奈美恵を筆頭にした音楽業界をはじめ、映画業界でも90年代のギャルカルチャーをどっぷりと取り入れた『SUNNY 強い気持ち・強い愛』が公開されるなど、さまざまな業界で90年代カルチャーが盛り上がっている。そういった中、ファッション業界も90年代当時流行った物が復刻したり、形を変えて人気を博している。中でも顕著なのがPVC素材を使ったアイテム。原宿のストリートシーンでは「FR2」や「ビューティフルピープル(beautiful people)」、「nana-nana(ナナ-ナナ)」といったブランドのPVCサコッシュ(ショルダーバッグ)が人気だ。中には1ヶ月で1~2万個ほど売れているブランドもあるほど。こういった時代の流れも要因の一つと言えるだろう。

生活雑貨を取り入れた発想力

昨年、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」が「イケア(IKEA)」のショッパーに似たバッグを発売して話題になったことがある。非日常的な価格(約23万円)の「バレンシアガ」と日常的な価格(約100円)の「イケア」バッグ、このコントラストが世間に刺さった。この時はコラボアイテムではなかったが、「イケア」側が見分け方を伝えるユニークな広告を出したり、10月のハロウィーンで「イケア」のバッグを解体して衣装にしてしまう強者など、世界中が話題に便乗した。

今回のビームスは正式なコラボであるが、この時に近い構図がある。「バレンシアガ」ほどではないものの、バッグやリュックなどが約1万円と非日常的な価格と数百円程度で手に入る日常的な価格。「バレンシアガ」の時同様に「欲しいけど高い」「私でも作れる」といった声や本当に真似て「ジップロック」と金具を組み合わせてポーチを作ってしまう人も出てきた。

なぜ「ジップロック」なのか?

実際に「ジップロック」が使われているメイク道具やスマホを入れた使い方を再現。 写真:筆者撮影
実際に「ジップロック」が使われているメイク道具やスマホを入れた使い方を再現。 写真:筆者撮影

そもそも、なぜ「ジップロック」なのか?確かに、「ジップロック」は食品を保存するための本来の役割以外にも、風呂の中でスマホを使うために入れたり、メイク道具や薬、名刺などを入れてポーチとして使っている人も多い。最後に、どのようにして商品が生まれたかを「ビームス クチュール」の神田恵介クリエイティブ・ディレクターはこう語っている。

使っていた財布が壊れて、家にあったジップロックにお金や領収書をつっこんで使っていた時期があった。いつもは冷蔵庫の中に佇むピンクとブルーのラインをそっと取り出し、ポケットに忍ばせて街に出てみると、ファッション特有の高揚感がそこに。使っていくうちにカードやスマホ類も入れたくなってポケットを縫い付けたり、取っ手を縫い付けてバッグにしてみたり。周りからは、それどこに売ってるのと聞かれるほどに。あれから時が経ち、ビームスさんとの取り組みとしてオフィシャルな形で世に出せるなんて思ってもみなかった。だからファッションは面白い。すべての関係者のみなさまに心から感謝します。

出典:ビームス プレスリリース

このように日常のちょっとした延長に生まれた商品だということがこの言葉からも読み取れる。ここまでファッション業界の流れやトレンドをもとにヒットの理由を探ったが、本当に人の心を動かす物作りはロジックから生まれにくい。もしかしたら、あなたの身の回りにも世界を変えるヒントが隠されているかもしれないーーー。