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井上尚弥、フルトンの未来の対戦相手候補? Sバンタム級新鋭がテストマッチに快勝

杉浦大介スポーツライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

9月4日 ロサンジェルス 

クリプト・ドットコム・アリーナ

スーパーバンタム級10回戦

ライース・アリーム(アメリカ/32歳/20戦全勝(12KO))

3-0(100-89x3)

マイク・プラニア(フィリピン/25歳/26勝(13KO)2敗)

ポイントリードでも、最後まで攻め抜いての勝利

 スーパーバンタム級の世界ランカー対決はアリームの独道場になった。

 2回に微妙な裁定ながら軽いダウンを奪った黒人ボクサーは、スキル、スピードを生かして楽々とペースを掌握。スムーズなアウトボクシングでワイルドなプラニアに付け入る隙を与えず、着々をポイントを積み重ねていった。

 最終回には左フックでタフなプラニアにダメージを与え、ストップ寸前に追い込む見せ場も作った。

 「初回だろうが最終回だろうが気にしないし、採点上でリードしていても関係ない。相手をストップしたかった。ただ、彼は危険な選手だから、落ち着きを保たなければいけなかった」

 本人の言葉通り、すでに十分なリードを保ちながら、それでも最後まで攻め抜いた積極性はファンに好印象を残したはずである。

 試合前、“Aサイド”のアリームが優位とみなされてはいたが、11連勝中のプラニアは危険と見る関係者も少なくなかった。

 フィリピンの強打者は2020年6月、トップランクがラスベガスのMGMグランドに作り出した“バブル”で当時バンタム級のWBOランキング1位だったジョシュア・グリーア Jr.(アメリカ)から2度のダウンを奪って判定勝ちを収めていた。1階級下のランカーが相手だったとはいえ、そんな実績のある選手にフルマークで完勝したのだから、試合後、その端正なボクシングがリングサイドで高く評価されたのも当然だろう。

世界タイトル初挑戦へ そして井上と絡む可能性も

 「次はフルトンと戦いたい。望んでいるのはその試合だけだ」

 32歳とプロスペクトとしては高齢の無敗ランカーはそう語り、WBC、WBO王者スティーブン・フルトン(アメリカ)への挑戦を熱望していた。

 昨年1月、一度はWBA暫定王者になったが、WBAの方針でタイトルはすぐに消滅。真の王座挑戦に機は熟したのかもしれない。WBAスーパー、IBF王者MJ・アフマダリエフ(ウズベキスタン)ではなく、フルトンを望む背景には、同じPBC傘下でマッチメイクが容易なことと同時に、フルトンこそが階級No.1だという思いがあるのだという。

 「フルトンは世界チャンピオンで、もう複数回防衛してきた選手。階級最強になるためには、最高の選手に勝たなければいけない。彼に初黒星を擦りつけられると信じているよ」

 フルトンはアフマダリエフとの4団体統一戦を希望しているだけに、アリームの早期挑戦が実現するかは定かではない。対戦が成立したとして、スキル、スピードだけでなく、耐久力、身体の強さも備えたWBC、WBO王者の攻略は容易なことではないはずだ。とはいえ、2020年以降はPBCのサポートを得てきたアリームも注目に値する素材であることは事実に違いない。

 この階級には近い将来、バンタム級での仕事を終えたWBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)が上がってくることが確実だ。プロモーターの関係でマッチメイクはトリッキーだが、アリームが今後、何らかの形で井上と絡む可能性はゼロではないはずである。

 「“モンスター”は凄い選手だ。僕はノニト(・ドネア)とよくスパーリングして、多くを学んできた。(井上は)最近、ノニトを倒した。評価の高い選手だから、僕の階級まで上がってくるのであれば戦うのは問題ではないし、勝ってみせる」

 無敗のスーパーバンタム級コンテンダーは、フルトン、アフマダリエフ、そして井上に脅威を感じさせる選手になっていくのかどうか。

 世界王者レベルかどうかはまだ未知数。ただ少なくとも、王者以外に主だった人材が少なく、“トップヘビー”と呼ばれてきたスーパーバンタム級において、無敗のスピードスターが歓迎すべき人材であることは間違いないだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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