「今季の大谷翔平はすごい数字を残す」メジャーのベテランスカウトが語る
2021年、MLBを席巻した大谷翔平の活躍は時を超え、球史の重要な1ページとして語り継がれていくはずだ。メジャーでの最初の3年はアップ＆ダウンも多かった大谷のこれほどの爆発は、なぜ可能になったのか。そして、2022年以降も継続できるのか。そんな疑問を解き明かすために、現在も現役として活躍する某メジャー球団の大べテランスカウトに意見を求めた。
この人物はすでに50年以上の長きに渡り、全米、いや、世界中でスカウト活動を展開し、獲得した選手の中には殿堂入りを果たした選手も含まれている。現在はある強豪チームのGM特別アドバイザーという立場であり、「ほぼ毎日、１日３〜5時間、所属チームのGMと電話で話している」という。
そんな多忙な日々の合間を縫い、今回のインタヴューは匿名を条件に受けてもらった。匿名ということもあって、正直な声を聞くことができているはずだ。
完全開花を可能にした要因とは
大谷がとてつもない才能を持った選手なのは明白ではあっても、長年このスポーツを見てきた私は、MLBで二刀流をハイレベルでこなすことはほとんど不可能だと思ってきた。トレーニング方法が確立された現在のメジャーリーグにおいて、投手としての準備、野手としての練習の中身は大きく違うからだ。
大谷の打者としての出場機会はほぼすべてDHだとしても、メジャーリーグの野手は打撃練習に多くの時間を費やすもの。その上でピッチングの調整をすることなど到底無理だと思った。これまでにもマディソン・バムガーナーのように打力のある投手は出てきたが、投打の両方をやり遂げるという選択肢は存在しなかった。
付け加えると、二刀流をやれば故障のリスクは２倍、いや、同時に両方をこなすことで２倍以上になる。現に大谷はすでに右肘にケガを負い、2018年にはトミー・ジョン手術を受けている。
私は大谷の能力を高く評価してきたつもりだが、それでも二刀流での成功が難しいと考えた背景にはそういった要素があった。ただ、昨季の大谷はそんな私の悲観的な予測を軽々と凌駕してしまった。その働きは超人レベルだった。日本人選手に例えるなら、野茂英雄とイチローや松井秀喜を合わせたようなもの。これほどの強さと身体能力を兼ね備え、心身両面でタフな選手が現れたことには驚嘆せざるを得ない。
大谷は昨季、ついにメジャーリーグへのアジャストに成功したのだと思う。“ゲームがスローダウンする”という形容がある。適応を進めた選手にとって、ゲームがよりやり易いものになるという意味で、大谷の場合もアメリカで二刀流をこなし、負担を少なくするための準備、リズムが確立されてきたのだろう。
巨大な注目、期待を浴びて渡米し、当初はやろうとしすぎていたところがあったはずだ。そこから徐々に適応を進め、具体例を挙げるなら、昨季はフィールドでの打撃練習をやめたという事実にも工夫が見える。それと同時に、メジャーリーグではどんな投手、どんな打者と対戦し、それらの選手たちはどういった長所、短所を持っているかを肌で感じることも大切だったはずだ。また、遠征先ではどんなホテルに泊まり、どのレストランに食事に行くとか、どこで買い物をするとか、そういった要素も重要だ。
MLBで活躍する選手たちは、実力を向上させ、成熟していくだけでなく、能力を発揮するための土台作りも進めていかなければいけない。大谷の場合、そのために４シーズンが必要だったということ。故障離脱も経験したし、外国人選手でもあるのだから、全開までにこれだけの時間を要したのは驚きではない。
地球上でNo.1のベースボールプレーヤー
去年、そうやって適応を成し遂げたのであれば、2022年も好成績が十分に期待できる。もちろんメジャーリーグでの戦いはアジャストメントの繰り返しであり、相手も大谷対策を練ってくることは間違いない。ただ、大谷は昨季中に、打者を打ち取るために常に全力投球する必要がないことを知った。打席ではマイク・トラウト、アンソニー・レンドーンといった主力打者が不在で援護がない中でも平常心を保ち、１年を通じて好成績を残せることを証明した。
そんな大谷にとって怖いのは、ケガだけだろう。先ほども話した通り、二刀流をやる限り、故障のリスクは常につきまとう。他の選手よりも多くの筋肉を使い、多くのことをこなすのだから、いつ異常が発生してもおかしくはない。それでも少なくとも現時点での大谷は両方を完遂できると信じていて、一流のアスリートというのは恐れを知らないものだ。
昨季同様、大きな故障され避けられれば、年齢的にも今がピークの大谷がMVPを獲得した昨季と同じか、昨季以上の成績を残さないと考える理由は見当たらない。トラウト、レンドーンが戻ってくるのだから、相手投手はもう大谷との勝負を避けられず、それは間違いなく好影響を及ぼすはずだ。私は個人的にも今季の大谷はすごい数字を残すと考えている。
総合的に見て、大谷は現在、地球上でNo.1のベースボールプレーヤーだろう。もっと打力のある選手はいるし、もっと良いピッチャーもいる。ただ、トータルでは大谷がNo.1だ。これほど総合力の高い選手は記憶になく、盛んに言及されている通り、ベーブ・ルースとの比較は大袈裟ではない。超人的な能力という意味で、1980~90年代にMLB、NFLの両方でスーパースターになったボー・ジャクソンに比肩し得るのかもしれない。
