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ニックスの補強は適切だった? 停滞中の名門の今と未来をベテランスカウトが分析

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 昨季は41勝31敗でイースタン・カンファレンス4位に入ったニューヨーク・ニックスだったが、今季は1月12日の時点で21勝21敗と停滞している。

 昨季の最優秀コーチに選ばれたトム・シボドーHCに率いられ、ジュリアス・ランドル、RJ・バレットを軸とするチームに何が起こっているのか。オフにケンバ・ウォーカー、エバン・フォーニエを獲得した補強策は適切ではなかったのか。

 今回、イースタン・カンファレンス某チームのベテランスカウトにニックスの分析を求めた。このスカウトが所属するチーム名は明かせないが、匿名であるがゆえに、正直で大胆な意見が聞けるはずだ。

昨季比でディフェンスが悪化

 今季のニックスはイースタンで7〜10位のチームだ。昨季と比べ、加齢し、よりスローになった。レジー・ブロックを引き留めず、ウォーカー、フォーニエを加えたのであれば、つまりオフェンス向上のためにディフェンスを犠牲にする決断をしたということ。プレーオフでアトランタ・ホークスに完敗した後、チームにとってその方向性が適切だと思ったのだろう。ただ、私は同意できなかった。

 ウォーカー、フォーニエはどちらもオフェンス面で実績があり、今でも時に高得点をマークできる。その一方で、この2人はともにペリミターの守備力に難がある選手たちだ。ニックスのデータ分析の人間は「昨季、ウォーカーはカイル・ラウリー(マイアミ・ヒート)よりも奪ったチャージの数が多かった」なんてスタッツを重視したのだろうが、そんな数字は実際の守備力には必ずしも直結しない。向かってくる相手に身体を張れるのは素晴らしいが、かといってサイドに動く選手に対応できるとは限らない。

 昨季、勝率5割に終わったボストン・セルティックスは、ウォーカー、フォーニエとの再契約は望まなかった。それらの選手と複数年契約を結んだことは解せないし、ニックスのフロントオフィスの人間が、実際にセルティックスでプレーする彼らを見ていたのかすら私にはわからない。

1月6日のセルティックス戦では41得点を挙げるなど爆発力のあるフォーニエだが、ディフェンスの貢献度は疑問が残る
1月6日のセルティックス戦では41得点を挙げるなど爆発力のあるフォーニエだが、ディフェンスの貢献度は疑問が残る写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

プレーイン・トーナメントを免除される順位は微妙か

 イースタン・カンファレンスは全体に層が厚くなっている。ホークスがこれほど下降するとは予想できなかったし、クリーブランド・キャバリアーズ(キャブズ)がこここまで急速に向上するとは思わなかった。キャブズに関しては、今後もプレーオフ争いに踏みとどまると見ている。ジャレット・アレンは上達し、エバン・モーブリーも本当に良い選手だ。チームの足を引っ張る存在になり得たコリン・セクストンが故障離脱したこともプラスに働いている。

 おかげでポストシーズンの座席争いはより激しいものになる。ミルウォーキー・バックス、ブルックリン・ネッツ、シカゴ・ブルズ、ヒートはプレーオフ当確。フィラデルフィア・76ers、キャブズがその後に来る。

 シュート力のあるシャーロット・ホーネッツも大崩れはないだろうし、だとすればニックス、セルティックス、ワシントン・ウィザーズがプレーイン・トーナメントが免除される6位以内に食い込むのは容易ではないはずだ。

 聡明なニックスのある職員は、実は昨年8月の時点で「私たちは7〜10位くらいで苦しむことになるかもしれない」と予想していた。ニックス内でもチームの方向性に関して意見の相違があり、その人物は実際に断行された補強策には反対だった。

 ご存知の通り、シボドーHCはディフェンス重視のコーチだから、私はシボドーもウォーカー、フォーニエとの契約には反対だったのではないかと考えている。当初は“辛抱強いチーム作り“を標榜しておきながら、昨夏の時点でキャップスペースを使ってしまったことも理解できなかった。

チーム内のNo.2はデリック・ローズ?

 これから先も、ランドル、バレットがチームの中心になっていくのだろう。ただ、ランドルは昨季と比べてパフォーマンスが落ちているし、バレットはシュート力が不安定なために好不調の波が激しい。

 将来が楽しみな若手もチーム内に多いわけではない。クエンティン・グライムズ、マイルズ・マクブライドは良い選手だし、イマニュエル・クイックリーも良いが、彼らは控えが適任の選手たちだ。オビ・トッピンの身体能力はとてつもなく、ダンクコンテストで優勝できるかもしれないが、それを実戦に役立たせられるかはまだ示されていない。ミッチェル・ロビンソンはケガが多いために信頼感に欠け、スタミナ不足だ。

 そうなってくると、現在は故障離脱している33歳のデリック・ローズがいまだにチーム内でランドルに次ぐNo.2のプレーヤーかもしれない。それでもシボドーHCの指導力で勝率5割には持って来れるかもしれないが、それ以上を狙うには、タレントが明らかに不足している。

ニックスに必要な選手

 今日、キャム・レディッシュを獲得するトレードが決まった。興味深い補強策だが、どれだけプラスに働くかはわからない。レディッシュは才能、スキルに恵まれた選手であり、フロントがベンチの得点力のテコ入れを図ったのは理解できる。

まだ22歳のレディッシュ(写真はホークス時代のもの)の伸びしろは魅力だ
まだ22歳のレディッシュ(写真はホークス時代のもの)の伸びしろは魅力だ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ニックスが放出したのは期待外れに終わっていたケビン・ノックス(&未来のドラフト1巡目指名権)だけだから、そういった意味でリスクの少ないトレードでもある。ただ、レディッシュはショットセレクションと規律面で疑問が残り、ニックスに合う選手なのかは微妙だろう。

 シボドーのやろうとしていることに綺麗に適応するのは、同じホークスの選手でも、今季開幕直後に故障離脱してしまったディアンドレ・ハンターのような2ウェイプレイヤー(攻守両面で秀でた選手)だ。ハンターは成熟しており、守備面で献身的で、そのプレーは完成されている。今後、ハンターのようにチームにフィットする選手を手に入れる術を見つけない限り、今季のニックスは勝率5割が精一杯ではないか。

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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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